「ラーメン大好き小泉さん」と「ゆるキャン△」を見て思ったラーメンのすすり音
今期も様々なアニメが最終回を迎え、今期アニメの振り返りや次の期のアニメの準備の時期に差し掛かってきました。私はそんな中、来期はどのアニメをおさえればよいか全く予習できていない現状ですし今期アニメの振り返りもほとんど出来ていない感じです。
そんな今期アニメで個人的にピックアップするべきことだと思ったのがアニメにおける咀嚼音についてでした。特にラーメンをメインに我々にダメージを与えた「ラーメン大好き小泉さん」と、野外メシで夜中にリアタイをしている我々に追い打ちの如くダメージを与え続けた「ゆるキャン△」がそうでした。
アニメとしては双方面白いなぁと思ってみていたのですが、その中でずっと気になっていたのが彼女たちの発する麺類の咀嚼音についてでした。1話からずっと気になっていたところですが、なかなか言語化するのが難しくてひとりもやもやしていました。
そんな中、咀嚼音についてこと細かに羅列*1した文献*2が出てきました。この資料は女性声優の咀嚼に対する熱を感じさせる、とてもいいものでした。何よりSoundCloudの音声データを組み合わせているところがポイントが高いです。
Seiyuu Has A Mouth, and Seiyuu Must Eat Screamingly. – Watch. Fap. Improve.
とは言え、私が個人的に気になったのは「その中でもラーメンをすする音は自然なのか」というところです。上記文献ではあくまで「女性声優さんの奏でる咀嚼の美しさ」に着目をしているため、その音が自然なものかという考察まではなされていないように感じました。*3
こと声優さんの演技は作品によってオーバー気味になっていると感じることもあり、またすする音についても「息と啜りの2つの要素」だけでそれを表現するにはあまりにも大変なのでしょう。そんな咀嚼音について、個人的に感じたことを今期の作品と比較すべき対象とを含めてお話をしていくわけです。
ラーメン大好き小泉さん
©鳴見なる・竹書房/「ラーメン大好き小泉さん
ラーメンの描写、勢いのあるSEなどラーメンシーンに拘りが強く表れているこの作品。もちろんすする音も各声優さんによるもので、各話で気合に入り方が違います。
ただしそのすすり音自体がラーメンをすするにはちょっと不穏の音が混ざっています。個人的にこの何とも言えない高めの音がラーメンをすする音に混ざっていることにより、ラーメンを食べる際独特のいい下品さが表現されているように感じましたが、キャラによってはリップ音を通り越し「それラーメンの音やない、ただのチュパ音や」というほどのいやらしさを感じるものでした。悠、おまえや。
ちなみに潤役の原由実さんや、11話に出てきた悠のいとこのねーちゃん役こと植田佳奈さんのラーメンのすすり音は個人的にですが違和感が少なく感じました。特に植田さんの11話最後の中華そばのすすり具合については中華そばを食べたているような音の感じでした。単純に経験値の差なのか、その時のラーメンの特性によるものかはわからないですが。
比較対象として「ラーメン大好き小泉さん」のドラマ版*4やドラマ版の孤独のグルメ*5の麺類のシーンばかりを集めて見ていたわけですが、麺をすする音としてはズゾゾという低音響く音がメインで、汁気が混ざることで少し周波数の高い汁気を感じる音が加わる用に感じました。これは、「孤独のグルメ シーズン3 2話」のパタンと呼ばれるペペロンチーノを食べるシーンで汁なし、ありの時の音の違いを感じることができますので、気になった方は見てみるといいです。*6
とまぁそんな感じで記事を書いていたところ、竹達さんと佐倉さんのインタビュー記事が出てきました。その中に記載されていたラーメンを食べるシーンについての技巧的な部分が以下のものです。ここに書かれている竹達さん、佐倉さんたちの演技技術と音響スタッフさんの技術のもと、この作品でラーメンをすする時のダイナミックな音が表現されているのですが、そこに本当のリアルさとのミスマッチ感が払拭できない難しさがあったのかなどと考えていたわけでした。個人的には低音を足す前の音がどんなものだったのかが気になるところです。アフレコ現場とか見てみたいですよね。
