The Tulpar(タルパ)に所属する5人は、永遠の日没に包まれた何もない宇宙空間に取り残されてしまった。ここには、神の目も届かない。
24/11/21
自分用メモとしてチャプターリスト周りについて追記しました。
Xにてとても気になるビジュアル(目玉ギョロギョロ包帯ぐるぐる乱歩の『芋虫』状態の人間がこちらを見ているキャプチャ)と共に発売を知り、気付けば超人気タイトルとなっていた本作。複数の友達から「絶対に好きだからやってみて~」とオススメをもらっていたので、積みゲーの山を横目に見ながら先にプレイしてみました。
とにかく積みゲーが多すぎるんですが、まだ見ぬゲームとの出会いは求め続けていきたいのでオススメ作品随時募集中です。コメントでもこのブログについてのページ内からでも教えていただけるとさいわい(プレイできるのはいつになるか不明ですが……)
切っても切ってもどこからも全編好きな味がする!!
全体から放たれる雰囲気からもわかる通り、大体ずっと嫌な事しか起こらないんですけどね。
あんまりにも感情をメチャクチャにされてしまって勢いでsteam背景を交換したりなどしました。
降り注ぐマウスウォッシュ。
実績もPSを要しそうな2つ以外は達成。
この感想をまとめながらチャプターを転々としていたのでプレイ時間も伸び伸びに。
今作もかなり<自分でプレイするからこその面白さ>が詰め込まれている作品だなと思います。未プレイの方はぜひぜひ一切の情報を入れる前に遊んでみてください。
ただ一点、ストアページにある注意書きは若干補足が必要かも。
上記に付随し、間接的な表現として性暴力に関する事象が含まれます。確かに成人向けに指定されるほどの直接的な取り上げられ方ではありませんが、シナリオに関わる要素ではあるため人によってはご注意を。ネタバレしない範囲だとふんわりとしか注意できないのが歯痒いのですが、そういう要素があるとちょっとな~となる方には割とノットフォーミーかもしれません。
折り畳み先はいつものようにネタバレしかない感想と、ここってこういうこと? という考察モドキの入り混じった内容となります。
長ければいいってもんじゃないとわかりつつ、思うところや気になる部分がたくさんあって長いです。これだけダラダラと色んなことを書いても書いても足りないような見どころ盛りだくさんの物語を、サクっと遊べるボリュームに凝縮した制作陣の手腕が素晴らしいということで。
公式Q&AやHow Fish Is Made内のオマケである塊魂The Last and Then Anotherの内容、開発者コンソール内にて見られるチャプター説明文への言及なども含みます。
→開発者コンソールを使ってのチャプター移動について、実績に「開発者コンソールを開く」ことで取得できるもの、実質コンソールからの操作がないと取得が不可能なものがあるため、今作においては製作者公認の機能として触れています。問題があればお知らせください。
雑感
世界観・ストーリー・ビジュアル
どれを取っても最高。
勧めてくれた友達には「さよならを教えて」や「SILENT HILL2」なんかが好きなら絶対に好きだよと言われていたのですが、プレイしてみて言いたいことがすごくよくわかりました。それっぽいな~とか似てるとかそういうことは一切なくて、流れている空気みたいなものに近いものがある。
マップ内をうろつくときの「あの陰から何か出てきそうで嫌だな……」といった感覚や、衝突からずっと夕暮れが続いている船内の異様さとか、無意識下にある罪悪感が自分を苦しめてくるところとか。
紹介に<ここには、神の目も届かない。>とありますが、結局は誰の目を逃れても自分の目からだけは逃げ切れないんですよね。そういうの大好き。
青空の広がる時間は脆くも崩れて、夜という終わりの時間がくるまでの黄昏が半年近く続く……。
夕暮れが訪れた時点で夜は確実にやってくる。
船の名である「タルパ」ってあのタルパ? と思ったんですが、綴りが違いました。
こっちのThe Tulparは「トルコ神話に登場する伝説的な翼のある馬、または天の馬」とのこと。ペガサスに似て、駿馬とも。なるほど。ポニーがマスコットキャラクターのポニー運送だから、各船にも馬にちなんだ名前がついているのね。
宇宙空間を漂流する難破した船、残りの数が明確な食糧、とても統率が取れているとも仲が良いとも言い切れない乗組員。船長の暴走という裏切りを受けて、リーダーという支柱と仲間への信頼を同時に失った状態から始まるサバイバル生活。
もはや不和を起こせとばかりの状況が揃いまくっているのも最初から不穏です。日常パートもなしに最初からクライマックス状態で船は小惑星と衝突、次の瞬間には衝突から2か月が経過。
ここの息もつかせぬスピード感はシビれました。全体的に場面転換がとてもニクい。それで一体どうなったの?! と思わせるシーンで過去の回想に飛んだり、気になっていた部分が続けて開示されたり。かなり重要な要素が事前の匂わせもなくバンバン明かされていくのも、物語の引力を強め、かつダレないまま一気に駆け抜ける推進力になっていました。
そしてまさかの、全員がおかしくなっての崩壊ではなく、たった一人の人間の手によって引き起こされた無理心中事件だったという事実。
どうやらすんなり進行すれば3時間程度でクリアできるボリュームというのもあって、情報の出し惜しみをしないのはプレイヤーに飽きを感じさせず素晴らしいなと。
ちなみに自分はクリアに7.5時間程度かかりました! 主に冒頭のコックピットからラウンジに向かうまで暗がりに過剰にビビり散らして相当に時間を食い、墓地でスウォンジーと対峙した際には発砲の仕方がわからない+発砲できてもガバガバエイムでさらに時間を食ったりなどし(おかげで意図せずグッドエンドを取得。皮肉な実績名だ)、各チャプターでも回れるところは全部回って(これまた暗がりにはビビる)探索をしたため。
一番心臓に悪かったシーン。
個人的に今作のような内面世界と現実の境が曖昧になるような幻想系ホラーが大好きでして。反対に畑違いのジャンプスケアはだいぶ苦手で、ストアレビューに「ジャンプスケアは少ないがある。」との文言を見つけてしまったがために冒頭の暗く長い廊下(曲がり角が特に怖い)でいい加減時間を使ってしまった……。
真っ直ぐ進むだけでも手のひらに変な汗をドバドバかいたのに、急に開かないドアにぶち当たり振り返ることを強制されて余計毛穴が開いたりと、ホラーの肝所をしっかり押さえられている。かなりしっかり怖がらせていただきました。
でもこれだけビビって探索しても12時間未満でクリア、一本道の分岐ナシのゲームなのでかなりお手頃に遊べます。……このシナリオで分岐がないのかあ……。
ローポリな3DCGがまた味わい深いです。昨今の産毛まで見えるような鮮明なCGによる表現も素晴らしいと思うものの、どうしてもホラーゲームに関してはPS1、PS2頃のグラフィックによる表現の方が想像力を刺激されてより不気味さを感じられると考えている派閥のため、そのあたりの個人的な加点が大きい自覚はあるのですが。パラサイト・イヴの戦闘中CGだったり、SIRENくらいの感じが質感を伝えつつ、ディティールへの想像の余地が大いに残されていてホラーに向いたバランスなんじゃないかと思っています。
クリーチャーとか、あまり精細に目に映ると<未知の不気味>な存在から、<そういう種類の動物>に認識が変わってしまうような気がするというか。
ローポリですがグロテスクな部分はきっちり不快で、演出の妙が光ります。
それと、かなり翻訳に力が入っているうえ、テキストがしっかり日本人から見て演出にマッチしたフォントになっているところが個人的にポイントめちゃくちゃ高いです。なにか良くない・間違った選択をした場面のカットインなんか、エヴァっぽいフォントがクール。
<自分でプレイする>楽しさ
「ケーキは噓」……じゃない!
ポイントをクリックしてサクサク進行……というよりは、プレイ時間のボリュームに対してプレイヤーにあれこれ操作を求めてくるシーンが多かった印象です。操縦を誤らせたり、ケーキを切らせたり、脚を切らせたり、銃を構えて撃たせたり。ケーキと脚のオーバーラップとか最悪!
