2010-08-20

彼女が重度の境界性人格障害だった

今年の春に上京して、少し経った頃に彼女ができた。もともとツイッターで話をしていて、東京に来たのをきっかけに会うことに。すぐに意気投合して、会った次の日には付き合うことになっていた。

笑いのツボも、価値観もとても近くて、お互いの趣味が一緒なのも嬉しかった。彼女が何かを話して、自分が同意をすると、こどものような顔をして喜んで甘えてくれて、それがとても幸せだった。

自分にとって初めての彼女だったから、変だと気づくのが遅かったというのはあったと思う。

半月が経った頃、彼女から「元カレDVされて、怒られるのがトラウマ」「家族が重度の障害を持っている」「DVの影響でこどもが授かれず、もしも授かっても遺伝的に障害がある可能性が高い」との告白を受けた。今の父は実の父ではないだとか、他にもそういう話はどんどん出ていたので、彼女のことが好きで好きで舞い上がっていた自分は「なんて不幸な生い立ちなんだろう。いや、不幸っていう言い方はよくない。そういうのが幸せだと思っていたんだ。じゃあ、自分が本当の幸せを与えてあげよう」としか考えられなくなっていった。10年20年を考えた付き合いをしようと改めて伝えると彼女はとても幸せな顔をしてから、「あなたが今までの人の中で一番です」と泣いた。

彼女はほんとに些細なことで不機嫌になって、数時間で上機嫌に戻る。不機嫌になると(今思えば都合よく)眠くなったり疲れたり頭痛になったり、でも仲直りするとそんなことなかったかのようにはしゃぎまくる。ジェットコースターみたいな毎日で、刺激的ではあった。JRでお互いの住む地域まで1時間以上かかるのに、一月の7割近くは会っていたと思う。

トラウマに触れないように、自分は徹底して、彼女わがままな言動に一度も怒らないように接していた。「他の女性ツイッターで会話されるのは嫌だ」「多人数でも他の女性と会われるのがいやだ」と言われたのでやめるようにしたし、「男友達と会った時も浮気だと考えてしまう」と言われたから毎回会っている人の写メールを送った。それでも疑われるのでなるべく会わないようにしていった。夜の十時に「今から(終電まで)会いたい」と言われたら一時間かけて駆けつけたし(無理だとかメールにしようと言うと「会いたくないんでしょ」と怒る)待ち合わせ場所についてから2時間経ってからキャンセルの連絡が来ても怒らなかった。ほぼ毎日深夜に電話を2時間以上したり(たいてい向こうは途中で寝るので切ろうとすると怒ったり、10分出るのが遅れると浮気を疑われたりした)、メールを一日最低30通したり(5分返信がないと「嫌われたかなあ」だとか「メールする気ないならやめる?」と怒られる)。急に激怒されても、嫌な気持ちにさせてしまった自分が悪いと謝った。向こうが元カレツイッターで会話していたり、自分に課してくる注文と同じようなことを彼女が守らなくても、何も言わないようにした。我慢はできたし、指摘したら「じゃあもういい、ツイッターやめる!」みたいにありえないほど怒るから。怒っていない彼女はとても甘えてくれて好きだったから、怒らせないように必死になっていた。

でも、数ヶ月が経ったある日、彼女に好意を持っている男(彼女はそのことを知っている)と、彼女の友達と、彼女の3人が飲みに行った。ちょうど前日に彼女が不機嫌になっていたこともあり、あてつけとは言えど、好意を持たれているとわかっている人と少人数で会われるのはさすがに嫌だったので「あまりそういうのは行かないでほしい」と諌めると、彼女は「怖い」と言った。次の日、再びその男と一昼夜一緒に過ごした彼女音信不通になった。数日後にメールで連絡を促すと手の平を返したような態度しか見せず、結果別れるということになった。今は彼女は、その男と付き合っている。

彼女がいなくなった頃、見計らったように境界性人格障害ボーダー)のことを知って衝撃を受けた。ほぼ全ての項目が彼女に該当していたから。

・見捨てられる不安や恐怖心が強い

・他者を過大に評価し理想視していたかと思うと、急にこきおろしたり激しい攻撃性を向ける

・人と適度な距離感を保てずグレーゾーンのない好きか嫌いかの両極端で不安定な対人関係しか持てない

感情の起伏が激しく自分感情コントロールすることができない

・数時間から1日~2日で気分がコロコロと変わる

価値観人生観が変化しやすい

・虚言が多い

・キレやすい

慢性的空虚感と虚無感

自己主張する割に甘えが強い

・ダッコなど3、4歳のような愛情を求める

・最も身近な相手を振り回し、相手が自分を見捨てないかを試し続ける

愛情独占欲求が過度に強く常に誰かとつながっていたいと願う

・嫌われたり捨てられるのではないかという恐怖心や猜疑心から攻撃行動をとりやすい

・時に自ら嫌がられるようなことをわざと行ない「ほらやっぱり私を見捨てた」などと相手を困惑させる

あのあてつけは「試し行為」であることを知った。愛されていることを確認するために、相手の嫌がる無理難題を持ちかけて許してもらおうとする。でも、例えそれをクリアしても要求はどんどんエスカレートするから、結局いつか破綻する。ボーダーに「そういう愛情表現は間違っている」と言っても通用しない。彼女はまともな愛情表現を知らない人だから。

