米トランプ政権、中国の越境ECに関税ショック TemuやSHEINの生き残り戦略とは

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トランプ政権の下、米国は中国をはじめとした各国に対して関税を上げようとしている。貿易赤字の解消や自国の歳入を増やすなどの狙いだと見られる。なかでも、中国発の越境ECプラットフォーム「Temu」「SHEIN」「TikTok Shop」「AliExpress」などが急成長する中、2月には800ドル(約12万円)未満の小口商品に対する関税免除政策「デミニミス・ルール」の適用が取り消しとなった。しかし、2月7日には関税徴収のための適切なシステムの整備を理由に施行の延期が発表されたものの、先行きは不透明であり、業者の間では不安が募っている。

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100円ショップなど安い商品が充実する日本だとその実感はないかもしれないが、米国や韓国など世界中で中国製品を手軽に購入できる越境ECが急速に普及している。特に、中国国内の景気が停滞するなか、海外市場に活路を見出そうとする中国企業が多いため、関税免除政策の撤廃は大きな打撃となる。

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関税引き上げで物流コスト増、通関遅延も

関税の引き上げは商品の価格上昇につながるが、中国企業が直面する問題はさらに面倒で深刻だ。少額商品の関税免除がなくなることで、それまで不要だった関税手続きが発生し、中国から発送されるすべての商品に対して、原産地や税番号の記入、税額計算、輸入申告などが必要となる。これにより、本来2〜3日で済んでいた通関時間が10〜15日に延びる可能性がある。また、国際物流業者の手間がかかる分、関税分の上乗せだけでは収まらない価格高騰が避けられない。

具体的に例を出そう。たとえば、米国在住の消費者がTemuで3ドル(約450円)の雑貨を10個購入し、ドル(約4500円)の注文をした場合、中国の販売業者は雑貨を梱包して中国から米国に直接発送する。これまでは800ドル未満の商品なので関税も手続きも免除され、中国から米国の消費者まで1週間程度で届くわけだ。しかし、今後「デミニミス・ルール」の適用ができなくなると、関税と手数料が上乗せされ、配達に数週間もかかるようになる。

さらに、TemuやSHEINは返品対応も行っているが、返品の際にも関税手続きが必要となり、消費者にとっての利便性が大きく損なわれる。これまでの越境ECは「手軽で便利」だからこそ人気を博していたが、今回の政策変更により、利便性の低下や価格上昇が顕著になれば、消費者離れが加速する恐れが出る。

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米国に政策あれば、中国企業に対策有り

イケイケの中国の越境ECは現状のままでは詰みそうだが、迅速に対応を進めている。中国には、「上に政策あれば、下に対策有り」という言葉があるが、今回もその例に漏れず、新たな物流戦略が動き出している。具体的には、中国企業は商品を米国の倉庫に事前に輸送し、米国内から直接発送する方式(米国倉庫シフト)を採用し始めている。これにより、消費者が注文した後に面倒な通関手続きを行う必要がなくなり、返品処理も米国内で完結できる。

越境ECに対応する倉庫は、米国や日本など中国国外に多数ある。ロサンゼルス近郊だけでも海外倉庫企業の数は3000社以上あり、しかも華人企業が運営する倉庫も少なくはない。かつてコロナ禍に海外から送られたものの通関に相当な時間を要し、処理能力が足らず港の外で多くの貨物船が待機したこともあり、海外倉庫のニーズが高まり相当数の倉庫ができている。その上で近年の越境ECのニーズの高まりとともにさらにその数は増えている。こうした海外倉庫を活用することで、中国企業は物流の混乱を回避しようとしている。

TemuやSHEINは、従来の「フルフィルメント」方式(商品の受注、在庫管理、発送、決済業、返品処理と顧客対応までの一連の業務を担当する)から、物流企業を販売者自身で選択できる「セミホスティング」方式に変更し、現地倉庫シフトを推進している。セミホスティング方式に移行したプラットフォームでは、すでに数万の販売業者が参加しており、中国企業同士の競争の激しさを物語っている。

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グローバル市場での競争はさらに激化へ

小口商品の関税免除を活用していた中国の小規模な販売業者は、小ロットで頻繁に商品を仕入れて販売し、迅速な資金回収を行うことでキャッシュフローを維持していたが、今後は物流コストの増加により、この手法が使えなくなる。そのため、越境ECで生き残るには、米国倉庫との連携が不可欠となる。大量の商品を米国倉庫に保管し、1個あたりの管理費用を削減できる販売業者ほど、競争力を維持しやすい。一方、米国の注文に応じて中国から都度発送し、資金回収のスピードを重視していた企業は、物流の遅延やコスト増によって不利な立場に追い込まれる。さらに、在庫リスクが増大するため、資本力のない企業は海外販売競争から脱落する可能性が高い。

中国企業は、米国の政策変更という逆境の中でも、すぐ対策を打ち出し、海外華人のネットワークや倉庫システムを活用するなど、事業継続を模索している。今後、米国市場をターゲットとする日本企業や他国の企業も、こうした中国企業と世界規模で競争することになる。

米国の政策が変わるたびに、中国企業の越境EC戦略も進化を遂げてきた。今回の関税措置が、越境EC市場にどのような影響を与えるのか、今後の動向に注目したい。

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(文:山谷剛史)

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