佐倉 すする音は私たちの芝居にプラスして低音を効果音として足してくれているんです。私たちがマイク前ですするお芝居をしても、高い音のすすり音しか出ないんですよ。役が決まってからプライベートでラーメンを食べる時は意識をしていたのですが、リアルに麺を食べる時は、口をすぼめて「オ」の形になるのですが、そうすると舌が触れないからマイクに音が乗らないんですよね。最初、実際にラーメンを持ち込んでいいかどうかを聞いたのですが、さすがに液体の入った丼はNGでした(笑)。
(中略)
佐倉 後日うかがったところ、由実さんはペットボトルを持ち込んで水を口に溜めて、それをツバのようにしてすする音を出されていたそうなんです。
この作品を見ていて一番に感じたのが、ラーメンのすする音って本当に難しいんだろうなぁということ、ダイナミック、オーバーなすすり音の違和感が個人的に拭えなかったというところでした。
ゆるキャン△
©あfろ・芳文社/野外活動サークル
12話を通してキャンプの楽しさや高校生たちの青春などをきっちり描いていた今期の超良作です。特に最後のなでしこのキャンプセット組み立てシーンは、1話のしまりんのシーンとの重なるだけでなく、欲しかったランプを置いたときのワクワク感、しまりんとのメールのやりとりから感じるふたりの距離感などの全てが描写この作品のよさとしてぎゅっと詰まっていました。
で、ラーメンのすする音に入る前に食べるシーンの総括的な話として、以下わさすらさんの記事でも書かれていたワードを抜粋します。個人的に大好きな2話の鍋のシーンはその鍋の熱さ、冬の寒空を感じさせるはふはふ音、口の中で味わうときの言葉にならない感じの音感が心地よかったです。目と耳からだけなのに五感の全てに訴えかけるような飯のシーンのオンパレードでした。
花守ゆみりの「思いっきりほおばりながらしゃべる」演技、東山奈央の「本当にうまいものを食べた時に鼻の奥で声が響く」演技、このアニメは耳からも食欲を促す。
食べるシーンの描写については京極監督のインタビューにもあるように、ただおいしそうに描くのではない、というところがゆるキャンのごはんシーンの描写や声優さんのそれぞれの演技に出ていたと思います。1話のカップラーメンのシーンなんか、あれだけの躍動感を飯のシーンに乗せてくるのはとてもズルく映りました。
©あfろ・芳文社/野外活動サークル
キャラクター各々の個性が出ているごはんシーンは、アニメを見ていた人に「飯テロ」などと言われつつもいい刺激を与えていました。ごはんのおいしさを全身で表現するなでしこの飯のシーンでは「ただひたすら食ってる」という感じを音と映像に乗せ、一方で黙々とおいしいご飯を味わうしまりんの飯の部分では語り口調が多く「孤独のグルメ感」が全面に出ているように、くっきりと描写方法を作品全体で分けてきたのは個人的にズルい表現方法だと思いました。
――なでしこの大きな魅力に「おいしそうに食べる」があると思うのですが、花守さんの食べる演技はいかがでしたか?
京極 ここは相当テイクを重ねたところです。“おいしそうに食べる子”に見えなければいけないので、花守さんは大変だったと思いますがこだわってやらせていただきました。おかげで、本当になでしこが食べている感じになりましたね。第1話でカップラーメンのテイクを重ねた後、花守さん自身が「お腹が空いた」と言っていたぐらいで(笑)。
――食べるシーンは原作でもカットを多く使い、表情のちょっとした変化などこだわりを感じました。
京極 料理ってただきれいに描けばおいしそうかと言えばそうではなくて、食べる反応があっておいしそうに感じると思うんです。なので、いかに幸せそうに食べるか、そこは声だけでなく絵の面でも強調しています。
ただ1話のカップヌードルのシーンでは「ラーメン大好き小泉さん」の時と同様に花守みゆりさんのはふはふからのリップ音が目立つように感じたのですが、なでしこ正面のシーンと背中が見えているシーンではラーメンをすする音が大きく違っていたし、スープを飲む部分はうまいなぁと感じたので、このシーンの演技指導として「こう使い分けて演技して欲しい」と言われたのかなと思ったわけです。このあたりのアフレコシーンとかどうやってやってるのかほんと見てみたい限りです。
©あfろ・芳文社/野外活動サークル
