可採年数200年超 用途なかった石炭を夢の燃料に変えるIHI
IHIは燃料としてほとんど利用法のなかった褐炭から、発電用燃料や化学肥料を作る独自技術を実用化する。「二塔式ガス化炉」と呼ぶ独自技術の実証設備を褐炭埋蔵量の多いインドネシアに新設し、2016年度をめどに肥料原料のアンモニアを量産する設備の受注活動を始める。同社のガス化技術はバイオマス(生物資源)も燃料として活用でき、実用化すれば再生可能エネルギーの利用拡大にもつながる。
「褐炭を価値ある燃料にしたい」。IHIで二塔式ガス化炉プロジェクトを指揮する渡辺修三エネルギーセクター主幹は実用化を待ち切れない表情でこう語る。
褐炭など低品位炭は世界の石炭埋蔵量の約半分を占めるが、水分の比率が30~60%(重量比)と高い。特に褐炭は自然発火しやすい特徴があり、長距離輸送や貯蔵に向かないため、炭鉱近くの発電所燃料など限られた利用にとどまっている。
一方、石炭をガス化して得られたガスは主に水素や一酸化炭素で、そのままガスタービンなどの発電用燃料になり、化学反応を経て化学原料にも適用できる。これまで燃料として利用しにくかった褐炭を安く効率的にガス化できれば、発熱量の高い燃料や高付加価値の化学原料として活用できる。現在、世界の石炭の可採年数は130~170年といわれる。これまで使えなかった褐炭を利用できるようになれば、これが200年以上へと飛躍的に延びる。
この点にIHIは着目し、04年から褐炭を燃料にする二塔式ガス化炉の研究開発を始めた。石炭火力発電所の基幹設備であるボイラーの世界大手であるIHIは、高効率で燃焼させる「循環流動層ボイラー」技術に強い。この知見が二塔式ガス化炉の実用化に生きた。
二塔式ガス化炉の仕組みはこうだ。高温の砂のなかで燃料の燃焼やガス化反応を行う流動層技術をベースに、ガス化反応を行うガス化炉と燃料反応を行う燃焼炉の2つの塔から形成する。
まず褐炭をガス化炉に投入すると、熱による分解と、そこに吹き込まれた水蒸気との反応によってガス化する。ガス化しなかった残りの燃料は循環する砂とともに燃焼炉に運ばれ、そこに吹き込まれた空気によって炭素分が燃焼する。合成ガスから水によるシフト反応で水素を取り出せば、アンモニア原料や燃料電池燃料にも使える。
流動層の構造を生かし、褐炭だけでなくバイオマスでも形状にこだわらず粗粉砕のみでガス化原料として使える。再生可能エネルギーの利用拡大につながり、二酸化炭素(CO2)排出量も減らせる。
褐炭を燃料にする場合の課題は、低温・常圧でのガス化だった。褐炭は揮発分が多く、セ氏1000度以下の温度でもガス化しやすい。ただ歴青炭など燃料として使える石炭を使うガス化炉では、石炭中に含まれる融点1200~1500度の灰分を溶かして回収する必要があり、1500度程度の高温・高圧で運転するため効率が悪い。
二塔式ガス化炉は褐炭を使うことを念頭に灰分を溶かさない構造としたため、900度前後の比較的低温でほぼ大気圧で運転する。このため効率的にガス化できるだけでなく、高コストの耐熱・耐圧機器が不要でプラントの価格競争力も高まる。
横浜事業所(横浜市)の試験設備で10年に始めた実証はほぼ終えた。商用化に向けて、まずインドネシアで褐炭から肥料原料のアンモニアを作る実験設備を14年度にも稼働させ16年度にも商用化する。商用化段階での褐炭処理量は1日500~1000トンに増やす。褐炭埋蔵量の多い東欧や豪州、インドなどにも売り込む。
「エネルギーや環境など成長分野に積極投資する」。IHIの斎藤保社長は2日の13~15年度中期経営計画発表会でこう強調した。褐炭を使ったガス化技術の商用化も重点事業の一つに位置付けており、独自技術をいち早く世界に広める構えだ。
(産業部 松井健)
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