2001年という年は僕にとって、60年代とその前後の時代に作られた日本のインディペンデント映画を何本もまとめて見る機会が妙に多かった年、として記憶される年だ。この映画『地下広場』も、その年に見て衝撃を受けた作品のひとつ・・・と思っていたのだが、この本の年譜によると僕が見たBOX東中野の企画上映『フォーク・デイズ』は2007年となっている。僕の記憶違いかと思ったが、07年ならBOXはとうにポレポレに代替わりしている。やはり僕が見たのは01年ないしは02年のはずだ。それはとまれ、日本のポップないしはロック史でのフォーク・ゲリラの評価は《運動としての意義は認める》が後世に残る作品や人材を生まなかったので《運動として限界があった》というようなものだ。要するにやったことはカッコいいけどスターや業界人が生まれなかったからダメ、というワケだ。何とも官僚的な見解ではないか。「巨匠と名作」という大時代的な認識でしか文化を測定できないとは。実の処、僕自身もまた、そのような情けない見解を鵜呑みにして納得しようとしていた面があった。そのようなフォークゲリラ観を粉砕し、かつ無名性・匿名性が鍵を握る文化、というものに気づかせてくれたのが、このDVDブックの主役である大内田圭弥の自主映画『69春~秋 地下広場』(70年)だ。作品を見ればわかるように、歌は討論や落書きと等価であって間違っても「作品」の発表会ではなかった。当事者の回想によると、そもそもはフォークソングの路上集会として始めたら結果的に著しく逸脱した祭りと化したのだという。つまり、こうなるとは誰も思っていなかったのだ。この映画自体も大内田の生前の回想によると、もともとは好奇心でカメラを持ち込んで勝手に撮っているうちに知り合いが生まれて彼らと組んでの作品化に向かっていったようだ。地下広場の集会が雪だるま式に拡大したように、それを撮るフィルムもまた、雪だるま式に膨らんでいったわけだ。この映画のDVDブック化が幸運だったのは、デザイナーでありかつ映画批評家でもある鈴木一誌が編集に参画したことにより、よくある昭和ノスタルジア本とは一線を画す本になったことだろう。何よりも忘れられた映画作家・大内田にも多くのページを費やしているのがすばらしい。筒井武文による論考『しかし、歌声と討論は残った』は一読の価値がある。なぎら健壱のエッセイ『フォークゲリラがいた』よりも、だ。ところで、この本には、あの当時東映の宣伝部所属の宣伝マンだった名惹句師・関根忠郎が採録シナリオ担当で参加している。ちょっと驚いた。
追記(2017年6月17日):5月から6月にかけて、久々に霞が関方面にちょくちょく足を運んで(いうまでもないが例のインチキ法案のため、である)改めて感じたのが、今や政治集会こそが消費(経済)に回収され得ない(回収しようがない、というべきか)天然の表現者たちがどこからともなく現われて集結する数少ない場になっている、という事実である。これは文化の脱政治化(脱臭化)と経済至上化(効率化)が生んだ逆説ではないだろうか。
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1969: 新宿西口地下広場 単行本 – 2014/6/1
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付属資料:DVD-VIDEO(1枚)
- 本の長さ255ページ
- 言語日本語
- 出版社新宿書房
- 発売日2014/6/1
- 寸法15 x 1.9 x 21 cm
- ISBN-104880084387
- ISBN-13978-4880084381
登録情報
- 出版社 : 新宿書房 (2014/6/1)
- 発売日 : 2014/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 255ページ
- ISBN-10 : 4880084387
- ISBN-13 : 978-4880084381
- 寸法 : 15 x 1.9 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 787,288位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 103,665位社会・政治 (本)
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- 2014年8月8日に日本でレビュー済みAmazonで購入1969(昭和44)年から45年経ち、69年を見直すための本が出た。69年の5月から7月まで、新宿駅西口地下広場で毎週土曜フォークゲリラの集会が行われ、ついには七千人のデモ隊となって地上へ噴出していった。警察は地下「広場」を地下「通路」と名称変更し、集会を禁止した。本書はその当事者へのインタビューと関係者の文章などで構成されていて、時代の重要な資料となっている。また大木さん達は現在も西口で表現活動を継続している。
地下広場の初めの頃は、小規模のフォーク集会、各大学や各団体のカンパや署名活動、そしてあちこちで討論が行われているという、まさに「広場」の状態だった。闘争中の各大学は機動隊導入、ロック・アウトにより学生をキャンパスから追い出し、そうした学生の一部は、西口地下広場のフォーク集会に集まり始めていた。大学の同期の「ベ平連」の奴から地下広場の機動隊排除を聞き、彼らの誘いもあって、翌週5月24日の集会には皆で語らって参加した。以後毎週参加。6月14日は六千人以上の大集会となり、翌日は日比谷公園で反安保の五万人集会。