ゲーム要素はだいぶ薄めではありますが、インタラクティブムービーってよりはまだちゃんとゲーム寄りなんじゃないかなと思います。パズルもあるし。
やっぱりゲームと、映像作品や小説の一番の違いがここだと思います。「Mouthwashing」はシナリオやストーリーの秀逸さも大きな魅力のひとつですが、これがゲームで発表されるか映像作品で発表されるかで受け手の持つ印象が全然違うんじゃないかと。
映像作品も文章も、どうしても受け手は傍観者のポジションで、登場人物の行動を見ているしかできない。映像作品だと受け手が先の暗がりを怖がり進むのに躊躇しても、再生を止めない限り勝手に物語が進行する。ゲームだとどれだけ怖くても自分が勇気を出して前へ出ないと状況が膠着する。
この<受動>と<能動>の違いが今作でも大きなプラスの旨味になっていたと感じます。
共犯者に仕立てられているというか、「お前がやるんだよ!」と言われているかのような嫌さというか。これは本当に他人のプレイを見ているだけだと一切味わうことのできない感覚だと断言できる部分。
動画しか見ていないよ、という方はぜひともすぐプレイしないにしてもとりあえず製作者さんにお金を払う意味でも買ってみてほしいです。タダ乗りなわけだし、それで"履修"と言ってしまうのもなんだかゲーム好きとしてはちょっと複雑な感じ。これは個人的な感覚の話でしかないんですが。
<マウスウォッシュ>
タイトルやトレーラーで意味深に現れるマウスウォッシュが、しっかりストーリーに絡んできていて感動。
さらに「マウスウォッシュ=口の中がサッパリするだけで意味のないこと≒口だけ」という意味なんじゃ、と教えてもらい、目からウロコがボロボロ。
タルパの輸送するマウスウォッシュは糖類含有率が高く殺菌効果が期待できないあたり、前述の特性を色濃く感じさせます。エタノール14%。とても消毒液の代わりにはならない。なんなら衛生用品というよりリキュールみたいな酒類と言われた方が納得するような文面。
でもそうじゃない、すごく中途半端な液体、ってところがポイントなのかな。
事実マウスウォッシュが発見されて(追加の食糧が見込めないとわかって)みんなの心にだいぶダメージが入ってから、船内のいたるところにマウスウォッシュの空き瓶が転がり始める。スウォンジーを筆頭に酒の代用にされている。
登場人物みんな、というか人間だれしもが大小自分を良く見せようと繕いますが、やっぱりそういう虚栄心が人一番強いのもまたジミーなんだと思います。船長になってからのジミーは口先だけ「自分がやる」と責任を引き受けるふうの気持ちの良いことを言って、実のところアーニャには一切寄り添わずパワハラまがいの態度で、ダイスケをけしかけ死の原因を作った挙句取り乱して意味のないマウスウォッシュを傷口に振りかけ、スウォンジーにはまったく信用されず彼には直接に手を下している。
謳い文句はさわやかでも、食糧としても消毒液としても役に立たず状況を悪化させたマウスウォッシュと、ジミーの空回りっぷりがダブる。
配送が問題なく遂行されていてもマウスウォッシュは糖分が多くて口腔ケアには逆効果の可能性が高いし、たとえ意図して衝突を起こしていなかったとしてもジミーはその前にもうアーニャを強姦してしまっている。物語の始まる前から取り返しのつかない瑕疵があった。どうにもならない。
<苦しみを祈る>
これは結局のところ誰から誰へ向けられた祈りなのだろう?
ジミーからカーリーへ向けた潜在的なものだとしたら最悪すぎる……。
でも、最後ひとりだけを冷凍ポッドに入れて自分はさっさと退場してしまうあたり、爛れた体で生かし続けること自体が目的でもあったのかなとも思うんですよね。鎮静剤を与えるとき、画面は暗くなりますけど拒否するカーリーへかなり無理矢理に飲ませているような音声が聞こえますし。カーリー殴られて泣いてませんか?
ジミー:
カーリーは 俺たち全員を巻き添えに しようとしたんだ アーニャ
だから今 カーリーを生かす理由が2つある
これもジミーが「こいつには俺たちを巻き込んだ責任を取らせるべきだ、苦しんでもらおう」とか言って延命させている可能性、まあまああるんじゃないかなと。理由の一つがお仕置き。ど、どの口が?!
あとのひとつは介錯するにも後味悪いからで生かされている、って感じなのかな。介錯といってもまあ殺しではあるので、ジミー的には自分がやるにも指示を出すにも責任を負いたくない一心だったみたいな……。
初見プレイ中は、もしかして非常食用?! と戦々恐々していました。他のメンバーが同意するかはともかく。あながち遠くない行動に出られて驚いた。
アーニャからジミーとカーリーへ向けたものなら一番感情的に納得感があるんですけど。
それか、全員がこの状況や、それを作り出した誰かに向けて抱いたものなのかもしれない。
あのダイスケも? と思うとちょっとショックですが、彼もまた努めて明るく振舞っていても内側では色々と考える思慮深い人間であったので。少しくらいの恨み言はあったのかもしれない。最後の良心であってくれたらプレイヤーとしては救われるんですけどね。
スウォンジーならまあ中盤以降はジミーを呪っていると思います。たぶん事故の真相に気付いていた。
カーリーが事故を起こした後のジミーをどう思っていたか、一切わからないところがまたニクいですよね。包帯ぐるぐるになったカーリーの心境は誰もしらない。
キャラクターについて
全体感
みんな違ってみんなダメ!(会社も含めて) って感じでした。
それでもダメなところ含めて愛嬌だよねって人間と、そのダメな部分は気を付けないと社会的生活が厳しいのでは? という人間に分かれる印象。5人という極少人数の中で対称的に描かれているような人物がチラホラ見受けられるため、このあたりの印象も対称的になるのは意図的なのかも。
基本みんなダメでもダメなりにがんばっているわけですが、内部に一人突き抜けちゃダメな方向に爆走して減点どころかマイナスを叩き出しまくった人間がいたためタルパ号は難破し、船内はとんでもないことになるのでした。あーあ。
ポニー運送
作中での個人の行いとは全く別に、この会社自体も相当にヤバくて笑ってしまった。
- 労災の概念がなく、職務中の怪我等に対する医療費は自己負担。
- 配送の遅延に対する補填は配送スタッフの自己負担。
- 現場にいない人事部の采配ひとつでチーム全体の評価が変わる。
- 5時間以上の休憩を厳禁にしている。
- クルーの個人用休憩室に鍵をつけていない。
- 1年に及ぶ長期航海の序盤に解雇通知を送り付ける。
ブラックを通り越して逆にどうしてこの社風なのに5人は退職しないんですか……? と聞きたくなるほど。怖すぎる。それともMouthwashingの時代はこれくらいの会社がゴロゴロしている修羅の時代なんですか?
……でも倒産するんですよね、ポニー運送。
やっぱり他にもっと経営状況が良くて待遇も良い会社がたくさんあるから、そちらに人員が流れ続けて負のループに入っている末期企業にしか見えない。ダイスケを除いた4人は逃げ遅れたのかな。
カーリー:
ほら みんな逃げようとしたろう
ジミーの妄想産カーリーがこんなことを言っていて、てっきり船から逃げ出そうとして、あるいは責任から逃げようとして失敗した話かとおもっていたのですが、もしかして退職しようとして失敗した話だったりする?
ただ、ポニー運送が超絶ブラックで社員を慮らず、睡眠時間を削ってまで効率を上げさせ、判断力を奪うような働き方を強制していたとして、今回の事件自体はそれとは関係ない部分で起きているんですよね。抗議にも行けない仕事の真っ最中に解雇通知(内ひとりだけ推薦状付き)とかいう閉鎖空間内での不和の種を送り付けたのはかなり問題だと思いますが。
これはこれでゲロってしまったカーリーも問題ですけど。
このあたりゲーム内での視点がほぼジミーであることが効いているというか、すこし意図的に会社に対する他責も入っている気がする。
でもクルーの個人ルームに鍵がついていたらなあ! とは思います。切実に。これだけで救われた命があったかもしれない。
それがあってもジミーはやったよ、というのなら擁護できませんが、すくなくとも鍵を壊さないといけないことへの心理的なハードルで防げる不幸ってたくさんあるはず。
カーリーだってアーニャの持ち去った銃を探しにクルーの部屋の家探しを勝手にしているみたいだし。そういう事情があるにしたってプライバシーって必要だと思う。
ジミー
取り舵を切ってくれと指示されたのに、面舵を切ったうえ自動操縦をOFFにするのは、この男~!!
マジで最初ビックリしました。
カーリー船長がこんな行動をとるなど、誰が想像できただろう?乗務員たちを当然のごとく道連れにしようとした結果、この男は自殺すらまともにできなかったのだ。四肢を失い、口も利けなくなるほどの重傷を負ったカーリー船長の運命は今、ゆっくりと迫る死を待つしかないクルーたちの手に委ねられることになる。
ストアページにあるこの文言を見ずにプレイ開始してしまったため、冒頭の事故シーン→ジミー主観の衝突2か月後と進んだ段階で普通にジミーが事故らせた(冒頭もそのままジミー視点だった)んだな~と思いながら進めてしまったの、ちょっともったいないことをした気分です。カーリーが事故を起こしたような話の流れになっていることに対して最初から「ジミーがやったんじゃないの?」の気持ちで接してしまっていた。
というかこの前半部分のカーリーを悪し様に語る文章、ジミーが事故後クルーへ説明を行う際に口にした言葉っぽさがあって怖いな。
アーニャを強姦し妊娠させ、解雇通告に対して何故かカーリーにキレ、小惑星にわざと船をぶつけてみたけど全員中途半端に生き残るハメになった、すべての元凶の人間。なにもかもが突発的で短絡的な犯行。
今作はとことんジミーという人間の心の弱さを見せつけ、最後の最後にはヒーロー気取りの自己満足オナニーショーを見せつけられたかのような作品でした。
マウスウォッシュとか言いながら口の中に変な味残りまくりなのですが???
