「しゃぶしゃぶを食べながら考えたSEKIRO風バトル」。謎のSteam日本風ゲームは、「日本からヨーロッパに行ったくノ一が、縄とかで死んで蘇って戦うえぐい難易度のゲーム」らしい。日本を勉強して作ってるとのこと

デベロッパーのFalse Prophetは『BANSHEE: Demon Girl』を発表した。対応プラットフォームはPC(Steam)。くノ一がヨーロッパにいって死んで蘇って戦うという謎のソウルライク。ルーツを訊いた。

デベロッパーのFalse Prophetは『BANSHEE: Demon Girl』を発表した。対応プラットフォームはPC(Steam)。『BANSHEE: Demon Girl』はソウルライクゲームにインスパイアされた、一人用のステルス・アクションゲームだ。本作の主人公はくノ一だという。しかしながら、ゲームの世界観は西洋風味。しかも釣責や経文があるほか、Steamストアページ内には「えぐい難易度」「Japanese Inyo Vampire」といった怪しげな文言が並んでいる。いったいどういうゲームなのか?開発者に訊いてみた。

──自己紹介をお願いします!

Piotr Pacynko氏:
インタビューにお招きいただきありがとうございます。ディレクターのPiotr Pacynkoです。ゲーム業界での経験は9年ほどで、それ以前は広告業界で働いたり、映画監督をやったりしていました。ポーランド出身の高名な映画監督、アンジェイ・ワイダ氏と一緒に仕事をしたこともあるんですよ。私もワイダ氏も、黒澤明氏の作品を敬愛しているという点で共通していました。

学生時代は行政法を専攻し修士号を取得したほか、グダンスク大学で博士課程の学生として歴史を学んでいました。またWarsaw Game Dev Schoolも卒業しており、そこではゲームデザインおよびゲームのプロダクションについて学びました。ゲーム業界ではナラティブデザイナーとしてキャリアを積んでおり、Bloober Teamにて『The Medium』の制作に携わったほか、CI Gamesではリードナラティブデザイナーとして、『Sniper Ghost Warrior 3』と『Sniper Ghost Warrior Contracts』の開発に関わりました。そして自らのスタジオとして、False Prophetを立ち上げたかたちです。

Col Walder氏:
Col Walderです。『BANSHEE: Demon Girl』のコンポーザーを務めています。私は2006年よりAAAタイトル開発の現場で働いており、たとえば『グランド・セフト・オートV』『レッド・デッド・リデンプション2』『ウィッチャー3 ワイルドハント』『サイバーパンク2077』といった作品に関わってきました。職務としては主にオーディオプログラマーを務め、音響分野の技術面を担当してきました。

現在はCD PROJEKT REDでオーディオプログラマーとして働きながら、本作『BANSHEE: Demon Girl』のために曲を書いています。自分自身でゲームの曲を作るのは、私にとって新たな領域での挑戦ということになります。私は日本文化の大ファンで、実はこれを書いている今も、通算8回目となる日本での滞在中です。日本をモチーフとした作品で自分の曲を作れることになり、夢がかなったような気持ちでいます。

Piotr Pacynko氏:
False Prophetはポーランドに拠点を置いているゲームスタジオで、2019年に私が友人らとともに設立しました。インディースタジオとして、より成熟したゲーマー向けにダークで高難度かつ高品質な作品の制作に取り組んでいます。昨年、ターン性の戦術RPG『BEAST: False Prophet』をセルフパブリッシングし、Steamにて早期アクセス配信中です。現在は新作となる『BANSHEE: Demon Girl』を開発しており、同作をまずPC向けに早期アクセス配信を開始したのち、最新コンソール向けにリリースする予定です。

我々は16世紀から17世紀ごろのヨーロッパの歴史に関心をもっており、日本の歴史や文化、芸術についても情熱を抱いています。また個人的にダークな作風の作品が好きなので、自分たちのゲームにもそうした要素を取り入れています。「人間のなかにある隠れた獣性は、飼いならすことができるのか?」というのが、当スタジオの作品が追求しているテーマですね。

死んだくノ一が蘇って復讐するゲーム

──『BANSHEE: Demon Girl』はなんというか、和風なようなヨーロッパ的なような……、とにかく雰囲気が不思議なゲームです。つまるところ本作は、どんなゲームなのでしょうか……?