この辺りから本書と認識のずれが生じ始める。フォークゲリラは地下広場集会を自分達の集会という認識にあるようだが、多くの参加者は、フォークゲリラを触媒とした反安保集会と考えていたように思う。地下広場を追われたフォークゲリラが岡林などのフォークを批判していくのも、自分達のフォークの方が正しいという、ある意味でセクト的認識に陥ってしまったからではないのか。この辺りは当時、竹中労さんが「流砂の音楽革命」という文章で批判していた。また本書には何故か肝心な当事者が書いていない。文中多数引用されている、70年出版の『フォークゲリラとは何者か』の編著者でもある吉岡忍だ。DVD化された映画は大学時代に見ていた。今見ると「広場」を潰され、11月の佐藤訪米阻止闘争に向かうという69年の状況がそこにあった。最後に鈴木一誌の69論、宙づりの思想という設定は面白い。しかし、文化の各ジャンルが完成、成立するのも69年なのだ。
- 2022年12月22日に日本でレビュー済みAmazonで購入まぁ、希少本ですし、DVDの内容はyoutubeで確認できるし、本の内容が分かれば良かったので返品はしませんでしたが、ちょっとがっかりです。
- 2022年12月26日に日本でレビュー済みAmazonで購入
- 2014年6月6日に日本でレビュー済み1969年7月20日アポロ11号が月面に着陸し人類最初の一歩を踏み出した。1969年10月29日インターネット(ALPANET)の最初の通信が行われた。国際的には、1969年6月8日にニクソン大統領がベトナムからの米軍撤退計画を発表し、6月10日:南ベトナム臨時革命政府が樹立された。世相を表す言葉は、大学紛争、内ゲバ、造反有理、ベ平連で、話題としてヒッピー族、フォークソング集会、粗大ゴミなどが思い出される。
そんな1969年に新宿西口地下広場でベトナム戦争反対をフォークソングで訴えた若者たちが話題になった。彼らをを中心としたドキュメンタリー映画「地下広場 -1969・春~秋-」(1969年・大内田圭弥監督作品・モノクロ・84分)のDVDがこの本の魅力だ。
そして当時のフォーク集会の中心にいた大木晴子さんの回想と仲間たちの文章の引用など貴重な資料集でもある。この書籍は1969年という世界の変換点を新宿西口地下広場から振り返るものであり当時を知らない若者たちに問題を提起するものでもある。
- 2014年9月30日に日本でレビュー済み1969年の春から夏にかけて新宿駅の西口地下広場に現出した数千人規模の「歌声と討論の空間」について、大内田圭弥監督の貴重な記録映画と当事者の証言、膨大な資料、さらには、各界の専門家によるフォークソング論、映像論、思想・文化論など多様な切り口から再現・検証していく非常に読み応え(と観応え)のある一冊である。特にフォーク・ゲリラの中心で歌われていた大木(旧姓山本)晴子さんと茂さんご夫妻の対談が、フォーク・ゲリラ黎明期から最盛期、そしてほろ苦い終焉期までの一連の出来事を時系列に沿って、瑞々しく活写しており、「フォーク・ゲリラとは何者か」を知るための最良のテキストとなっている。
もう一つ特筆すべきは、映画「地下広場」の採録シナリオであり、人々の討論、フォーク・ゲリラの歌、警官隊の警告などを一語一句漏らさず文字に起こし、さらに詳細な注釈を付けることで、映像を理解する上で大きな助けになるとともに、1969年という時代を今に伝える第一級の資料として単体で成立し得るほどの素晴らしい出来栄えとなっている。大変な労作であり、このシナリオを読むだけでも本書を購入する価値があるだろう。
本書を読んでから、映画「地下広場」を鑑賞し、また本書に戻る、という読み方(観方)をお勧めする。本書が、優れた青春の書でもあることを実感できるだろう。
唯一残念なのが、なぎら健壱氏のエッセイに事実関係の誤りが多い点であるが、だからといって本書の価値が揺らぐものではない。(なぎら健壱氏への反論については「以下のURLを参照」と書きたかったが、特定サイトへの誘導になるため控えておく。)
- 2014年9月16日に日本でレビュー済みフォークゲリラの盛り上がりは、編著者らが思うほど深い意義のあるものではなく、単なる一過性のものであったような気がする。なので、なぎら健壱の一歩引いた視点からの文章が、最も的確で、その他は読む必要がないと感じてしまう(吉本隆明あたりの不明瞭な文章をこねくりまわしているような「1969年論」とか……)。映画も、当時の映像が見られるのはいいが、つまらない討論(口論?独り言?)のシーンが多くて、あまり見るべきところがない。
- 2015年10月24日に日本でレビュー済み「1969年 新宿西口地下広場」大木晴子・鈴木一誌編著 新宿書房 3200円
毎週土曜日の午後、新宿西口地下広場で脱原発や戦争反対を唱え色々なプラカードを持ってスタンディングしているご婦人がいる。彼女が一人で始めたこの権力に対する抗議のスタンディングは時には数十人の無名の通りすがりの人達も立つようになった。時代は1969年70年安保条約改訂を控えベトナム戦争が激化した頃、日本がこの愚かな戦争に加担しょうとしつつある時、突然新宿の西口広場でギターで反戦歌を歌い出す若者達がいた。その歌声の輪は若者達で埋め尽くされ「若者の反乱」と言われ一つの社会問題にもなって行った。なんと彼女はあの「政治の季節の時代」のべ平連(作家小田実が呼びかけたベトナム戦争に非暴力で反対するグループ)の中にいる歌姫だったのだ。彼女とその運動に関わった面々が語る時代、ドラマの数々。「それから40年近く経って世界はなにも変わっていない。唄でなくプラカードを持って、それだってフォークゲリラだと思うんです」(大木晴子)の言葉は重い。値段はちょっと張るがなんと当時の貴重な映像のDVDが付いている。当時の若者達の雄叫びを反戦歌に重ね合わせて、更には大木晴子の「生き様」に是非読んで欲しい(平野悠)