……と、プレイヤーのヘイトが一身に向かうよう設計されたキャラクターであると、理解したうえで以下の感想を書いています。
責任感の三文字を置き去りに哀れで情けなく臆病にも最悪の選択をし続けた、最低な人間だと思います。ただ、キャラクターとしては嫌いじゃないですし、キャラとしてそこまでのヘイトを向けてもいません(現実に同じ行いをした人間がいたら絶対に許せないです。そこは切り離して考えるスタンスを取っています)
閑話休題。
恐らく計画性もなくほとんどの凶行が突発的なもののため、もしも、もしもカーリーが救助を受けられたとして、カーリーにすべてを押し付けることはできない、という部分だけはプレイヤーにとって救いかもしれないです。
四肢を失い、這って動こうにも全身大火傷の痛みで不可能に見える人間が、他のクルーを殺して自分だけポッドに入るのはまず不可能だと発見者も気付くはずなので。最後に自刃した人間がポッドにカーリーを入れたと考えるのが妥当ですよね? 仲間割れの末、最後に生き残ったジミーがカーリーを救って凍結ポッドに入れたと見做されたとして、最後の二人になったなら自決の必要もないはずなので……。
カーリーに対する、友人だからこその親しみと同居する劣等感や焦りという下地。おそらくジミーもカーリーのことがただ嫌いとか憎いとかじゃなく、相当に愛憎が入り混じった感情を持っているんだと思う。
横並びだと思っていたカーリーはクビになる自分を置いて栄転するという大きな動揺。勤務地のブラックさにより削られた睡眠時間と判断力。もしかしたら薄給なうえ、会社に自己負担分の諸々を天引きされてもいて、貯金もないのかもしれない。(それか趣味のことを考えるとジミーは浪費家か、仕事を始める前からの借金があるのかもしれない)
そういう人間が追い込まれた末に自暴自棄で他人を巻き込んで心中未遂……ならまだ同情の余地もあろうものですが、ジミーの場合は強姦した相手を妊娠させたという責任から逃避した結果の暴走の面が色濃く見えるので、なんとも。
そもそも強姦自体は解雇通知の届く前、おそらく船に乗って間もないころに及んでいるため、制作側から徹底的に同情の余地を潰されているようにも思えます。仕方ないことなんて一個もなくて、全部ちゃんとジミーのカルマ。
スウォンジー:
テメェが何者か 俺は見つめられる
でも お前は? 臆病で 自己中なクソ野郎 見えちゃいねえんだろ
彼の人間性としてはスウォンジーの語ったこれがすべてなんだと思います。
臆病なこと自体は悪いことじゃない。けど、自己中心的な考え方は場合によって人を殺し得る。今回みたいに。
船長代理になってから、アーニャがカーリーのことを「船長」と呼ぶのをわざわざ丁寧に「カーリー」と名前に訂正させているのがゾワゾワポイント相当高くて最悪です。しかもカーリーの目の前でこれをやってる。アーニャからしても自分を強姦した男がネチネチ嫌味を言ってくるって状況。ここが地獄だよ。
そして事故前のカーリーの視点が解放されることでわかる、イヤ~な事実。
カーリー:
俺がやるよ じっとしててくれ ダイスケ
カーリー:
俺なら何とかできる
カーリー:
俺たちなら乗り越えられる
ジミー:
俺が何とかするよ アーニャ
いつだって 俺がやる
ジミー:
俺ならなんとかできた スウォンジー!
ジミー:
今ならわかる 俺たち二人とも何とかできる
ジミーの船長としての振る舞いって、カーリーの言葉を上辺でなぞった模倣でしかなかったんだ……。
この「またそうなる」とか本当に最悪すぎて笑っちゃいました。
カーリーより優れた自分になるために、彼も苦戦していた船長というポジションをうまくやってやろうとしたくせ、どうにもならなくなったら自分は指示を受けていただけの副船長に都合よく戻ろうとしているように見える。確かにジミー自体もがんばっていたことは否定しませんが、内心カーリーの仕事を自分にもできる簡単なモノと捉えていたのかもしれない。
これももしかしたら「一人だけ会社に残るお前はまた船長になるだろう」という意味が込められているのかもとも考えたんですが、この体では無理だろうし、なによりラストの言葉がそれを否定させる。
ジミー:
誇りに思うよ 友であり副操縦士でいられたこと
船長
お前~~~!!!!!!!
スウォンジー:
船長なら 船と心中すべきじゃないのか?
……。まさか、スウォンジーのこの言葉(船長としての責任)を果たすため……自分は船と心中なんてゴメンだから、カーリーに船長の座を返して凍結ポッドに入れた(船と心中させた)とか、ないですよね?
で、ジミーはポジショントークをよく使う。必要なら上述のようにポジションを変えることすらほとんど無意識にやっていると思う。
カーリーと結託している、カーリーが自分の味方だと思っているときは主語を「俺たち」として船内環境を自分たちが掌握していると語りかけ、自分にも同等の権利があるように振舞う。一転、アーニャを襲ったことがバレて体裁が悪くなると船内の秩序を守るべきは船長で権限のあるカーリーとして「何もかも掌握していたのはお前」と詰め寄る。何もかも掌握していたのはお前なんだから、俺がアーニャを襲ったのもお前の怠慢! お前のせい! とか言い出すので責任逃れや擦り付けをするにしても超理論すぎて失笑レベルではあるんですが……。
俺と俺たちの使い分けも頻出している気がします。
ダイスケの息がまだある内は「つっ 次の手を考えないと 俺たちなら何とかできる」、スウォンジーがダイスケの介錯をした際には「俺ならなんとかできた」……一瞬の間に見事なまでの手のひら返しで責任の所在をスウォンジー一人に転嫁している。こういうシーンが散見されるし、もうここまでくると完全に無意識でこれをやっているはず。骨の髄まで責任から逃れることに染まっている。
<立場>というものに重きを置いているというか、自分というものが希薄なのかも? とも思います。自分というものがハッキリしないから立場や肩書に収まりたがって、臆病だからそのポジションは他を圧倒できる高さである方がいい。ジミーにとっての野心の根源。ハシゴの上の方に行きたい。
結局、アーニャを襲った事実が覆らない以上、カーリーに詰められたときどんな形であれ自分は悪いことをしたんだなと認める心の強さがあれば事件は起きなかった。
でもそうはならなかった。
ダイスケが危なくなっていよいよ後戻りできないな……と思いながらも「責任」の文字を見つめたまま後退することでやり過ごし(ここのギミック気付いたとき本当にダメすぎて変な声出た)、生まれてくる子供のことも直視しきれずプレイヤーの操作外でエコーを外してしまう。
それにしたってアーニャのことは本当に見くびっていたというか、あんなことして視界にも入っていなかったのだろうな、と社員証の舞い散るエリアで思わされます。密度がどれだけ変わってもアーニャの社員証だけハッキリと見えないっぽいんですよね。
なんやこいつ! ……勘違いだったら申し訳ないので、もしちゃんとアーニャの社員証が見える部分があったら教えてください。
しかもカーリーの脚を切るチャプターの後、最後にカーリーを凍結ポッドへ入れるまでの間にチャプターが3つある。責任を果たせで始まる区間ですね。それぞれ下記のように説明がある。
- ダイスケとスウォンジーの物語を締めくくるシークエンス
- カーリーの物語を締めくくるシークエンス
- ポレの物語を締めくくるシークエンス
……アーニャと子供は???
ここは直視できないほど逃げ出したい問題として排除したのか、ホモソーシャル的世界にしか生きておらず心の底から女性を軽視し顧みないのか、どう捉えるかでジミーに対する印象が全然かわってきそう。自分はどっちか判断付けかねています。作中の責任感の無さでは前者っぽいけど、より最悪度が高いのは後者。
そして<ジミーのお気に入りのポケモン:メガレックウザ>でめちゃくちゃ笑いました。厨ポケかあ……。納得感ある。でもジミー自身はレックウザじゃなくてヒガナだと思うよ。
心象風景
ジミーの精神状態が悪くなるにつれ、ジミーが見ている、あるいは思い描いている世界・光景はおかしくなっていく。
あちこち移動しているつもりでも、本当はその場に留まったまま内面に沈み込んでいるか、同じ場所をぐるぐると歩き回っているような場面がほとんどだったのだと思う。「さよならを教えて」の人見広介のように。
ジミーの内面世界で彼の邪魔するように現れるポレ人形や、それと同時に聞こえる赤ん坊の声などから、ジミーにとって<ポレ=会社のマスコット=仕事>と<これから生まれてくる赤ん坊>のふたつが特に強烈にプレッシャー、あるいは自分を邪魔する存在として認識されているように思える。
・Who broke the Polle Statue in the lobby?
Jimmy. Swansea, drunk off mouthwash, thought it was hilarious.