Piotr Pacynko氏:
『BANSHEE: Demon Girl』はシングルプレイ専用の、三人称視点のアクションゲームです。ソウルライクゲームにステルス要素を組み合わせた作品となります。プレイヤーは女性の忍者「くノ一」として、16世紀後期の世界を冒険します。

──くノ一……。

Piotr Pacynko氏:
くノ一です!ストーリーはオープンエンド形式で、復讐がテーマとなっています。恨みを抱きつつ殺された人間が、墓の中から蘇るのです。刀と悪魔的な力を組み合わせたゲームプレイが本作の特徴となりますね。また本作ならではの設定として、主人公のくノ一が冒険するのは日本ではありません。彼女は祖国から遠く離れた、中・東欧の街や城を冒険することになります!


──日本を出た、ヨーロッパでのくノ一の冒険……!

Piotr Pacynko氏:
時代設定としては16世紀後期となり、長く続いた戦国時代もようやく終わりに向かっているところです。日本はヨーロッパに最初の使節団を送り、彼らはローマ法王に謁見するため2年以上かけて船旅に臨みます。くノ一である主人公には秘密の任務が与えられ、芸者に変装して使節団に参加していました。しかし任務の達成を目前に、ある事件によって主人公は命を落としてしまいます。

──死んでしまうんですか!?

Piotr Pacynko氏:
はい。無念を抱きながら死に、適切に葬られもしなかった主人公は成仏できず、彼女の魂は地獄から戻ってきます。そうして、彼女の凄惨な復讐の旅が始まるのです。プレイヤーは何度も死と復活を繰り返しながら、彼女の冒険の顛末を見届けることになるでしょう。

ゲームプレイの面では『BANSHEE: Demon Girl』は高難度のアクションゲームであり、プレイヤーの操作スキルを試します。また一方で、本作は二つの世界の隔たりを描いた作品でもあります。日本とヨーロッパ、あるいは生者の世界と超自然的な世界という対比がされています。

──主人公めちゃくちゃ壮絶ですね!?ちなみに、本作に導入されている「Japanese Inyo Vampire」システムとはなんでしょうか?すごいシステム名です。何をきっかけに考えついたのでしょうか。


Piotr Pacynko氏:
ゲームメカニクスについて考えていたとき、私は東洋的なものと西洋的なものを融合させたいと思っていました。そこで空手や道教について学んでいた時に知った東洋思想の「陰陽」と、ヨーロッパのヴァンパイアを組み合わせることにしました。

多くの人々は、一種の二元論的なものを信じています。光は善いもので闇は悪いものである、常に光の側を歩み闇からは遠ざかるべきだ、というような考え方ですね。自分の理解では、「陰陽」の思想はもっと複雑です。善と悪といった考え方はせず、陰と陽はどちらも、この世界が成り立つために欠かせない役割を果たしているとします。重要なのは両者のバランスです。均衡がとれている状態が理想ですが、適切なバランスを見出すのは極めて難しいことでもあります。

本作のシステムは、そうした陰陽の考え方を基盤としています。陰と陽はそれぞれ、主人公のなかの悪魔的な部分と人間的な部分の象徴です。主人公はさまざまな行動をとることができ、それは彼女を二つの道のどちらかへと誘います。たとえば、本作の主人公は人間の血を吸うことが可能です。ヨーロッパの人々は彼女をヴァンパイアだとみなすでしょうが、彼女にとって血を吸うのは“気”を得るためのひとつの手段にすぎず、べつに吸わなくてもよいのです。陰と陽のバランスを取るのか、あるいは完全にどちらかに振り切って進めるのかは、プレイヤーの決断にゆだねられています。悟りに至る道は人それぞれ、ということです。

──な、なるほど……?わかったような、わからないような。ともかくわかりました!

