J3が映し出すJリーグと日本スポーツの未来像
サッカージャーナリスト 大住良之
スタートから22シーズン目を迎えるJリーグ。2014年は歴史の大きな転換点となるだろう。3部「J3」が誕生するからだ。
1部(J1)18クラブ、2部(J2)22クラブ、計40クラブの2部制で展開してきたJリーグ。J3は3月9日に12チームで初年度の開幕を迎える。「しっかりとしたプロらしいプロクラブを」と高いハードルを設けてきたこれまでのJ1、J2と違い、「未来のJリーグクラブ」を育てる「育成機関」のようなリーグ。そこに「Jリーグの未来像」が映されているように思う。
■「志」持つ団体、全国で活発な動き
合わせて51クラブがJリーグのメンバーとなった現在でも、日本全国で40を超すクラブあるいは団体が「Jリーグを目指す」と宣言して活動を続けている。J3の下に位置する日本フットボールリーグ(JFL)の所属クラブだけでなく、地域リーグ、さらには都府県のリーグで活動しているチームにも、そうした「志」を持った団体が存在し、活発な動きを展開している。
しかしクラブとしての体裁を整え、選手を鍛えて強くなっても、そこからプロサッカークラブとなるには高いハードルが存在する。「ホームスタジアム」である。
サッカースタジアムを建設しようとしたら、地方都市でも数十億円の建設費が必要になる。それ以上に難しいのが用地の確保だ。必然的に、Jリーグ参加を目指すクラブは、地域自治体と交渉し、自治体が所有するスタジアムをホームスタジアムとしてシーズンに20試合前後の試合が開催できるようにするしかない。
■ハードル高くなったクラブ資格要件
ところがJリーグでは、J1に参加するには1万5000人以上、J2なら1万人以上の収容力をもつホームスタジアムがあることと規定している。1946年にスタートした国民体育大会が2巡目を迎えている現在、全国の都道府県には少なくとも1つは1万人規模のスタジアム(陸上競技場)がある。
しかしJリーグは基本的に都道府県ではなく市の単位を「ホームタウン」としている。県立のスタジアムがそのホームタウンから近くにあればいいが、遠い場合には市の施設をホームスタジアムとするしかない。しかし市の単位では、1万人規模のスタジアムなどなかなか見つからないのだ。
Jリーグは12年にクラブライセンス制度をスタートさせ、スタジアムだけでなくあらゆる面でプロサッカークラブの要件を定め、その基準をクリアできないクラブはリーグから除外することにした。ハードルをさらに高くしたのだ。意欲はあっても絶望的な思いに包まれているクラブがいくつもあった。
■ホームタウンに力を貸してもらう狙い
J3は、そうしたクラブをとにかく仲間に入れ、プロサッカークラブとして運営させ、試合させるためのリーグだ。資格要件はあらゆる面でJ1、J2とは違う。ホームスタジアムは「原則として5000人以上」とし、夜間照明の設備も必須ではない。プロ選手は3人以上いればいい。
思い切ってハードルを下げたのは、J3の活動を通じてホームタウンの人びとに認知され、理解してもらって、J2の基準に適したクラブになれるよう力を貸してもらおうという狙いがあるからだ。
具体的に言えば、小さなメーンスタンドしかない5000人のスタジアムに夜間照明の設備を設置し、収容能力を1万人、さらには1万5000人に増やすための工事をしてもらえるよう、ホームタウンの人びとの支持を取り付けるためにJ3での活動を見てもらおうということだ。



■Jクラブ、61.7%の都道府県カバー
Jリーグは93年に10クラブ(8府県)でスタートした。そして2年目から次々と新加入クラブを迎え、6シーズン目には18クラブとなった。さらに加入希望クラブが目白押しだったため、99年にJ2を創設、J1が16、J2が10、計26クラブでスタートを切った。26クラブの所在地は19都道府県。全国47都道府県のうち8(17.0%)のみだったのが、わずか7シーズン目に40.4%へと増えたのだ。
そしてその後も新加入クラブを迎え、12年にはついにJ1が18クラブ、J2が22クラブとなった。40クラブの所在地は29都道府県。カバー率は61.7%へと上がった。
