史上最遅のマラソン・ランナーがゴールしたのは、スタートしてから54年8ヶ月6日5時間32分20秒後だった。 ランナーの名は金栗四三。 1912年(明治45年)に開催されたストックホルム・オリンピックの日本代表であり、日本人初のオリンピック選手のうちのひとりである。 金栗は、その前年、オリンピック代表を決めるマラソンの予選会に出場し、当時の世界記録を27分も縮める大記録を出して出場を決めた、日本期待の星だった。 つまり、日本初出場のオリンピックで、いきなり金メダルをも狙える逸材だった。 しかし、その当時、極東の島国からオリンピックへ出場することは、現在では想像もできないほど、大変な事だった。 まず日本からスウェーデンへ向かうには、20日かけての船と列車の旅をしなければならなかった。 さらに、夏のスウェーデンの夜は明るいため、睡眠にも支障があった。 食事面でも、当時はスウェーデンで日本食が食べ