日本文化を真剣にリスペクト

──くノ一以外にも割と日本的な要素が散見されますね。

Piotr Pacynko氏:
我々は日本の豊かで長い歴史に大きなリスペクトを抱いていますので、日本人に対して日本文化を語るような真似は避けたいと思っています。我々が目指しているのは、史実の人物や出来事を基盤として、我々がよく知るヨーロッパを舞台とした物語を作ることです。本作の日本要素は主に、主人公のキャラクターということになるでしょう。彼女の考え方やしゃべり方、外見や仕草、そして完全に未知の「南蛮人」の文化を目の当たりにした彼女のリアクションを通して、日本らしさを感じてもらえると思います。


──日本文化に対して真面目に向き合ってもらえてありがたいです!

Piotr Pacynko氏:
作中では、ヨーロッパの文化を受け入れキリスト教の洗礼を受けた日本人についても描いています。描写にあたっては「天正遣欧使節記(De Missione Legatorum Iaponen)」の英訳版を参考にしています。同書はイエズス会で教育を受けヨーロッパに赴いた、日本人の4人の少年たちの対話形式の文献です。こうした史料を通して、当時存在した意見や人々のふるまいなどについて学んでいます。

本作は現在も開発中であるため、実際の作品でどこまで踏み込んで描くかについては変更の余地があります。ひとつ言えることがあるとすれば、我々は真摯に、当時のヨーロッパにおける日本人の存在や役割、考え方の違いについて調べているということです。私とライターのMichał Mochockiはグダンスク大学歴史学部と関わりがあり、こうしたつながりは日本在住の専門家と相談しながら調査を進めるのに役立っています。

──すごく勉強されていて驚きました。

Col Walder氏:
ストーリーが日本とヨーロッパの交錯を扱っているため、本作のアート面も双方が混じりあったものになっています。音楽についていうと、日本とヨーロッパ両方の伝統的な楽器を使用して曲を作っています。またなかには、西洋の楽器を使って日本の音階を奏でているような曲もあります。たとえばある曲は「平調子」をベースとして作曲しました。音楽からは日本的な要素を大いに感じていただけると思いますね。

──ちなみに「くノ一と中世ヨーロッパ」という組み合わせは、率直にいってぶっとんでいますよね。発想はどこから生まれたのでしょうか!日本要素はどの程度ありますか?

Piotr Pacynko氏:
ゲームの舞台となるのは、完全にヨーロッパです。当時のヨーロッパに日本のものはほとんど入ってきていなかったため、日本要素はごくごくわずかです。残念ながらおそらくほとんどの西洋人は、日本人が初めてヨーロッパを訪れたのはいつごろか、まったく知りません。そうした西洋が見過ごしてきたけれども、しかし重要な歴史的瞬間というのが、本作の設定の中心となっています。まったく異なるもの同士が交わる瞬間というのは、「陰陽」に通じるところもありますよね。

一方で、まったくヨーロッパ文化を知らない主人公の目を通して、ヨーロッパもまた奇異の目にさらされることになります。他者なしでは己というものは存在しえません。プレイヤーにはこうした文化的なギャップを通じて、自分たちが互いにどれだけ異なっているか気づき、また望めば理解を深め、違いをよいものとして受け入れて、平和的に共存することもできると伝えたいのです。実は本作のこうしたコンセプトは、ワルシャワに住んでいる日本人の友人たちから影響を受けています。彼らは自分たちが影響を与えたことを知らないかもしれませんけどね。もし友人がこの記事を読んでいたら、この場を借りて心からのご挨拶を!