1シーズンの試合数は、J1が34、J2が42。ここまでで限界だった。13年には、史上初めてJリーグからの「降格」も行われた。それでもなお50に近いクラブが「Jリーグ参入」への意欲を燃やしていたのだ。それがJ3誕生の最大の力となった。
今年のJ3には、12年のJ2でプレーしたFC町田ゼルビア(東京都)、13年までJ2に所属したガイナーレ鳥取を除くと9クラブが新加入。J3を経ずにJ2に昇格したカマタマーレ讃岐(香川県)を含めると、10クラブが新しくJリーグの仲間となった。J1からJ3までの総クラブ数は51。36都道府県をカバーし、カバー率は76.6%となった。いまや、Jリーグクラブがないのは9県にすぎない。
■「夢のリーグ」だけでは豊かになれず
その9県も、大半のところでJリーグ参入を目指すクラブがあり、J3の誕生によりおそらく5、6年で大半の都道府県が何らかのJリーグクラブをもつことになると私は予想している。だがそれはまだ「夢の途中」にすぎない。
Jリーグはプロであり、華やかな夢の舞台だ。J1では1試合の平均入場者数が1万7226人(13年)にもなり、J2と合わせて全試合がテレビで全国に生中継されている。日本の最高クラスのサッカーを見せる場であり、日本を代表するサッカー選手を育成・養成する場でもある。同時に、地域の人びとに愛され、地域を活性化させる力になるとともに、少年少女に夢を与える存在でもある。
しかしそうした「夢のリーグ」だけでは日本のサッカーは豊かにはなれない。そしてまた、それはJリーグが理念として掲げる理想でもない。
■すべての市町村にスポーツクラブを
14年1月1日現在、日本には770の市と929の町村がある。そのすべてにそれぞれの地域名をつけたスポーツクラブ(サッカーに限らない)があり、地域の人びとの誇りになり、心のよりどころとなる……。都道府県の単位でなく、市町村の単位、すなわち身近にそうした存在がほしいのだ。
J3は、その「夢」への大きな第一歩ではないか。
今年のJ3は、11のクラブと「JリーグU-22選抜」という特殊なチーム、計12チームで構成される。U-22選抜は、16年のリオデジャネイロ五輪を目指す年代の強化のために特別に入れられたチームだ。
それ以外の11クラブを見てみよう。グルージャ盛岡(岩手県)、ブラウブリッツ秋田、福島ユナイテッドFC、町田、YSCC横浜(神奈川県)、SC相模原(同)、AC長野パルセイロ、ツエーゲン金沢(石川県)、藤枝MYFC(静岡県)、鳥取、FC琉球(沖縄県)。
町田と鳥取はJ2の経験をもっているが、他はJリーグ新加入。東北の3県、そして沖縄と、これまでJリーグ基準のホームスタジアム確保に苦戦していた地域のクラブが加入できたところに、非常に大きな意味がある。
■J3誕生がクラブ欲する人々に勇気
大きなスポンサーがつくわけではなく、クラブは年間予算数億円程度で運営されることになるだろう。企業スポーツのアマチュアチームより恵まれない状況での活動になるかもしれない。しかしその選手たちが地域名を背負い、地域のファン、サポーターのために全身全霊をかけて戦う姿は、もしかしたら、Jリーグ、あるいは「地域に根ざしたスポーツクラブ」というものがもつ最も根源的な力を見せてくれるかもしれない。
J3の誕生は、自分たちの地域にもそうした存在がほしいと願う全国の人びとに大きな勇気を与えたはずだ。現時点では、Jリーグに入りたいと表明しているクラブは40ほどにすぎないが、日本には市町村が1800近くもあるのだ。J3発足に勇気づけられ、この数が飛躍的に増えるのは間違いない。そして11クラブでスタートしたJ3は、今後数年間のうちにどんどん加盟クラブを増やしていくだろう。
■5年ほどで「東西2リーグ」実現も
「クラブ数が増えたら、『J4』をつくるという考え方もあるだろうが、『J3東』『J3西』とブロックを分けるという可能性もある」。1月29日、1月いっぱいでの退任を前にJ3の発足発表記者会見に臨んだJリーグの大東和美チェアマンは、このように話した。
もしかしたら、5年ほどで「東西2リーグ」は実現するかもしれない。
だがそれ以上に、J3のクラブがそれぞれのホームタウンにどのような作用を及ぼし、どのように成長していくのか、そこに大いに注目したい。J3は、Jリーグ、そして日本のスポーツの未来像を具体的に見せてくれていると、私は感じている。