MOUTHWASHING Q&A: PART IIIによるとロビーのポレ人形を壊したのはジミーだそう。
冒頭も冒頭、小惑星に船をぶつけた直後からして現実ではなかったというのだから恐れ入りました。クリア後だと冒頭のラウンジまでの道のりはとてもわかりやすく業務上の過失に対する焦りが出ていると思います。
現実のジミーはコックピット前の廊下でうずくまって己の過失に震えている。コックピットの中にはカーリーがいる。ラウンジに戻って事故を知らせないといけないけれど、知らせたくない。これがどこまでも続く廊下として浮かび上がる。しかしいつまでもウジウジ座っていてはこの姿を誰かに見られるかも……あるいは気持ちの中で自室にでも戻ろうとした? 開かないドアにぶち当たる。ドアが開かないなら仕方ないと言い訳が立つので引き返す。それを罪悪感か、あるいはわずかながら責任感か、ポレが現れて立ち塞がる。ラウンジ方面へ戻れば開かなかったドアが開く。ラウンジに辿り着く。
……おそらくここまでを頭の中で繰り広げたところで立ち上がるか、もしくはとてももたついた足取りでフラフラとラウンジへ向かっている最中に幻覚としてあの光景を現実に重ねている。
「責任」を見つめたまま全力で後退してみたり、責任の塊として生まれてきた芋虫?ムカデ?ポレくんは正面から見つめると襲ってこないとか、なんとなくジミー自身も自分が悪いこと・責任を取らないといけないこと自体はわかっている様子なんですが。
それで素直に成長できる人間だったらこんなことになってないというか。ジミーがジミーたる所以というか。
カーリー以外のクルーに対しても死亡後に飾り立てて、自分のためのパーティーでスピーチを求める腹話術を始めたときにはもうダメだ……って感じでした。それよりもっと前からダメではあったんですけど。アーニャがジミーに対してそんな態度取るわけないやろ!
自分と他人の区別が曖昧というか、やっぱスウォンジーの言う通り<自己中>なんでしょうね。他人には自分の意に沿う行動だけしていてほしいってタイプ。
カーリーが口さえきけなくなってしまっているので、事故後のカーリーは事故前にもましてジミーにゲロ甘となっている。一言もジミーに文句を言わないし、体の痛みに対しても何も言わない。現実のカーリーの呻き声に睡眠を妨げられてすらいるのに、ジミーの内側にいるカーリーは痛みとは無縁の存在で、だからジミーがカーリーの具合を心配することなんかも一度もない。
バルブを動かして内臓を繋げて、カーリーに自分の脚肉を食わせる場面なんかではカーリーも苦しんでいるんですけどね。個人的に投薬時よりさらに激しく抵抗された(当たり前)のを、どうにかこうにか苦労して無理矢理食わせたのを表しているのかな? と受け取ったのですが、どうなんだろう。
バルブは幻覚にしても、バルブの位置を叩いて急かしたとか。口に肉を押し込むたびにカーリーが嘔吐いて吐き戻していたってことなんじゃないかなと。
ビギナーズラックで食道パズル一発成功してしまったんですが、これって失敗するとカーリーが戻してやり直しになるんですかね? そもそも成否の概念がある部分なのかもわかっていない。やり直すのがかわいそうで……。
いつかアイツは俺に感謝する
んなわけあるかい。
挙句の果てにカーリーはジミーのもはや耐え切れない罪悪感をどうにかするため「自分が悪役になるからお前は善人として終わりな!」 などとトンデモ台詞を宛がわれてしまう。作中時間でジミーが善人だったことある?さらにジミーの「そんなこと言うなよ、二人でヒーローになれる名案があるんだ!」という自己陶酔極まった台詞まで引き出してしまうオマケつき。本当にかわいそう。
結局のところジミーは現実でも空想の中でも、本当は優秀なのに一個のミスで大変な目に遭っているかわいそうな俺船長ごっこをしている。カーリーはそんな俺を(本当は優秀なので当然だけど)恨まず、俺は、俺たちは(船長の責任を果たせなかった)カーリーを許してやる、って構図がジミーの中では展開しているのだろう。
その後の凍結ポッドから自害までの流れは前述の通り自己満足のオナニーショーじみている。カーリーはまんまとその自慰の補助道具の靴下人形としてこの先20年の苦痛を手に入れてしまった。
気が滅入る。悲しい。
ジミーを邪魔するもの/責任と罪悪感の在処
恐らく仕事を始める前からの知己だったカーリーがどんどんキャリアを積んでいくのをやっかみ、彼を死に損なわせたうえで奪った船長という肩書は、欲しかったもののはずなのに全く上手くいかない。
仕事が上手くいかない(しかも船長になってしまったから貨物に手を出した責任を取らされるかもしれないし……)のに、地球に帰ったら職がなくなることも確定している。さらに手を出したアーニャが身籠ってしまい、解雇の件がなかったとしてもお先真っ暗。
しかしジミーの前に現れるポレも、赤ん坊の亡霊も、邪魔をするものであってジミーを責め立てるものではあまりない。反対に、ダイスケの墓や遺影、それこそ斧で攻撃してくるスウォンジーなんかは断罪者然としているというか、罪悪感や後ろめたさの表れに見える。
つまりジミーは船長代理としてやらかした数々を自分の責任だと思っていないし、アーニャを強姦したことについても何とも思っていないというこのなのだと思う。
生まれ出る子どもには血縁があるため自分の人生の障害になるだろうと考えられても、自分が加害した女に対しては同じ人間と思っているかさえも怪しい。だって反撃される心配もないくらい弱そうだし、溜まったものを吐き出すのに都合のいい形をしているから使っただけだし、自分の邪魔にも脅威にもならないだろうし、くらいの重要度の低さで個としてのアーニャには本当に興味がないんでしょう。
なによりジミーの内面世界にはアーニャは影も形もない。せいぜいが最後の最後、責任の塊となったポレを出産する子宮のような肉塊だけ。ジミーが女性をどんな目で見ているかがわかる。同じ人間だと思っていない。肉欲が芽生えたときだけ視界に入る存在。
なんだこいつ。打ちながらキレまくってますが。
これが男性クルーとの口論の末に回復可能な大けがを負わせた、とかだったらジミーはその相手に自分が責め立てられる幻覚を見ていたんじゃないか。それは相手が復讐に打って出られるだけの腕力をもった存在だからであって、本当の意味での責任感から来るものではない。ダイスケやスウォンジーに対する罪悪感も同じような部分から発生しているのだと思う。それか彼らはジミーの中でも人間扱いなので、人並みに罪悪感があるのかな?
ジミーは自分より弱い相手には謝罪とか、責任を負うとか、しなくてもいいと思っている。ジミーは一貫してアーニャのことを人間として、あるいは脅威として見ていない。だからアーニャに対して果たすべき責任がジミーの中にはそもそも発生しない。って、ある程度そういう理論なんじゃないかなと思っています。
で、実はアーニャ以外のことも本当の本当、本心では下に見ている。カーリーの仕事は自分にだってできるから奴は過剰評価だし、スウォンジーはロートルだし、ダイスケはヘマをやらかす若造、みたいな。
そのくせ開き直ったりはできないから、転嫁しきれない責任や取り戻せない後悔を、なし崩し的に生き残ったカーリーを未来に丸投げし自分は自害することで清算したつもりになっている。
アーニャへの強姦と妊娠が発覚したら小惑星に突っ込み心中未遂。もうどうしようもない状況にまで追い込まれたら拳銃自殺。もしかしてジミー、責任を取る=命で償いだと思っている?
命を使うにしても、責任から逃れるための自害であり、責任を取るための自害ではないっぽいのがダメダメですが。
最低だよ! ジミーお前もう船降りろ! というか最初から乗せちゃいけなかった気がする……。
「責任」という言葉に追いかけられ、逃げ続け、一切それと向き合わないジミーですが、そもそも彼の口にする責任がカーリーの模倣でしかないのなら、ジミーには最初から自前の責任感なんてもの備わっていなかったのかもしれない。
もし備わっていても清算に使えるチップが命しかないと考えていたのなら、カーリーへの仕打ちも、あらゆる責任から逃れようとしていた態度も理解はできる……のかもしれない。
カーリー
プレイ後となっては本当に申し訳ない限りなのですが、一番最初に彼のこのビジュアルに惹かれてこの本作に興味を持ったのでした。かわいいね。本当にごめん……。
カーリーの視点が明かされるたびにジミーとのものの捉え方の違いが浮き彫りになります(左:カーリー視点/右:ジミー視点)
カーリーは基本的に物事に対して好意的で、逆にジミーは懐疑的。
リーダーとしての才覚は明らかにカーリーの方が優っていて、このリーダーシップの表し方の違いがカーリーとジミーの一番の違い。この船の中でほとんど唯一リーダーの素質がある人間がカーリーなのだと思います。
・If Curly could have had his birthday on Earth, what flavor of cake would he like best?
Curly isn’t all that into sweets. His friends (including Jimmy) made him a cake out of chocolate and caramel whey protein powder one year. It collapsed under its own weight and tasted like a chalkboard. One of Curly’s fondest birthday memories.
