波と風の合わせ技で 海洋エネ発電、表舞台へ
編集委員 久保田啓介
波や潮流を利用して電気をつくる「海洋エネルギー発電」が注目されている。日本近海の発電可能量は膨大とされ、政府が今月11日に決めたエネルギー基本計画では「研究開発を重点的に進める」と明記した。実用化には発電装置の大型化や漁業者との調整など課題は多いが、洋上風力発電と併設すれば活路が開ける可能性がある。
現在の技術で原発5基分
海洋エネルギー発電には波の上下運動を電気に変える波力発電、海流や潮の満ち干を利用する潮流発電、表層の温かい水と深層の冷たい水の温度差を利用する「海洋温度差発電」などがある。
なかでも有望とされるのが波力発電だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「日本近海では現在の技術で(原子力発電所5基分にあたる)540万キロワットの導入が可能」と報告。産学官の専門家がつくる波力発電研究会も「2030年時点で2000万~3000万キロワットまで増やせる」と推計した。
世界では英米やカナダなどが官民あげて開発を進め、発電機では欧米系ベンチャー企業が先行している。日本勢も日立造船や三井造船などが力を入れ、100キロワット程度の小型機を多数並べて1メガ(1千キロ)ワット規模の発電をめざしている。
大学など研究機関からも新たな提案が相次いでいる。東北学院大学の木村光照客員教授らは構造が単純で台風などに強い発電機を考案した。ブイからワイヤでおもりを垂らし、ブイが波で上下すると滑車が回り発電する。「製造コストが安く、維持管理も容易」(木村教授)とメーカーに技術協力を呼び掛けている。
専門家が期待を寄せるのは波力発電と洋上風力を組み合わせれば、さらにコストを下げられることだ。
波力発電は発電機本体の製造費に加え、陸に電気を送る送電系統の整備にカネがかかることが壁になってきた。日本が1978~2002年に国家プロジェクトで取り組んだ実証機「海明」「海陽」は発電量が不安定なうえ、送電コストが高くつくことが判明し、中止に追い込まれた。
「波力・潮流発電は事業化一歩手前」
だが昨年11月、福島県沖で始まった浮体式洋上風力の大規模実験では、沖合の風車と陸を結ぶ送電系統の開発を古河電気工業などが担当。安価で安全性の高い送電ケーブルができれば、波力発電にも利用できる。
洋上風力の一部は今年度から再生エネルギー固定価格買い取り制度の対象に追加され、導入拡大が見込まれることも波力にとって追い風だ。
東京大学の荒川忠一教授は「洋上風力の適地を探す段階から波力発電との併設を考えれば、送電線を有効活用でき、漁業者との調整の手間も省ける。波力発電機は波を静め、風車を安定させる効果もある」と"一石三鳥"を期待する。
エネルギー基本計画は「国産」の海洋エネルギーを伸ばすため、技術実証の重要性を強調。NEDOが昨年末に公表した「再生可能エネルギー技術白書」も「波力・潮流発電は事業化一歩手前にある」とし、海域実験でデータを集めるよう求めた。
政府に次に求められるのは、導入量やコスト低減などの目標を盛った工程表を示し、海域実験に早く踏み出すことだ。日本は洋上風力で出遅れ、英国やデンマークなどに大きく水をあけられた。海洋エネ発電では野心的な目標があってもよい。
[日経産業新聞2014年4月24日付]