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No.30068の一覧
[0] 【習作】【リリカルなのは】シグナムたんハァハァ【三話完結】[missa](2011/10/12 00:30)
[1] シグナムちゃんマジ騎士[missa](2011/10/10 17:28)
[2] シグナム可愛いよシグナム[missa](2011/10/10 22:52)
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[30068] 【習作】【リリカルなのは】シグナムたんハァハァ【三話完結】
Name: missa◆a41a5c88 ID:23aa783b 次を表示する
Date: 2011/10/12 00:30


クラナガンの歓楽街から日の沈むほうへ、立ち並ぶ雑居ビルの隙間に蜘蛛の巣のように入り組んだ路地の一角。娼婦や粋がったマフィアもどきの群がるくたびれた空気を潜り抜けながら、シグナムは隠れ家へと向かっていた。
隠れ家、といっても何やら事を起こそうというものではない。看板も出さず、店の名前さえ示そうとしない只の呑み屋だ。肴が美味い。

紺のジーンズに赤のパーカーという朴訥な出で立ちであっても、男好きのする彼女の妖しさを抑える事は出来ないが、色目を使うものはいなかった。顔が知れている。一度だけ、口説こうと近付いてきた下品な男を相手に、我慢ならんと立ち回った事があり、それからというもの野郎は声をかけてこず、目が合えば慌てたように頭を下げてくる。以来ここを訪れる際は同じ格好にしていた。

変わってしまったものだ、と笑った。
自分も、仲間も、主も。

さて何が出るか、と常なら幾分愉快であるものの、今日に限っては鉛の靴を履いたかのように足が前へ進まない。見慣れた客引きに右手をぶらりと扇ぎ、間に合っている、と独り言のように声を上げ、埃だらけの空きテナントの横から地下へと続く階段を降りた。
煤けて色にむらが出来ている黒塗りの扉。
一度立ち止まると、腕を突き出し、ぐいと押し入るように歩を進め、大きく息を吸い込む。

この空気を肺に入れると、みすぼらしい快楽が体中を満たす。
打ちっぱなしのコンクリートの壁の臭いは、地下特有の湿気で惨めに冷えているが、気化したアルコールの所為か、清潔ささえ併せ持つ。
局内の暗室とてこれと同じものは得られない。

「へい、らっシゃいって、ベッピンさんじゃねェか、久しぶり」

声に出したのはマスターだ。立ち振る舞いから言うなら『大将』とでも呼んだ方が余程しっくり来るのだが、何やらこだわりがあるらしい。それ以外で呼べば途端にわめき散らす。左の耳が削げており、そこから鬢を通って目尻にまで大きな掻き傷がある。彼の妙なこだわりもこの傷に由来するに違いない、とシグナムは思っている。ついでに滑舌の悪さと、どんな女を見てもベッピンと評するのも恐らくはその所為だ。

と常人から見れば物狂いに等しい男だが、酒と食い物に関しては認めるを通り越し、彼女にとっては崇拝に近い。嗜好が合うのではなく、誰がどういったものを好むのかを見事に見分ける。大いなる存在ががどうとか、客の発する「気」がどうだから、などと言い張っているが、いちいち取り合わないことにしている。

カウンター越しに、先の見えぬ暗がりまでずらりと寝かされた酒瓶を眺めながら、薄暗い店内を見回す。光源は壁を上から斜めに照らすスポットと紙煙草の火種くらいだが、客は目的の人物一人のみ。見つけるのに苦労はしなかった。

「おい、熊、ベッピンさんがきたぜ」

熊と呼ばれたのはカウンターの一番奥、酒も肴も水も無く、ぼんやりと壁を眺めていた男。煙草を加えたまま振り向いた大きな体に呼びかけた。

「珍しい。まだ何も口につけて無いとは」
「よう、久しぶりだな、呼ばんでも顔くらい出して欲しいもんだ」

粗暴な見た目に反して口調は落ち着いている。初めて対面した時からは想像もつかなかった変化である。

「すまない」
「いや、謝らんでくれ。モニター越しならともかく、直接顔を合わせるのは、ええと」
「九ヵ月ぶりだ」
「ああ、そうだそうだ。えらく懐かしい気がする」
「また痩せたのではないのか? まるで水浸しの羊だ」
「これで案外動きやすい。お前相手でも、勝てはしないが、負けない自信はあるさ。ほれ座れよ」