──なるほど。日本要素を盛り込みつつ、ヨーロッパが舞台という軸があると。

しゃぶしゃぶ食べている時に思いついた『SEKIRO』スタイル戦闘システム

──Steamストアページによると、本作が影響を受けたタイトルとして『SEKIRO』『天誅』『紅忍』があげられており、いずれも和風の舞台の作品です。特にどの作品が好きですか。本作は、それらの作品をどのように参考にしていますか。

Col Walder氏:
音楽面についていえば、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下、SEKIRO)から大きな影響を受けています。同作の曲は和風というだけでなく、ホラーの空気をまとっているところが参考になりましたね。また『ゴースト・オブ・ツシマ』の楽曲からも影響を受けています。同作の曲は感情に訴える響きがあり、どこか映画的なところが気に入っています。『Rise of the Ronin』の、日本と西洋が融合した雰囲気の曲調からも影響を受けました。そのほかの作品でいうと、『マリオ』の和風ステージの曲も大いに参考にしています。基本的には軽やかな曲調なのですが、ハーモニーと楽器の編成が非常に優れており、伝統的な日本らしさを表現しつつも巧みにひねりを加えていると感じています。

Piotr Pacynko氏:
もっとも強い影響を受けているのは『SEKIRO』ですね。『天誅』シリーズはしばらく続編が出ていませんが、『SEKIRO』は一種の精神的後継作といえる作品なのではないかなと思っています。前二作に比べると、『紅忍 血河の舞』はあまり知られていないかもしれませんね。約20年前の作品ですが、個人的にはクールなゲームだったと思っています。私はこうした隠れた名作的な作品について思い入れがあり、自分なりに現代に蘇らせたいと思いました。ファンの期待に応えられるよう、隠密と誘惑を駆使してステルスキルを重ねていくような要素は本作にもしっかり取り入れたいと思っています。


──『SEKIRO』からの影響は納得です!ちなみにほかに参考にしたゲーム、映画、マンガなどを教えてください!

Col Walder氏:
今年公開されたドラマ「SHOGUN 将軍」からは多大なインスピレーションを得ています。原作となる作品は何年も前に読んでいたので話はすべて知っているのですが、それでも夢中になって楽しんでいますね。役者、視覚効果、音楽、どれも素晴らしいです。本作『BANSHEE: Demon Girl』は、ちょうど「SHOGUN 将軍」の逆バージョンといえるかもしれません。「SHOGUN 将軍」が英国人の船乗りの目を通して日本文化を描いているのに対し、本作では日本のくノ一の視点でヨーロッパのルネッサンス文化を体験することになりますから。こうした構造上の対比も含め、同作からは多くを学んでいます。

そのほかでは伝統的な日本の音楽を聞いたり、また黒澤明氏の作品の音楽などからも影響を受けています。またヨーロッパ風の舞台を日本人の視点から描いた作品として、アニメ作品も参考にしています。「鋼の錬金術師」が特にお気に入りですね。

Piotr Pacynko氏:
個人的に、私は「ベルセルク」の筋金入りの大ファンです。また2023年公開のアニメ「ブルーアイ・サムライ」もインスピレーションの源になっています。影響を受けている作品はたくさんあるため、すべてをあげるのは難しいですが、たとえば沙村広明氏の「無限の住人」や、吾峠呼世晴氏の「鬼滅の刃」などからはわかりやすく影響を受けています。

アート面でいうと、アートディレクターのMisha Korolenkoは両角修氏の作品から影響を受けており、両角氏がヨーロッパを旅して描いた風景画などを参考にしています。両角氏は現代の人物なので当然本作の時代設定とは違いますが、日本画風のタッチによるヨーロッパの風景という彼の作品は、我々のアートデザインの指針になっています。

そのほかには、我々のスタジオの過去作である『BEAST: False Prophet』からも影響を受けているといえると思います。同作も16世紀ごろのヨーロッパを舞台としているため、本作『BANSHEE: Demon Girl』とは基本的な舞台設定がほぼ共通しています。どのように環境を作り、どう表現するかについては過去作の開発から得たノウハウも大きな要素です。

『BEAST: False Prophet』


──本作はソウルライク・ステルスアクションとのことですが、ステルス要素とアクション要素のバランスはどれぐらいになるでしょうか!すべての敵をステルスキルしたり、あるいは逆にまったく隠れずにクリアすることはできますか。

Piotr Pacynko氏:
注意深く道を探ることで敵に背後から接近でき、致命的な一撃を加えられる作品になることは間違いありません。しかしながら、ほとんどのプレイヤーはあまり隠れたりせず、正面からどんどん戦いを仕掛けていくのではないかと想像しています。現代ではステルス主体のゲームよりも、ダイナミックなアクションの方が好まれる傾向にありますからね。