MOUTHWASHING Q&A: PART IIより。ここもカーリーとジミーの物事の捉え方の違いが出ているように思う。カーリーは(ジミーを含む)友達の作ってくれた黒板みたいなケーキを食べたことを「カーリーの誕生日の思い出の中で最も楽しいものの一つです。」としている。
対してジミーの妄想産のカーリーはというと。
カーリー:
でも それ以外の時間は ただ友達とマズいケーキを食べるだけだカーリー:
今じゃ それさえも素晴らしい時に 思えないか?
友だちとマズいケーキを食べることはそんなに素晴らしいことだと思っていない様子。
誰と食べるかを重要視しているカーリーと、何を食べるかを重要視しているジミー。
カーリー視点の事故前シーンと、ジミーの船長としての行動がカーリーのトレースであることを合わせると、事故前のカーリーがどんなリーダーであったかの想像ができる。おそらく自主的に「俺がやるよ」の一言で雑用を引き受けて船内を駆け回るような人だったんじゃないかな。
それが巡り巡って<ひとりで抱え込む>ような性格に繋がっているようにも思える。
ジミーだけでなくカーリーにも心象風景に沈み込んでしまうような兆候があって、不眠も患っているあたり彼も本当のところ精神状況はかなり劣悪な状態にあるのがわかる。恐らくリーダーとしてのプレッシャーだったり、睡眠不足をはじめ他のクルーのフォローに回りがちなことからくる単純な過労だったりが原因なのでは(スウォンジー以外は仕事できるかって言われたら微妙そうだし……)
あるいは、作中のカーリー視点での回想はどれも、医療室に横たわるカーリーの回想なのかもしれない。そうだとしたらあの時点で相当精神も参っているだろうし、回想の中に心象風景的な脚色が入り込んでもおかしくない。
カウンセリングのためジミーの元を訪れる際には、コックピットへ向かうための階段が大江戸線かというくらいに深い下り階段になっている。血の海と先のないハシゴ、視界を埋めていく警告画面、それらすべてを呑み込む大きな爆発。通り抜けた先にはコックピットとジミー。事実がわかってからだと衝突後のコックピット内でカーリーが感じたことの表れだと理解できる光景。
アーニャのカウンセリングが役に立たなくとも、地球にいた頃からの友人であるジミーとのやり取りで気分転換ができていれば互いの精神衛生状況もだいぶ違ったのではと思えるのですが。
カーリーがリーダーとしての苦悩を吐露するたび、ジミーの中には「こいつマウントとってるのか?(※とってない)」と劣等感が堆積していくのでした。
ジミーとカーリー、能力値と性格が反対であればよかったのになと思います。
ジミー自体はなんだかんだで補佐官に向いたスキルツリーを持っていると思っていて、しかしそれが上昇志向や野心とはうまく噛み合わない。対するカーリーはリーダーに向いているけれど、自責の面が強く他人を動かすよりも自分が動くタイプで、性格だけでいえば補佐に就いた方が安定しそう。
ガンガン他人を使い倒す船長ジミーと、そこに生まれる摩擦をケアする副操縦士カーリーであった方がシナジーは高かったのかも。ジミーは最高権力を持つことで劣等感を癒せるし、カーリーは重責から解放されてのびのび他クルーとコミュニケーションが取れる。最初からジミーに斧や拳銃を自由にする権限があるのだけ不安ですが本編よりはまだ平和そう。解雇通知にキレて事故を起こしても最初からジミーが犯人なのがわかりやすいし。
スウォンジーの言う通り、とにかく運のない人だったんだなと思います。
本質的に悪人じゃない。ただ事故後にカーリー自身の意思を確かめる術が一切ないので、船内で起きた一連の出来事、そしてジミーのことをどう思っているのかが一切わからない(口がきけないうえに、表情を作るパーツも全滅しているから顔からも感情が読めない)、というのがまた口の中に変な味を残していきます。
事故の罪を擦り付けられ、目蓋も閉じられず、脚を切られその肉を食わされ、肉塊のような体でひとりだけ生き残り凍結ポッドに入れられ、低温凍結処理をされるなかカーリーがなにを思っていたのか、誰も知らない。
でもそんなカーリーにもダメな面というか、落ち度があるのも確かで。
作中時間ではアーニャに対する対応がそこそこマズい。
ネット民としてはジミーってMLP好きなんか……で軽く流しそうになった場面でもあるんですが、リアルで考えたらジミーのこれはハラスメントとして問題にしないといけない部分。
本当にジミーがそういう性的嗜好を持っているなら情報の開陳として必要な言葉になってきますが、そうじゃない、カウンセリングをバカにしての回答だと言うことはわかりきっているとなるなら問題なんですよね。ジミーが話を聞かないだろうなということがわかっていても、少なくともこの場面ではアーニャに寄り添って「なんて奴だ、抗議しないとな」くらいのことは言っておくべきだった。たとえ本心ではない演技だとしても。
カーリーから見たジミーは友人でも、アーニャから見たジミーは同僚の成人男性という視点が抜け落ちている。
その後に放った一言もまあまあひどい。
カーリー:
ジミーとは長い付き合いだ 俺相手にからかったりしないさ
ジミーがアーニャを下に見ていることを理解していて、それを咎める気もないことが透けて見えてしまう。なんならちょっとアーニャからしたら「カーリーもジミーと変わらんやんけ」と思わせる発言。というか実際のところかなり無意識の中でカーリーもアーニャのことを軽んじているというのをプレイヤーにわからせるためのセリフなのかもしれない。非常によくない。
ただこれでアーニャに恨まれるなら理解ができるのですが、あれほどの扱いをジミーから受ける必要はあったのか? となると、さすがにそんなことないやろ……になるわけで。
カーリーが被害者であるという事実自体は変わらないし、因果応報というには報いがあまりに大きく残酷すぎる。
ジミーの小惑星衝突の動機になったであろう解雇通知を予定より早くゲロってしまった件については……どうなんだろう。
これも明らかにカーリーの落ち度ではあるのですが、スウォンジーとアーニャの感じからしてそろそろこの会社潰れそうだな……という雰囲気自体は社員間には漂っていたんじゃないかと思うんですよ。
スウォンジー:
ポニー運送も ついに終わりか フン
この発言からしても、青天の霹靂ってよりは、やっぱそうか~って納得の方が近そう。
インターンであるダイスケは仕方ないにしろ、なぜか社員のジミーまでそんなこと知らんが?! と取り乱したおかげでパーティーの空気は最悪になってしまいましたが、アレがなければ今後について話しながらケーキを食べて終わりの流れではあった。ジミー以外は特にカーリーを責めているような様子はなかったし。
総じてカーリー、ポニー運送内ではそれなりに船長としての業務をこなせていたけれど、本当に素晴らしく有能な船長というわけではないってところが重要な気がします。カリスマってほど求心力があるわけではなさそうだし、ハラスメントに対する意識は高くなさそうだし、ある程度の時期まで秘密の情報を速攻でゲロっちゃうし。人並みに至らないところがあるなりにがんばっていた、という感じ。すくなくとも責任を取る覚悟と誠実さは確実に持ち合わせていたはず。
なのに、彼に劣等感を持つジミーはカーリーのことを事実以上に神格化して見ている。これがとても良くない。
というか、どうやら今の仕事にジミーを誘ったのがカーリー自身みたいなんですよね。
...You know. he joined because of me.
What were the words i used? ah, right.
"It's a great opportunity. easy money, just a trip or two."
『The Last and Then Another』の中でのカーリーの発言。
カーリー自身も同じような言葉で誰かにポニー運送の仕事を紹介され、気付けば10年近く働き、抜け出せなくなっていた。ジミーと、そしてポニー運送に入る前のカーリーは、人から後ろ指さされるような過去の行いがあった様子。カーリーは作中の姿を見るに更生できているようだから、ジミーもそうなればいいと宇宙間輸送の仕事に彼を誘ったのかもしれない。
その結果がこれだよ!
ジミーからしたら「お前から誘っておいて俺はクビでお前は栄転??(栄転の事実はない)」ということなんでしょうが、それにしたってさすがにここまでの仕打ちを受けるほどか? と言われると……やっぱそんなことないと言いたくなるというか……。
カーリーは確かに優しい人だけど、その優しさはホモソーシャル的な部分を多分に含んでいて、身内と思っているジミーなんかの不祥事に対するなあなあな態度とも背中合わせなものだったように思う。あの船内でカーリーが心を開くべきだったのはジミーじゃなくてアーニャの方だった。というか、ジミー以外に心を開いていないのが問題だったのかも(ジミーですら参加している船員同士のボードゲームに、おそらくカーリーだけ参加していない)
よく言えば身内に優しく、悪く言えば隠蔽体質。
他の三人は巻き込まれただけってことですか?
アーニャに対するケアという意味ではまったくダメダメで、事故についても最初はジミーに加担する気持ちがあったかのように見え、それでも事故後に関して言えば被害者、という。どの切り口から語るかによって評価がガラッと変わる人物なのだと思います。
見る人の中にそれぞれの思い描くそれぞれのカーリーがいる……。
カーリーの容態
He rejoices "I lost my hearing, they'll never be able to tell me i'm fired again!"