1話カップヌードルを食べるシーンではしまりんのすすりシーンもありました。なでしこは何よりうまそうにズバズバ食べる感じとは違い、しまりんは大きく口を開けず少しずつ食べるような感じには、アニメ独特の『いやらしくなさ』というか『オーバーすぎないか』を感じました。3話の餃子鍋回の餃子を頬張りでスープをすするシーンがありましたが、そちらは確かに「熱く、辛い汁をしまりんががっつく」という前提ではっふはっふしていましたが、そこにもオーバーさはないしまりんらしさが出ていました。
キャラの差というところからか、そういう表現としてオーバーになればなるほどそのシーン自体の違和感が強くなるような雰囲気がこの作品からも伝わってきました。
だがしかし
©2018 コトヤマ・小学館/シカダ駄菓子
ここからは先述した2つの作品の説明の補足的な部分になります。
竹達彩奈さんのラーメンすすりといえば、「だがしかし」1期のブタメン回を抑えておく必要があります。「だがしかし2」にもラーメン回があったっけと思ったのですが、残念ながらパスタ風のあれですすり音なしでした。
で、このブタメンのシーンですが、暑い部屋の中ブタメンをすするという原作さながらかつどう考えてもスケベ路線まっしぐら*7なのですが、その中での竹達さん演じるほたるさんのふーふーシーンにはなかなかのリアリティを感じます。ただしその後のすする音が先述した「ラーメン大好き小泉さん」での竹達さんの演技に近く、チュルチュルした感じでした。細い駄菓子麺だからこその音なのかなぁとも思ったのですが、先述の孤独のグルメでの細麺を食すシーン*8との音の違いから「息と啜りの2つの要素で表現するラーメンのすすり音の難しさ」を感じさせます。
干物妹!うまるちゃんR
©2017 サンカクヘッド/集英社・「干物妹!うまるちゃんR」製作委員会
「自然なラーメンのすすり音」を考える時には干物妹!うまるちゃんR1話の「深夜にカップラーメンを食べるシーン」は外せません。先に取り上げた作品群の音とは違い、ダイナミックさなどはありませんが、ラーメンを食っている音のリアルさがよく伝わってきます。その理由はカップ麺持ち込みによるリアリティの創出です。
前に「咀嚼音は、息と啜りの2つの要素で表現される」とは言いましたが、やっぱり現物の音感には敵わないです。特にスープを飲むシーンなんかは本当にカップラーメンを食べているときの音そのもののあの感じでした。
ラーメン食べてるシーンは本当にラーメン食べて音録りしました!笑
— 田中あいみ (@kanataimi) 2017年10月8日
スタジオいっぱいに広がる濃厚な豚骨の香り…みんなのお腹が鳴りっぱなしだったよ…#umaru_anime pic.twitter.com/pH562fQdJw
うまるちゃんシリーズの音づくりの中ではラーメンをすするシーンもそうですが、ポテチのバリバリ音にもそのリアルさが出ています。「現場に現物を持ち込むんや……」と思ったのですが、それがうまくマッチしたようです。
何よりよかったのが、その音が空腹をそそる音であることと、音として違和感がなさすぎる(逸脱したものではない)ことの2点です。その2つをクリアしているこのカップメンを食すシーンは大変そそります。
音のいいアニメはお腹のすくアニメ
そんなこんなでラーメンをすする部分をメインに焦点をあてたシーンですが、声優さん個々の演技の差や作品の色・雰囲気もあり一概によいわるいはいいづらいです。ただ、この2作品(他いくつかの作品)を見た感想としては、麺類や汁気のあるもののすすりのシーンはオーバーになればなるほど違和感がつきまとうんだろうなぁということ、それぞれで様々な創意工夫がなされその違和感を軽減しようと模索しているところでした。
「ラーメン大好き小泉さん」からも「ゆるキャン△」からも伝わってきた印象として、すすり音としていいものが出来た場合には、聴覚から空腹を誘うような悪魔的な描写になるんだろうなとも思いました。もちろん持ち込みなどでリアルな表現を出せることに越したことはないのでしょうが、それが叶わない場合には声優さんや技術の方々の努力で最大限の表現がなされることでしょう。いつかこういうシーンのアフレコ現場とか見てみたいなぁなんて思ったりもしました。
そんなひとつの描写表現をとってみても色々な面白いポイントがある、そう感じたのが今回の話だったりします。本当はもっと色々な作品を取り上げてお話をしたり動画や音声データを用いた分析をぶっこんだりしたらもっと正確で面白いものが出来るのとは思ったのですが、気力と体力と空腹感に対する耐性が足りなかったので今回はこのあたりで。