先日公開したプロトタイプ版が刀での戦闘に焦点を合わせていたのも、やはり近接戦闘が本作の主要要素になるからです。とはいえプレイヤーがどんなスタイルで遊ぶにせよ、主人公がもつ悪魔的な力は攻略に役立ちます。今後はデモ版に少しずついろんな要素を導入していく予定です。

──本作では、音楽と戦闘がリアルタイムでシンクロするという死の舞踏システムが導入されています。興味深いです。同システムのアイデアはどのように生まれたのでしょうか。また開発の際に苦労した点はありますか。

Col Walder氏:
死の舞踏システムは、私とPiotrが一緒にしゃぶしゃぶを食べているときに思いつきました。いろんなゲームの話をしながら夕食を食べるなかで、「『SEKIRO』って実はリズムゲームだよね」というような話になりました。


──しゃぶしゃぶを食べている時に……?一体なぜ……。たしかに『SEKIRO』がリズムゲームな部分があるという意見は同意しますが!

Col Walder氏:
敵の攻撃のリズムを覚えるのが攻略上重要ですからね。そこから発展して、ゲームミュージックとゲームプレイをもっと明確に結びつけられないか、というアイデアが生まれました。曲のリズムを覚えることで、敵との戦いが楽になっていくようなイメージです。

Unreal Engine 5.4に新しく追加されたテクノロジーには、まさにこのようなシステムのための機能が含まれていました。システム面で実現可能なことがわかると、シナリオ面でもぴったりな要素だと思うようになりました。本作の主人公は芸者に扮しているので、曲に合わせて踊るように戦うのは、彼女のキャラクターにぴったりだと感じたのです。アートワークでも、彼女は三味線を持っていましたしね。

Unreal Engineの新機能のおかげで、技術的にもっとも困難な部分は解決済みとして開発にあたることができています。また我々のプログラマーもデモ版のために、アニメーションを先読みできるよう素晴らしい仕事をしてくれました。現在の課題はバトルと音楽を並行してデザインし、それらが完璧に連動するように作り上げることです。これはちょっとダンスに似ているかもしれません。ときにゲームプレイが音楽をリードし、ときに音楽がゲームを先導するのです。調整は複雑な作業ですが、適切なバランスで実装できればゲームプレイに音楽の力が宿り、敵の攻撃にも感情的なエネルギーを感じられるようになるでしょう。

──本作は高難度のゲームプレイとなることが謳われています。『SEKIRO』も相当難しいゲームだったと思いますが、本作は『SEKIRO』より難しくなりますか。

Piotr Pacynko氏:
『SEKIRO』は私の大のお気に入りの作品で、ひとりのゲーマーとして『SEKIRO』の戦闘デザインには感銘を受けています。またゲームデザイナーとしては、「この比類ない素晴らしい戦闘はいったいどのように実現されているのだろう?」と分析し続けており、我々のゲームでも同様の体験をもたらせられるよう努めています。もちろん本作は『SEKIRO』ほど大規模な作品にはなりません。しかしながら、質の面では見劣りしない作品にしたいと思っています。難易度については常にテストし、難しいけれどもフェアである、と感じられる作品になるよう調整を繰り返しています。

──ちなみにタイトルが「バンシー」である理由を教えてください!

Piotr Pacynko氏:
実はバンシーは、開発初期はただのコードネームでした。ですが気に入ったので、今のところは本タイトルでも残しておく方針でいます。本作の主人公は裏切られ非業の死を遂げた後に、この世ならざる存在として復活しました。西洋であれば、ヴァンパイアかストリガ、あるいはバンシーと呼ばれるような存在です。舞台がヨーロッパであるため彼女はそのような名で呼ばれますが、違う地域であれば違う名前で呼ばれることでしょう。ひょっとしたら日本の妖怪のなかにも、彼女のような存在を表すのにぴったりの名前があるかもしれません。ですがバンシーなら西洋人にも主人公がどういう存在かわかりやすいので、本作はそういったタイトルになっています。