これまた『The Last and Then Another』より。
カーリーの披露してくれるジョークの一節。
両手両足をそれぞれ失い仕事を追われ嘆く二人の男と、聴力を失ったから二度とクビだと言われることはない! と喜ぶ三人目の男の話。たぶんこれカーリー自身のことを言っているっぽくて、そうなると作中のカーリーも聴力を失っている。
しかも手足を失えば仕事を追われるけれど、耳が聞こえずクビだと言われてもわからない! ということで、事故のあと自分が船長の座を奪われ、さらに冤罪をかけられていることにも気付けていなさそう。
だからあんなに大人しかったんだ……とすこしだけ納得。口をきけなくなっているのも、聴力を失ってしまったことが影響しているのかも(自分で自分の声が聞こえないとうまく喋れないと、重度の難聴を持った方に訊いたことがある)
なんとか生きていたと思ったら衝突事故を起こしたジミー本人が現場を取り仕切っているようだし、みんなは妙に冷たくなった気がするし、アーニャは薬をあまりくれないし、代わりにジミーが薬を飲ませにくるけれど手間取ったり拒否すれば殴られるし、何か言っているようだけど聞こえないし……。そうしたらある日アーニャはベッドの下から隠していた拳銃を出す。そこにあったんかい! かと思えばアーニャが自分の隣で鎮静剤をガボガボ飲んで自害する(この時なにか言われているかもだけど聞こえない)うえに、通気口の方から血塗れのダイスケが現れてドアの前で動かなくなる。
目の前で一人死んで、一人は重傷を負って連れて行かれる。カーリーからしたらビックリでしょうよ。聴力が失われているので何が起こっているか読み切れない。何? ってところにジミーがやってきて、船長しか知らないはずのナンバーを使って拳銃を取り出した! しかもアーニャには目もくれないし!
さすがに何が起こっているか察して、笑うしかなかったのかな。
ジミーが船長のポジションにいるなら犯人は自分ということになっているだろうし、船長が拳銃を必要としている(ケースじゃなくて中身を欲しがる)ということは、船内で不和が起きている! しかも船長が銃を必要とするかたちで!
しかしここでもカーリーのあの声を上げた笑いに込められた意味を、カーリー以外が知る由もないのでした。先述の通り眉も目蓋も唇も失っているため、表情が一切読めないんですよね。カーリーの意思を知る術が徹底的に排されているゲームだ。
でも、よくよく考えると最後のシーン、発砲音はガッツリ聞こえてくるんですよね。やっぱり聴力も残ってるのか??
そうなると『The Last and Then Another』での発言は「耳が聞こえなければまだマシだったのに、俺は耳が聞こえるんだなこれが!」の願望・皮肉・自虐ネタだった……???
地獄度で考えると全部見えてるし聞こえているけど喋れないせいで自己弁護もままならないって方が、見えているけど聞こえないから状況がよくわかっていないってよりも断然上ではあるし……このあたりは公式から答えが出ない以上どちらとも取れる部分であり、かなり人によって解釈のわかれそうな部分ですね。
でもって目蓋を失っているのに失明はしていない様子。
しばらくの間は<カーリーに対する後ろめたさのあるジミーが、常にカーリーに目で追われている幻覚を見ている>のだと思っていましたが、凍結ポッド内でカーリーの視点操作が可能となるため視界は良好な模様。やっぱり目が見えているなら耳も無事か……?
ここでついでにカーリー途中で死亡説も潰れたかと。やっぱり状況的に視力も失われているか、途中で死んでいた方がいくらかマシなのがひどい。
ちょっと異能生存体の素質ありますよねカーリー。
皮膚がないって感染症に対して丸裸で挑んでいるような状況が何か月も続いても、病気的なダメージがなさそうだし。
冷凍肉
そもそもこの全身から滲出液の止まらない状態の人間は、コールドスリープ用の凍結処理に耐えられるんでしょうか? コールドスリープってどれくらいの温度まで冷やすんだろう? ポッドの内部が冷却される様子は思い切り冷気を浴びせられているように見えたわけですが、あれってカーリーからしたら全身の傷に刺激を与えられる、筆舌に尽くしがたい苦痛になっていませんか?
ジミーがヒーロー気取りでやったこと全部カーリーを苦しめる結果になっていると考えると、痛みがありそう。
そのうえコールドスリープ自体が成功していた場合は20年後の未来にカーリーは目を覚ます。
そうなってもまだタルパ号が漂流を続けていたとしたら、カーリーは自然死するまでポッドからは出られない。
それに、20年後という時間は予備電源の寿命なわけで、20年後に自動で解凍が始まる保証はないんですよね。タイムリミットまでに発見されなければ凍結ポッドはただの箱で、その中ではカーリーの自然解凍が始まるのでは?
そうなったときカーリーの肉体になにが起こるのか。冷凍肉の自然解凍で滲み出るドリップを思い浮かべてしまうのですが。
やっぱりここが地獄だよ。
アーニャ
巻き込まれてしまった人。
彼女は、というかアーニャとスウォンジーとダイスケは全面的にポニー運送とジミーを呪って許される。
彼女の性格からして、部屋に押し入ってきたジミーにあれこれ言われて流されて……もあり得るのかなと思ったのですが、それだとカーリーに打ち明けるとき「鍵」以外にも言及がありそうだし、やっぱり最初から合意はなかったんじゃないかなあの立場です。
しかしどうにも頼りにならなすぎる……ジミーにすら「……看護学校 卒業してるんだよな?」と聞かれる始末だし……。
と思っていたら公式からこんな情報が。
・Are there any little fun facts about the characters?
~中略~
Anya has tried and failed to get into medical school eight times. She completed Pony Express provided nursing classes to qualify for her position on the Tulpar (valid ONLY on board Pony Express property and company jurisdiction) because she needed money so she could keep trying. She’s been reading a lot of books about psychology while on the Tulpar though...
は、は、は、8回?!
看護師になるための試験ではなく、そもそもの医学部自体に入るための試験に8回落ちているのは……ちょっと……さすがにセンスがないというか致命的に向いていないのでは……?!
カーリーの苦しむ声にすら参ってしまって、投薬もロクにできないのは本当にまずい。アーニャの場合は医学部自体に入れていないので実習もしていないだろうし、肩書で言ったら医学部用の参考書を読んでいるだけの一般人なわけで。ベテランの下について1から教えてもらっているダイスケの方がマシなのでは? 逆によくこれでカーリーは生還できたな……運がない……。
アーニャのようなスキルで宇宙空間を行く貨物船唯一の医療メンバーになれてしまうポニー運送のヤバさが際立ちます。
ポニー運送の敷地内および会社の管轄区域内でのみ有効の資格なるものは持っているそうですが、それって要は私有地の中なら運転免許がなくても運転できるってのと同じ理論ですよね? ポニー運送が提供する看護プログラムは修了しているみたいですが、それがどれだけ信用に値するかというと、アーニャのカーリーに対する態度がすべてというか。
まあポニー運送が最後の有人輸送を行う会社だったことを考えると、型落ちのタルパ号であっても自動航行で問題なく目的地まで到着する程度の技術力はある時代っぽい(ダイスケの親がインターンを申し込んでいるので30%の貨物完全紛失は持ち逃げと思っています。単に公式発表なだけで実際は事故かもしれませんが……)し、緊急を要する怪我に関してはそもそも考慮されていない可能性も高い。急病についてもポニー運送なら持病扱いされて自己責任で片付けられてしまうし。医療スタッフに関しては本当に名前だけあればいいお飾りなんでしょうね。
しかし、彼女がカーリーへの投薬をすっかりポンと忘れてスウォンジーへの相談をしていたりするのは、看護意識が低いのではなく当てつけも含まれていたんじゃないかなあと思います。最後のオーバードーズしかり。合意のない行為がスタートにあると、行為自体も、妊娠も、そうなった場合の人生も、自分の体が自分のものとして扱えない状況に追い込まれる。コントロール権を無理矢理奪われてしまう。そうなったとき「私の体は私のものであり、コントロール権は私にある」と主張できる手段の中に残念なことに自害が含まれてしまっている。これは現実でも。もうこれで誰も不当にアーニャから奪うことはない。
ついでにカーリーに必要としている鎮痛剤も全部使いきってやることで復讐も兼ねていたのかも。苦しみを祈る。
おそらく彼女は最後まで事故の犯人はカーリーだと思っていて「私はあなたのご友人に襲われたうえに妊娠までしたのに、ご自分は解雇通知ひとつで船を小惑星にぶつけて全員を危険に晒したんですか?」と内心はらわたが煮えくり返っていてもおかしくない。こんな奴に鎮痛剤を渡したくないよ~! の気持ちと、なんかグロいことになってるし辛そうだし見てられないよ~! の気持ち両方でカーリーを放置していたのかなと。
