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テスラは高度な衝突回避機能を備えた先進的な電気自動車(EV)として知られているが、ドアミラーをぶつけたり、狭い道でボディをこすったり…小さな自損事故が多いようだ。大きな事故は回避できても、日常的な接触事故の予防までは難しいのだろう。その最大の理由は、「ボディサイズ」にある。日本で販売の主力となっているモデル3やモデルYは、ドアミラーを開いた状態では2車種とも2.1m前後になる。
日本車から買い替えるオーナーも少なくないため、最初はこのサイズ感に慣れず軽い接触事故を起こすことが多い。大手損保会社に実情を聞いてみたところ、「初めて買ったクルマがテスラという方も少なくありません。高額な新車ということから、ちょっとした損傷でも保険で修理しようとする方が多い印象です。自損事故で保険を使うと3等級下がる…ということの意味を理解されてないケースもあります」という回答だった。
テスラの保険料は全般的に年々高くなっている。正確には保険料を左右する「料率クラス」が上がっているという意味だ。
自動車に関する損害保険には車検の時に加入が義務付けられる強制保険(自賠責保険)と任意保険(自動車保険)があり、料率クラスは任意保険の保険料に関わる。一般的には損害保険料率算出機構による「型式別料率クラス」の数字となり、対人・対物・人身傷害・車両の4種類がある。軽自動車で1-7段階(2024年までは3段階)、普通車で1-17段階まで設定がありクラスが高くなるほど保険料が高くなる。
料率クラスは事故の多寡によって毎年見直されるので、たとえ自身が事故を起こさなくても、同型車の事故件数が多ければ料率クラスが上がり、保険料が高くなることもある。なお、損保各社が独自に算出する料率クラスが適用される場合もある。
損害保険料率算出機構が公表しているテスラ各モデル(型式)の「料率クラス」(車両)を調べてみると、多くが15以上でモデル3の3L13T/3L23のように2年連続で最高クラス「17」の型式も存在する。
テスラの修理代が高い理由
料率クラスの数字が高くなるほどテスラの保険修理代は高い。これには明確な理由がある。そもそも、テスラを修理できる板金塗装工場(以下、BP工場)が限られており、BP作業に必要なパーツはテスラ認定のボディショップしか入手できない。認定ボディショップは、公式サイトで検索したところ全国に37箇所(2025年3月26日現在)ある。今まであまり表に出ていない修理事情を一般社団法人 日本自動車車体補修協会(JARWA)の 代表理事・吉野一氏に聞いた。
――テスラの修理は普通のBP工場で可能ですか?
一般のBP工場では困難です。理由をまとめると以下の通りです。
部品交換を伴う修理の場合、認定ボディショップでしか板金部品が入手できない。テスラオーナーであってもアプリから板金部品の購入は不可。
・アルミとスチールの異材接合などに関する研修を受けていない工場による修理は品質に問題が生じる
・テスラの部品を取り扱う部品商が日本では未設定
部品交換を伴わない修理でも、アウターパネルがアルミ合金の場合はアルミ板金用の設備と技術が必要です。これは、アルミ合金の修理に関する知見が一般的でないことが理由。ただし、メルセデス・ベンツ、BMW、アウデイなどを取り扱うBP工場であれば対応可能。
認定ショップ以外で修理した場合、電子制御装置の動作不良を含むメーカー保証の継続性が確約されない。テスラのエーミング作業ができない(対応スキャンツールなどを保有していない)工場が修理すると走行安全性に重大な疑義が生じる場合がある。
――このような状況を改善する動きはあるのでしょうか?
はい、あります。テスラは、上記の課題解決に向けて施策を実行中です。一例をあげると、板金修理を含むメンテナンス情報をWEBでオープン開示しています。実は非常に画期的なことで、パーツカタログの情報開示を行っている自動車メーカーはテスラが世界初。このサイトでは価格も開示されています。板金塗装に関わるパーツは認定工場しか買えませんが、他は一般ユーザーでもアプリから注文が可能です。

もちろん、認定工場の増加にも力を入れています。日本地図が埋まる程度には増やす必要があるので、継続的に募集を続けています。しかし、設備投資や研修の負担が大きいので、なかなか増えていかないのが現状です。「EV踊り場(EV販売の失速)」などの状況もこれに拍車をかけています。
また、日本ではまだ募集されていませんが、世界的には「部品サプライヤーのオープン募集」が始まっています。これは上記WEBで部品販売の既得権益と距離をおいたサプライヤーを世界的にオープン募集するものです。
――では、テスラ車の修理価格が高い理由はどんなことでしょうか?
テスラの部品価格自体はメルセデス・ベンツをはじめとした他の輸入車に比べて極端に高いというわけではありません。しかし、修理価格は部品代+工数×レバーレートで決定されます。そこにテスラ用の特殊設備などがレバーレートの算出根拠に含まれるため、国産車に比べてこれが高止まりとなっている状況です。また、認定工場の数が少ないため損害保険会社も工場主導のレートで協定せざるを得ない現状があります。
もうひとつは代車費用の高さです。代車は修理車両と同車格の車両を貸し出すことが一般的なのでレンタカーにした場合も高額になるのですが、テスラは修理期間が長くかかるためさらに代車費用がかさみます。
テスラ特有の「ギガキャスト構造」も課題、中国のNIOやシャオミも採用!
テスラが初めて実用化した「ギガキャスト」という車体構造も修理代の高さに大きく影響している。
ギガキャストは複数の部品をアルミダイカストで一体化することで製造コストを大幅に削減できる革新的な技術で、テスラ以外にも中国EVメーカーのNIOやシャオミ、Zeekrなどにも採用事例が増えている。しかし、製造コストは大幅に削減できても、これが修理となるとなかなか厄介な構造なのである。基本、ギガキャストに含まれる部品の修理はできなく、部品ごとの交換も不可能で、原則として全交換が必要となる。
こちらは、今年1月に東京ビッグサイトで開催された「オートモーティブワールド」の三洋貿易ブースに展示された解体後のNIO ET5である。こちらの写真では、車体後部にギガキャストが採用されていることがわかる。


ギガキャストは補修ができないとされるが、実際はどうなのか?前述のJARWA吉野一氏に聞いてみた。
「全メーカー補修禁止です。将来的にリペアビリティの向上を目的とするクラック(ひび割れ)の補修や部品分割による補修を可とする可能性はゼロではありません、これは各メーカーの検討課題です。
現在、日本ではギガキャストを採用するメーカーはテスラのみですが、『補修禁止』はほとんど問題になっていません。なぜなら、ギガキャスト部品が損傷するレベルの事故はほぼ全損となるからです。現状でメーカーが補修OKとしても、アルミダイキャスト部品を溶接補修できるスキルと機材を持った車体整備工場は皆無のため、修理の実行に現実味がありません。メーカーが修理方法を規定しない現段階において、仮にチャレンジする車体整備工場がいたとしても、修理品質(走行安全性や衝突安全性)の確保が大きな課題となります。見た目だけきれいに直っていても意味がないからです。」
テスラの修理代が高い理由は、装備的にも技術的にもBP修理ができる工場が少ないことに加え、ギガキャストに代表される独特のボディ構造によるところが大きいと考えられる。BP修理が必要になった時に慌てないよう、テスラオーナーは覚悟しておいた方がよさそうだ。
(文:自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子)
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