21歳、スピード全開 バドミントン・奥原希望(上)
「金メダル」とは言わなかった。5月に行われたバドミントンのリオデジャネイロ五輪代表の記者会見。女子シングルスのエース、奥原希望(のぞみ=21、日本ユニシス)は目標を問われ「頂点に立てるよう頑張る」と語った。
「金というのを意識していないので。いつも通りと考えたら、頂点という言葉(が適当)なのかなと」。五輪の金メダルが別格という思いがないのではない。ただ、優勝を目指す意味では他のどの大会とも同じ。平常心を重んじる姿勢が、選んだ言葉の奥に透けて見えた。
見方を変えれば奥原にとって「頂点」は当たり前の目標になったといえる。昨年12月、スーパーシリーズの年間上位者や世界選手権覇者が出場するファイナルで女子シングルス日本勢として初優勝。今年3月にはスーパーシリーズでも特に権威のある全英オープンにおいて同種目では日本勢39年ぶりの優勝を遂げた。世界ランクは5位(29日現在)。五輪の頂点に立つことは夢物語ではない。
スーパーシリーズ・ファイナルは、まず1次リーグ初戦で昨夏の世界選手権準優勝のサイナ・ネワル(インド)に圧勝した。世界選手権2連覇中のカロリナ・マリン(スペイン)とは1次リーグ最終戦、準決勝と2日連続で対戦し、ともにストレート勝ち。ロンドン五輪銀メダルの王儀涵(ワン・イーハン、中国)との決勝も2-0で制した。
マリンが身長172センチ、王儀涵は178センチと上背があるのに対し、奥原は156センチ。小兵の不利を覆した原動力はフットワークだ。上方に打たれたシャトルにラケットが届かなければ機敏に下がって返す。相手に高い打点からのスマッシュを打たせない配球の妙も加え、ストローク戦に持ち込めばこっちのもの。「動きのスピードを生かしたディフェンス」が真骨頂だ。
かつてはコート狭しと動き回るスタイルが早々のスタミナ消耗につながっていた。変化が表れたのは、かつて全日本総合選手権男子ダブルスを制した理学療法士の片山卓哉の指導を受けるようになってから。効率的に体を動かす「ヨガの体操のような」(奥原)トレーニングで鍛えた結果、「長い時間、試合をしても疲れなくなった」。
スタミナが増した効果なのだろう。日本ユニシス女子監督の小宮山元は「最近はスピーディーな展開に持ち込むようになった。前は我慢比べだけだった」。従来は8割程度のスピードでプレーしていたのが、今はスピード全開でいく場面が多いという。「リスクを負って決めにいくことが増えた」と小宮山。要所での思い切りの良さも近年の好成績につながっているとみる。
スーパーシリーズ・ファイナルが開かれたのはアラブ首長国連邦のドバイ。開幕前、奥原はコーチらと連れ立ち、828メートルと世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」を見にいった。全日本総合選手権を制した日の夜にドバイに向けて日本をたつ強行軍を経てのこと。
大事な試合の前に、疲れた体にむち打ってまで訪れたのはなぜか。「せっかくドバイに来て、世界一高いビルに行けるとなったら行きたくないですか?」。好奇心の塊は展望台から砂漠とビル群が混然一体となった光景を一望。「世界一」にあやかって優勝を果たしたホープが今、思い描くのは五輪の頂点から眺める風景だ。
=敬称略
(合六謙二)