開発者が縛るのが好きで入れた釣責、開発者のお手製の経文がある

──ちなみに舞台設定を1500年代後半にした理由を教えてください。戦国時代をキーワードとされていますが、開発チームにとって戦国時代はどういうイメージなのでしょうか。

Col Walder氏:
我々の理解では、戦国時代は争いと変革の時代です。中央政府が統制力を失っていましたが、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康らによって統一され、ふたたび秩序が打ち立てられました。あらゆることが可能だった時代であり、どんな夢にも実現の可能性がありました。豊臣秀吉が良い例でしょう。貧しい農民出身の人間が、関白にまで上り詰めたのですから!英傑たちが活躍した伝説的な時代ですが、一方で戦乱の世ならではの暗さも感じさせる時代です。

Piotr Pacynko氏:
戦国時代はまた、日本とヨーロッパが直接的に交流をもった初めての時代でもあります。史実に基づきつつ日本人とヨーロッパ人の両方が登場するゲームを作りたいなら、これより前の時代設定にはできません。そうでなくては完全に創作のお話になってしまいますからね。16世紀後期にはヨーロッパの影響は日本に及んでいましたが、その逆はほぼありませんでした。そのため本作のキャラクターは、初めてヨーロッパの大地を踏んだ日本人たちということになります。

また開発における現実的な側面からいうと、同時代は調査が楽ということがありました。本作のライターのMichał Mochockiはかつて、16世紀から17世紀のポーランド・リトアニア共和国を舞台としたTRPG『Dzikie Pola』の制作に関わっていたのです。私も同作のプレイヤーで、Michałとは 20年ほど前に同作を通じて知り合いました。本作とは関係ありませんが、我々はポーランド・ゲーム研究協会の非営利の助成金を受けて、新たなポーランド・リトアニア共和国を舞台とするTRPGを作れないか取り組み始めているところです。そういったわけで、16世紀後期のヨーロッパというのは我々にとってなじみ深い舞台なのです。


──なるほど。いろいろ研究した上での設定なんですね。
ち、ちなみに……あの……主人公の全身に書かれているお経みたいな文字はいったい何ですか?

Piotr Pacynko氏:
そうですね、あれは法華経(Lotus Sutra)によく似た経文で、主人公が悪霊を追い払うために自分で書きました。

──自分で経文を!?

Piotr Pacynko氏:
はい、小泉八雲氏原作・小林正樹氏監督の映画「怪談」から影響を受けた要素ですね。個人的な設定としては、この文字のおかげで彼女は死後も理性を失わず、人間らしさを保てているということになっています。彼女がお経を化粧の下に隠している理由や、その真の意味については、本作の早期アクセス版をプレイすることで明らかになることでしょう。

──た、楽しみにしています!ちなみにトレーラーでは主人公が釣責されているのが印象的でした。西洋が舞台なのに、なぜ釣責を……?


Col Walder氏:
ははは、ストーリーのネタばれをしすぎないように気を付けなくてはなりませんね。ごらんのように、主人公は日本式の拷問を受けて殺害されています。彼女がどうして殺されたのか、というのはゲーム序盤の重要な謎となり、進行に応じて明かされていくことになります。

Piotr Pacynko氏:
実は正しい縛り方を表現するのに労力を注いだのですが、誰も気づかないだろうと思っていましたよ。欧米人のほとんどは知らないと思いますが、公式に縄責めを尋問テクニックとして取り入れたのは、日本の警察が世界初なんですよね。今ではこういう縄での縛りは変態的な嗜好のひとつとして、ポーランドでも知られるようになっています。どうして私が縛り方に詳しいかというと、まあ実は、私は縛るのが好きなのです。私だけでなく、チーム内にはほかにも縄の愛好家がいますよ。

──縄縛りが昂じて釣責を入れているの、なかなかパンチ効いてますね。

Piotr Pacynko氏:
話をゲームに戻すと、つまりヨーロッパに来ている日本人は、主人公だけではないということです。いちおうストーリーを推測するヒントだったのですが、本当に気づく人がいるとは思いませんでした。やはり日本人の目はごまかせませんね。断言しますが、“普通の”西洋人は縄の縛り方なんか気にも留めませんよ!

