近ごろよく聞く言説に、 「ドイツは第二次世界大戦での悪行をすべてヒトラーとナチスに押しつけて、ドイツ人自らは潔白だと主張していてずるい」 というようなものがある。 これはあまりにドイツの戦後史と現状に無知な言説であろう。 確かに、1950年代の東西ドイツではそのような主張は行われた。東ドイツでは、「ナチ的なもの」は社会主義化によって一掃されており、ドイツの「ナチ的なもの」を引きずっているのは西ドイツだ、という主張がなされたし、西ドイツでは、たとえば「国防軍潔白論」のような、ナチとドイツの切り離し的な論が幅をきかせていた。 しかしそれは戦後史の前期の話である。 1980年代から、「ナチを非難するのはいいが、それではその時ドイツ国民は何をしていたのか。ナチを熱狂的に迎え入れたのはドイツ国民ではないか」という反省論が、実証的な歴史研究者を含めた西ドイツの各層から生まれる。 そのきっかけになったの