「主人公の過去と現在を対比させるような話が好きです」と答える。この作品はその最たるものだ。 月日が経つにつれて変化する主人公の心情が描かれた作品は面白い。爽やかな装丁で、文体も重すぎず、されど哀しい過去を背負った主人公の行方が気になる。そして、絶妙なポイントでハッとさせるような台詞を登場人物に喋らせる。作中を通して思想家の独白になりがちな白石一文の作中と違って、大崎善生の作品は誰にでも読み始めやすく、それでいて思いのほか内容が詰まっているのだと思う。でなければ、そんなにストーリーがあるわけでもないのに、本棚に置いておく気になるはずがない。 自分にとっては好評でも部数を伸ばしていないのは、クライマックスの場面以外に醸し出される無気力な雰囲気や、あっさりし過ぎる一方で巻き起こる突拍子もない展開が気に入らない人がいるからだろう。かくいう私も、他の作品と異なり大崎善生の名作「パイロットフィッシュ」