で、自分を襲った張本人であり、カーリーが友人として見ていて、今となっては船長として妙に張り切っているジミーにあれこれ世話を任せていたという想像。
でも、自分で言っていてどうかな~とも思います。
事故前のカウンセリングなんかの様子を見るにアーニャがそこまで意地悪なことをして溜飲を下げるタイプかな……? と疑問に思ったりもする。本当にただただ苦しむカーリーを見ていられないってだけなのかも。人を助けたいけれど、その優しさが苦しんでいる人を直視できないメンタリティと表裏一体という感じがする。
なんとなく今回の乗船以前から「とてもできません!」と言って他の人に作業を任せきりにしていた人って印象はずっとあるんですけどね。ジミーも色々と頼まれまくってキレていたし。もしかしたら事故前は本編中以上の感じでカーリーに雑務を投げまくっていたのかもしれない。
悪い人間じゃないし、無駄に張り切っている感じでもないんですが、いかんせん能力が目標に見合っていなかったという印象の人。鎮痛剤の投与忘れはあれど、痛めつける目的で誤った処置をしたりはしていないはず。
と色々いってみたところで完全に被害者です。なんとなくですが彼女のことを軽んじた、どころかないもののように扱ってしまったことが、本編すべての震源なのではないかと思う。
アーニャ(女性)とダイスケ(子ども)の二人は成人男性なら守られていたはずの権利を立場ゆえ守られなかった被害者。ジミー・カーリー・スウォンジーの三人は大きな社会の仕組みの歯車となってすり減らされた被害者でありつつ、同時に自身らも歯車のひとつとして前者二人のような弱い立場の存在に対しては加害者となっていた。といった感じにある程度デザインされている部分があるのではないのかなと考えたりもします。
スウォンジー
セリフ回しが毎回かっこよくてシビれる人。ストアページにもキャプチャのあるこのセリフ大好きです。
ダイスケとの凸凹師弟関係が最高を更新するたびにしんどくなってくる。
なんとなく、真っ当に仕事に打ち込んで、責任を負うことを覚えられたらジミーも彼のようになれたのでは? と思わせる人でもある。
作中のスウォンジーにダメな部分があるとすれば誤解されてもお構いなしの乱暴なしゃべり方と、それに付随した若干厭世的な考え方くらいで、逆に言えばそれ以外はほとんどまともなことしか言っていない。労災はみんな社員の自己責任で片付ける企業においてこの歳までブルーカラーとして立派に勤め上げ、防災意識もしっかりとある。さらにはピーマン頭、努力の方向音痴などと散々言いながらも実際のところダイスケにイチから仕事のイロハを教えようとしていた。
私生活も上手くいっているようで、時には奥さんとレストランへディナーへ行き(このとき犬の同伴が可能かも聞いているあたり愛犬家でもある)、子供たちとも自分からコミュニケーションを取ろうとしている。そんな彼がもう家に帰ることはないと思うと胸がグチャグチャになる。
ここだけ見るとあまりに真っ当な大人物なわけですが、最期の瞬間、ジミーに語ったところによるとスウォンジーにもアレコレ後ろめたいことがあったようで。曰く妻子のある状態で酒浸りの生活を13年も続けていた。
そこからスウォンジーは一念発起して、「良い人間になろうと」した。
「良い人間」になってみてゴールラインを越えてみて、それがあんまり大したものじゃないとも思った。
スウォンジー:
人生 最高の日々だった
スウォンジー:
……人生 最高の日々だったんだ
きっとスウォンジーにもジミーのように何者かになろうとした時期があって、何者にもなれなくてもせめて良い人間ではあろうとして、振り返ることができるようになってからそういう日々が自分にとって大事なものであることを認められるようになったのだと思う。
ジミーとスウォンジーの違いはきっと責任と向き合う覚悟ができたかどうか。妻帯者であるスウォンジーは自分の子供を産む女性と、生まれてきた子供と、犬に対する責任を果たしている。仕事に対しても、先のなさそうな会社にインターンとしてやってきた、将来技術者になるかもわからない人間に粘り強く付き合っている。
それらのことを最初からできていたわけではなく、13年は飲んだくれていたという、逃げていた期間が彼にもあったことが提示されている。だから、選択によってはジミーもスウォンジーになれたかもしれない。でもそうならなかった。
もう長くない状態で苦しむ近しい人に対してのケジメの付け方でも、この二人はハッキリ対比されている。
自分の起こした事故を止めに行って四肢欠損に全身大火傷の生き地獄を彷徨っているカーリーを生かし続けるジミーと、全身から血を流して何をやっても苦しみが長引くだけとわかっているダイスケに自ら引導を渡してやるスウォンジー。罪を背負ってでも楽にしてやろうという覚悟、あるいは相手への思いやりがあるかの違い。
アーニャに色々と聞かされたとき、もしかするとスウォンジーの中には同族嫌悪的な軽蔑なんかも生まれていたのかもしれない。
そして多分このアーニャとの会話によって、カーリー以外のクルーで衝突の犯人がジミーと気付いた唯一の人物。
スウォンジー:
ジミー船長が電源ぶっこ抜くんだ パーティ解散前にな!
ベロベロに酔っぱらって踊りながらこのセリフ。自分たちが間違った相手を犯人だと糾弾して、本当の犯人を船長と担いでいたことを悟っての自暴自棄に見える。
このときからスウォンジーの手には斧があり、この斧はカーリーに預けられたもの。
船長であるカーリーとの約束を守る方向にシフトし、危険人物のジミーに武器を渡さないためかな? でももうどうでもよくなっちゃって、最終的にはカーリーの鎮痛剤を補給するためと聞いて、斧を渡してしまう。
スウォンジー:
忌々しい日差しみたいな役立たず
ここでウワー!!!! となった人、多いんじゃないですか?
自分はなりました(号泣)
575調でリズム感もいい
スウォンジー、なんだかんだでダイスケのことは「ダイスケ」としっかり名前で呼んでいるんですよね。内心ではその働きぶりをちゃんと認めていて、しっかり育てていこうと考えている。ダイスケもそれをわかっているからスウォンジーの口の悪さにへこたれない。
一方、スウォンジーってジミーのことは「ジミ坊」と呼ぶわけで……後半はわりと大事な場面でも……。
どちらをより一人前として認めていたか、言葉の端々で感じることができる。
スウォンジー:
ウチの穀潰しども そっくりだ
これもつまり自分の子供と同じように感じる部分があったのかもしれない……。
しかしそんなスウォンジーもやっぱりアーニャからの相談を受けた後でも飲んだくれていて、結果としてアーニャの籠城・ダイスケの死を間接的に呼び寄せている部分がある。ここでスウォンジーが行動していれば、みたいな話は結果論にしかならないしあまり意味もないかなと思うのですが、本編が<スウォンジーは動かず、アーニャは籠城し、その顛末としてダイスケが死ぬ>という筋書きになっていること自体には意味がこもっているのかな、と思います。
社会の一員として立派に働き抜いて、それでも満たされないものがあって、後進の育成になにか光を見て、でもそれがひとつ被害の訴えを自分も大変な状況だしとそのままにしていた結果すべて失われる。極端すぎはしますけど、おそらく船内は極小の社会全体図で、すべてのスケールを5人に落とし込むとこのスピード感になる。
社会の一員として生きることって大事だし、いまの制度や仕組みがあることで自分みたいな人間も稼ぎを得て貯蓄だとかを持てるわけですが、その社会だって全然完璧ではないよね、とゲーム全体を通して言われているような……。でもジミー・カーリー・スウォンジーだってきっと生まれたときからそういう社会が世界のすべてだったはずで、そこに組み込まれず生きていくってすごく困難、というかほとんど無理難題なわけで。
どうすればよかったか? には、どうすればよかったんだろうね? とずっと考え続けることでしか答えられないような気がする。
ダイスケ
まだ10代のインターンくん。
親が応募をして今回の乗船が決定。実家ではまさにスウォンジーの言う「穀潰し」状態だったんでしょうね。自分の応募で参加したインターンから子供が帰ってこないダイスケの親の気持ちを思っても胸がグチャグチャになる。
ザ・チャラい若者みたいな雰囲気と周りの扱いですが、実際のところはかなり人を見て、空気も読んでいる。年齢と見た目、インターンという肩書で軽んじられがちですがなかなかに聡い人間なのだと思います。
ダイスケ:
お袋に罪悪感を抱えないでほしいんです
あの絶望的な状況でこのセリフが出てくる人間を死なせちゃいけない……。
ダイスケの話にはチラホラと家族が登場するし、こういう面も含めてスウォンジーはダイスケを凍結ポッドに入れるため、作業室を守っていたのだと思う。凍結ポッドが1個だけ生きていることをダイスケ以外の誰に知らせても不和の種になるのは確実だろうし。なんならダイスケにも教えたら他のメンバーに言っちゃう心配がある(少なくともスウォンジーの中では。態度にも出るかもしれないし、嘘の共犯にしたくないという考えもあったかも。)
ジミー:
あまり イジメられすぎるなよ
ダイスケ:
口ほど悪い方じゃありませんから
ダイスケ:
気難しいかもしれませんが マジ超一流のメカニックなんです!