──真面目な話に戻します!和の要素を取り入れたタイトルを発売するにあたり、日本プレイヤーに対してどんなゲーム体験を与えたいと思っていますか。

Col Walder氏:
日本文化に対する我々の情熱が伝わり、本物らしいと感じられるような作品にしたいと思っています。とはいえやはりゲームですので、なによりもプレイヤーの皆さんには楽しんで遊んでほしいですね。斬新でやりがいがあるゲームプレイに挑戦し、キャラクターに親しみをもってストーリーに熱中してほしいと思っています。

Piotr Pacynko氏:
本作には重いテーマと軽いテーマがあります。重いテーマとしては、ポルトガル人とイエズス会が日本における奴隷貿易で果たした役割の暴露であり、ヨーロッパ人としてそのことを恥じる気持ちです。軽いテーマとしては、TikTokで流行っていた#cultureshockというトレンドに、我々なりに乗っかってみたという感じですね。「日本人の女の子がヨーロッパに行ってみた…16世紀の!」とか、「日本人の女の子がヨーロッパに行ってみた…ただし舞台は16世紀で…女の子はアンデッド!」みたいな感じです。

また真面目な話として、我々が日本文化に愛着を抱いているように、日本の皆さんにもポーランドの文化に親しみをもってほしい、ということがあります。たとえば外国の観光客が京都や奈良を訪れたら、着物を着て古い街並みを楽しむことができますよね。ポーランドでも、歴史的装束であるジュパンを着て、カラベラというポーランド式のサーベルを携え、乗馬用のブーツを履いて街の散策を楽しむことができるんですよ。私はポーランドの文化を世界的に広めるためにはどうすればよいか、真剣に考えているのです。サムライやバイキング、カウボーイなんかは世界的に認知されていますが、ポーランド文化はそうではありません。こうした知名度の高い文化をもつ皆さんのことをうらやましく思っています。

──すごく日本文化をリスペクトしてくださっているのはわかりました!ちなみに東京ゲームショウ2024にこられていましたが、どうでしたか。


Col Walder氏:
そうですね、ものすごく楽しくて、猛烈に疲れました!最後のほうは立っているのもやっと、といった状態でしたが、想像よりはるかにたくさんの方に『BANSHEE: Demon Girl』へ興味をもっていただけました。誰もデモを遊んでいない時間というのはほとんどなかったように思いますね。そしてプレイヤーのみなさんからとてもポジティブな感想や今後の開発に役立つフィードバックなど、本当にたくさんのご意見がいただけました。本作はまだ開発の初期段階ですので、こうしたフィードバックは貴重な開発の指針になります。

全体として、とても素晴らしいショーでした。最高のゲームたちに囲まれ、印象的なブースやクールなコスプレイヤーを眺めながら、たくさんのデモに触れることができましたからね。本当にエネルギーに満ちており、空気中に電気が走っているようでした。会場のすべてが大好きになりましたよ。

──楽しかったようで何よりです!最後に、日本のゲーマーに向けてメッセージをお願いします!

Piotr Pacynko氏:
我々は非常に目の肥えた日本のゲーマーたちに、開発初期のデモを遊んでもらうという光栄に浴しました。今後もできる限り多く日本に足を運んで直接フィードバックを集め、作品を期待に見合う完璧なクオリティに磨き上げていきたいと思っています。また来年の東京ゲームショウ2025では、本作の早期アクセス版の展示をおこなう予定です。ふたたびお目にかかれる日を楽しみにしております!

また日本の皆さんには、我らがポーランドを含め、ぜひともヨーロッパにお越しいただきたいと思っています。結局のところ本作のコンセプトは、日本人がヨーロッパを訪れるというものですからね!

──ありがとうございました。発売楽しみにしています。

『BANSHEE: Demon Girl』は、PC(Steam)向けに開発中である。

[翻訳・編集:Akihiro Sakurai]
[聞き手:Aki Nogishi]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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