一度だけ、音信不通の時に彼女バイト先の駅まで行った。別れるにしても直接話したかったし、前にこっそりバイト先に訪れた時は喜んでくれたし、不機嫌から上機嫌になるのもこちらから水を向ければ今まではあっという間だったから。でもその日は会ってくれなかった。

後に彼女の共通フォロワー伝いに聞いた話だと、自分は「"毎日"最寄り駅で"待ち伏せ"している怖い人」という扱いになっていた。彼女の頭の中の罪悪感が、嘘にならない程度に誇張され、彼女が悪くない方向に正当化されて、それが絶対の考えとなる。こちらから訂正を求めたくても、ストーカー同然の扱いをされているため、無理に近寄ったら「怖い」と言われる。彼女の周囲の取り巻きには彼女しか近寄れないし、心情的に彼女の味方をするから、当然自分が悪者になった話を真に受ける。元カレが一番距離的に遠くなるのを、無自覚でわかっているのだと思う。浮気や大量のわがままをしてきたのは彼女なのに、全ての罪を自分転嫁されて、「元カレはひどかった」「わたしは男運が悪い」と周りの男にアプローチ。そういう言葉につられてやってくる男を捕まえて、付き合い始めの楽しく甘い部分だけを吸って、ボーダーの症状が出る頃に次のターゲットを見つけて乗り換えてここまでやって来ていたということを、別れてからようやく気づいた。

詐欺とは違うのだと思う。詐欺は初めから相手を騙すことを考えているけれど、ボーダーは騙す気はなく、好きでいる瞬間は真剣に好きなのだろう。彼女も自身のことを「わがまま」「ツンデレ」「やきもちやき」という風に捉えていた。彼女の中では、恋愛下手なわたし、なのだ。

だけど彼女反省学習をできない。反省自分が悪いと思わないとできないから。彼女自分に都合の悪いことを全部相手が悪いと正当化してしまう。新しい恋人とも今は楽しいだろうけれど、絶対に自分のような流れで失敗するし、次も、その次も同じことの繰り返しになる。

最近、新しくできた彼氏ツイッターをのぞいてみると、「あなたが今までの人の中で一番です」というようなことを言われた、と舞い上がっていた。時期から何まで、まったく同じパターン。ちなみに、この人が彼女にとって20人目の彼氏彼女は20代前半。

今考えるとありえない人だったけど、深い仲になった恋人にしか本性を見せないから、周囲の評価はすこぶるいい。真実を知っている恋人カットアウトして「ひどい人だった」「わたしは断れない性格」とアピール、周囲は「かわいそうに」「あなたは優しすぎる」ともてはやす。本人は悲劇のヒロインとして構ってくれることに喜び、元カレたちだけが割を食う。すごくよくできたシステムだと思う。

DV元カレも、本当の部分はあれど、それほどひどい人ではなかったのではないか、と思うようになってきた。自分の行動で、ひどいストーカー扱いになるくらいだから。彼女の話もどこまでが本当なのか、今では疑わしい。

ボーダーの人は、初めに恋人理想化するから、その時の異常なまでの好かれ方がまだ残っていて、たまに思い出すとつらくなる。不機嫌になった時は全人格を否定されるようなことを、彼女なりの正しい論理でとことん突きつけてくるけど、逆に上機嫌の時には、全人格を肯定しても足りない、というほど肯定してくるから、今後あれほど好かれることがあるのだろうかと不安にはなる。

でも、ずっと続いていたら確実に依存になってしまっていたと思うし、友達や仕事も全て悪い方向へ行ってしまったと思う。そして何より、彼女は見切りをつけたらあっさり次へ行く。彼女にとっては構ってくれる人なら誰でもよいから。だから深みにはまる前に別れることになってよかったのかもしれない、と今では思う。覚せい剤みたいなもので、向こうに完全に自分を委ねていたら、いなくなった時に耐えられなかった気がする。自分彼女を愛していたけど、「ある日いきなり消える可能性を孕んだ二人だけの世界」で生きることは無理だった。一回相手を諌めた程度でなくなってしまう関係は対等ではないことに、ようやく気がついた。

一度彼女が最高潮に怒って(「会いたい」と連絡が来たので、会ったら「疲れてるんだけど」と怒られた)、その時「他人を信じてもどうせ裏切られるだけだから、初めから信じない」「信じているのは自分だけ」と自嘲気味に言ったことがあった。

でもきっと、彼女の中にはちゃんとした自分がないのだと思う。ずっと逃避して生きてきたから精神が途中で止まっていて、それを認めるのがつらいから、正当化するためにカメレオンのように恋人に言動を合わせて、これが自分だと思い込む。指輪をひけらかすように、のろけを強要して、「わたしの彼氏はこんなに愛してくれるのよ」と周囲に見せびらかすことで自己肯定をする。ボーダー典型的な症例らしい。

「新しい恋人性格がぴったり」と、まるで懲りていないツイートを見て、そう感じた。自分彼女性格運命的に合っていたのではなくて、実は無意識に向こうが合わせていた、というのが一番悲しかった。

つらいこととかから逃げないで、自分ダメな所と向き合って、じっくり解決していこうと何度も言った。壊れそうな人だから大事にしたい、と思った気持ちに嘘はなかった。

でも相手はもう壊れてしまっていた。

ボーダーであることを教えたい。けれど、今は話を聞いてくれる立場ではないし、他人に戻ってしまった自分の役割ではないのだとも思う。

それにやっぱり、正直もっと不幸な目にあってしまえ、と思っている自分がいる。

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