このアパートに住み始めたのは18歳の春、高校を卒業して大学に入学した時だった。父の運転するバンに荷物を詰め込んでの引っ越し。 農村で生まれ育った私には、県庁所在地の地方都市はまるで大都会のように見えた。 両親と高校生の弟と一緒に荷物を降ろし、階段を何度も昇り降りして運び入れた。どうせ4年間しか暮らさないだろうと、炊飯器や電子レンジは中古品。築10年ほどのアパートはまだ新しくてきれいだった。 両親は寮生活を勧めた。私はどうしても嫌で、一人暮らししたいとわがままを言った。父は警察署の近くなら治安も良いからと言ってこのアパートを契約してきた。相場より高い敷金礼金を払ってくれた。 引っ越しを終えた後、家族4人で近くのラーメン屋へ行った。その時に食べたラーメンは人生で一番美味しかった。夜に家族と別れて一人でアパートに寝たときの強烈な寂しさは今でも覚えている。 まさか30年もここで暮らすことになるとは