ここの二人のやりとりも印象的。
社員同士で面識のあったろうジミーより、インターンで顔を合わせたばかりのダイスケの方が、スウォンジーの本質に切り込んでいる。そりゃあスウォンジーも目をかけるよ。
単純に初めてやる仕事なのと、本人の不器用さや空回りっぷりが合わさっているだけで、やる気はちゃんとあるもの。
で、スウォンジーがジミーのなれたかもしれない未来で、ダイスケが取り戻せない過去のジミーに被る存在なんじゃないかな~と。カーリーがこの仕事にジミーを誘ったのなら、それより前は何になりたいかもわからずにフラフラしていたのかも。
ジミーも誰かカーリー以外に師事することができれば、というかダイスケのように他人に心を開いて真っ直ぐ向き合うことができれば、また違った今があったのかもしれないな、とか。
実際、タルパ号の中ではダイスケもかなり精神的に厳しい状況にいると思います。
同年代は一人もおらず、自分はインターンで周りは社員。他の四人が当然知っている事情を自分だけしらないこともザラにある。仕事は教えてもらっている最中だから船内のトラブルでは役に立てない。だからたった五人しかいない船内で自分はアテにされないどころかお荷物になっている実感がある。そもそも船が事故ったって、無事に帰れるの? 自分が無事じゃなかった場合、絶対に母親は責任を感じるだろうし。できることをしたいけど、できることがない。
これで酒に溺れかけたのを自分で脱したのは本当にすごい胆力があると思う。
そんなダイスケだから、役に立ちたいという心を刺激されて通気口に突入してしまった。この、自分のスキルでは時期尚早な物事に突っ込んで空回りがちな部分がジミーにもあって、ダイスケとの対比になっているように感じる。
実力以上の肩書を求めて空回って事態をどんどん悪い方向へ持って行ってしまったジミーと、スウォンジーに認められるために自己判断で突っ走ることをやめて師事を仰げるようになったダイスケ。要はこれも現時点で自分にできることをきちんと見つめて、認めるってことができるかどうかの違いなのかな。
ジミーの自爆失敗さえ起こらなければ、というか自爆するにしても自室で自害とかに留めておけば……と思わずにはいられない。
チャプター・時系列
開発モードでチャプターリストを見ると、色分けがなされておりました。
各セクションが始まるときに挿入される文字の色とだいたい一致しているみたいです。
水色が事故前、オレンジが事故後、赤色が審判までのカウントダウン(当日)、で、紫色がジミーの精神世界に対応している様子。
各色のチャプターを連続で辿ると時系列の整理に便利そう。
追記:ということで、頭の整理をするために色々メモ。
チャプターリスト
まずはゲーム内で見られるチャプターリスト。
いくつか抜けている数字があったり、数字が前後している部分があるのですが一旦そのまま並べてみる。
C01.チュートリアル。船を小惑星へぶつける(衝突まで0日)
C02.船内を探索し、貨物ドアを開ける(衝突から2か月)
C04.ダイスケを泡から救出。カウンセリング、奇妙な海、カーリーの独白、解雇通知(衝突まで7日)
C05.テレビでマウスウォッシュのCMを見る。
C06.貨物がマウスウォッシュであったと知る(衝突から2か月)
C07.誕生日ケーキを作る。悲しいお知らせ(衝突まで6日)
C09.カーリーが呻いている。アーニャとスウォンジーの密談(衝突から3か月)
C03.カーリーとの会話。コックピットから斧を持ってくる。モニターは割れている(責任を果たせ)
C08.ベロベロのダイスケとスウォンジー。スウォンジーから斧をもらい、鎮痛剤と消毒液を発見。ラウンジのモニター割れる(衝突から4か月)
C11.スウォンジーがコックピットを襲撃。ロープとパイプでバリケード(審判まで6時間)
C12.アーニャとの会話。船室の鍵とドット抜け(衝突まで2日)
C13.アーニャが医務室に閉じこもる(衝突から5か月)
C14.ダイスケが大怪我。貨物室の見えずの獣(審判まで8時間)
C16.毒入りカクテル調合。凍結ポッドを確認。ダイスケ通気口へ(衝突から5か月)
C18.アーニャが銃を持ち去る。妊娠の発覚と相手の判明(衝突まで1日)
C19.ダイスケの介錯。アーニャの死体と銃の発見。夕焼けが消える(審判まで6時間)
C20.アーニャがジミーに妊娠を宣言。ジミーが船を衝突させる(衝突まで0日)
C21.ジミー船長の誕生日パーティー。カーリーの脚を切る(審判まで1時間)
EX1.ダイスケとスウォンジーの物語を締めくくる(責任を果たせ)
EX2.カーリーの物語を締めくくる(責任を果たせ)
EX3.ポレの物語を締めくくる(責任を果たせ)
C22.家に帰る(審判まで0時間)
こうしてみると本当に巧妙にジミーの仕業であることがわかりにくくなってるんだなあ……。
カウンセリングのあるチャプターで、カーリーが幻覚っぽいものを見ている描写が挟まるところとかミスリードが上手い。
時系列
上記をもとに、時系列を想像してみる。自分用メモ。
合っているかどうかはわからない。
C04.ダイスケを泡から救出。カウンセリング、奇妙な海、カーリーの独白、解雇通知(衝突まで7日)
C07.誕生日ケーキを作る。悲しいお知らせ(衝突まで6日)
C12.アーニャとの会話。船室の鍵とドット抜け。残り輸送日数237日(衝突まで2日)
C18.アーニャが銃を持ち去る。妊娠の発覚と相手の判明(衝突まで1日)
C20.アーニャがジミーに妊娠を宣言。ジミーが船を衝突させる(衝突まで0日)
C01.チュートリアル。船を小惑星へぶつける(衝突まで0日)
C02.船内を探索し、貨物ドアを開ける(衝突から2か月)
C05.あまりのショックにマウスウォッシュのCMの幻を見る。
C06.貨物がマウスウォッシュであったと知る(衝突から2か月)
C09.カーリーが呻いている。アーニャとスウォンジーの密談(衝突から3か月)
C08.ベロベロのダイスケとスウォンジー。スウォンジーから斧をもらい、鎮痛剤と消毒液を発見。ラウンジのモニター割れる(衝突から4か月)
C13.アーニャが医務室に閉じこもる(衝突から5か月)
C16.毒入りカクテル調合。凍結ポッドを確認。ダイスケ通気口へ(衝突から5か月)
C14.ダイスケが大怪我。貨物室の見えずの獣(審判まで8時間)
C19.ダイスケの介錯。アーニャの死体と銃の発見。夕焼けが消える(審判まで6時間)
C11.スウォンジーがコックピットを襲撃。ロープとパイプでバリケード(審判まで6時間)
EX1.ダイスケとスウォンジーの物語を締めくくる(責任を果たせ)
C03.カーリーとの会話。コックピットから斧を持ってくる。モニターは割れている(責任を果たせ)
C21.ジミー船長の誕生日パーティー。カーリーの脚を切る(審判まで1時間)
EX2.カーリーの物語を締めくくる(責任を果たせ)
EX3.ポレの物語を締めくくる(責任を果たせ)
C22.家に帰る(審判まで0時間)
こうしてみると、アーニャが医務室へ立てこもったのって頼れるかと思ったスウォンジーが結局飲んだくれて役に立ちそうにないからの可能性もありそうですね。やっと親身になって話を聞いてくれる人間が現れたと思ったら、ジミーを遠ざけることすらしてくれない……みたいな。じゃあ鍵のかかる部屋で安心して死にます! ってことだったのか?
そしてここでも頼られることのなかったダイスケ……。相談内容が一瞬でジミーに筒抜けそうという危惧は、まあ、そうだね……。
タルパ号の発送予定日数が382日、アーニャがカーリーに船室の鍵について質問した時点で残り日数は237日。航行から約145日経っている。事故がこの2日後に起きているため、残り235日ある状態で遭難したことになる。審判の日は航行開始から約300日後か。
……救難信号がなければ捜索なんて輸送期日を過ぎてから開始だろうし、そもそも会社ごとなくなるポニー運送が捜索をしてくれる可能性は相当低いと思う。たぶん事故が起きた以上、何も気付かず船が吹っ飛んで宇宙の藻屑になるルートが一番誰も苦しまないで済む。
で、冒頭のコレはきっちり事故当日の経過日数になっているのですね。
「苦しみを祈る」は事故を起こす瞬間にジミーが思い浮かべた言葉なのか。そうなるとやっぱり対象はカーリーかアーニャあたりになりそうなのがコイツ……。会社に対する恨み節ならまだ同情の余地があるものを。
カーリーが「ケーキを切ってくれ」と言ってくる場面がどのあたりかちょっとわからない。コックピットに斧があることやラウンジの室内の様子から見て最後の日のどこかかなとは思うんですが。チャプター21の中にチャプター3の内容が包括されているのかな。
カーリーの脚をナイフで切り分けたつもりになっていたけど、実際は斧で叩き切っていた? 大腿骨にしろ脛骨にしろナイフじゃ厳しくないかと思っていたので、斧で切っていたならむしろ納得ではあります。
クリアしてなおアレコレ考えられる作品って、サイコー!
まだまだ楽しんでいきたいです。
以上!