熊はそういって左隣の椅子を引き、ぽんと叩いた。

「お嬢ちゃん達は……」
「息災だ。すっかり美しくなられた、それに強くも。まだまだ励んでおられる。ヴィータは体が育たんと喚いてはいるが、元気だ。シャマルも似たようなものかな。ザフィーラは悩んでいるようだ」
「何かあったのか?」
「そろそろ犬扱いが不服なようだ」

はは、と熊が笑えば、マスターの磨くグラスがびりびりと揺れた。
いちいち声が大きい。

「目的があるのは良いことだが、近頃の局内はどうもきな臭い。味方は選べよ?ん、前にも言ったか?」
「初めてだ、伝えておこう」
「直接言えってのは、今日は無しかい?」
「……」

黙り込むシグナムを横目に眺めると、何か納得したかのように熊は再び頷き、煙草を灰皿に強く押し付けた。

男の名はゲオルグ・サティ。管理局の同僚でかれこれ五年の付き合いである。といっても同じ戦場に立ったのは初めて顔を合わせた時のただ一度きりで、以降は酒呑み仲間としての付き合いだ。入局以前に彼女を知るものを除き、シグナムにとって最も付き合いの深い知人だが、そのことは主にすら知られていないだろう。ゲオルグが知られることを嫌がっていたからだ。

忙しい事を言い訳に暫く顔を合わせていなかったが、いつまでもそれでは良くないと、こうして久しぶりに誘いに乗った。




「ああ、まあいいさ」

上背はシグナムの首一つを優に超えるゲオルグだが、その大きな図体に似合わず、人好きする笑みのせいで、真正面から話すと以外に愛嬌がある。
アルミ製の安い灰皿を振るわせる唸りのような声も、一度好意を含んでしまえばたちまちに愛着が沸き、猛獣を使役するのに似た快感があった。





二人が初めて出合ったのは、闇の書事件が解決し裁判を終えた年、守護騎士たちが奉仕活動の一環として管理局に身を置いて一年目の夏である。
最後の夜天の主としてその存在を管理世界に知られた八神はやてであるが、同時に闇の書事件の被害者の中には、彼女を犯罪者として見るものも存在した。

(主に何の罪があるものか)

それどころか被害者とも呼べる。
というのも、八神はやては偶発的に闇の書に選ばれただけであり、彼女の作為による犯罪はただの一つもおきていないからだ。また、長年に渡り幾多の次元世界に猛威を振るった守護騎士たちも、プログラムとしてかつての主の命を受けたに過ぎずない。

かつて罪の責任は、命令に従う兵士であった騎士達でなく、それを命じた者にこそ負わされるべきだ。

そう考え、一連の事件関係者の処遇に出来うる限り温情を与えるべきと、中心になって働きかけたのは、当時から執務官として名高いクロノ・ハラオウンとその母であるリンディ・ハラオウン提督の二人であった。

闇の書事件の被害者でもあるハラオウン家、その立場が他の被害者達の悪感情の沈静を促した役割は大きい。直接的に罪に問われたのは、主を救うためという判断のもと騎士達が自らの意思で魔力収集をした六年前の事件が主である。それでも情状酌量の余地は十分にあるため、実刑はなく現在騎士達は数年の保護観察と更正プログラムを通し、社会に貢献、贖罪を誓っている。
しかしそれで済むほど人の心は単純なものではない。
八神はやてを殺害しようと企てるものがいた。

かねてより予想されていた事ではあったため、彼女達の情報は細心の注意を払い管理されたのだが、穴は何処にでもある。広域指名手配犯のドミニク・ヴィースに多額の金を払い、はやての殺害が依頼された。
しかし実行間近になり、途端に恐ろしくなった依頼主が計画を取り止めようとしたが、ドミニクは既に動き出し、行動を秘匿するためだろう行方がしれない。

これで契約を違え逐電した、というのなら話は早いのだが、日の当たらぬ世界に生きる人間は、ただの商売人以上に信用を大事にする。
長く管理局を煙に巻き続けた次元犯罪者ともなれば、噂一つで仲間に寝首をかかれるという事まで気を払っているのも多く、ドミニクに関しては特に、ひとたび金を受け取りさえすれば、意外なほどに義理堅い存在であった。

管理局に泣きついた依頼主の証言により明らかになったこの計画に対し、対策本部が急遽設置され、シグナムは戦力の一人として任務に当たることとなる。
主の身辺警護にはシグナムを除く他の守護騎士達に加え、事情を知った主の友人、高町なのは、ユーノ・スクライアも駆けつけ、管理局員も気づかれぬよう周囲に潜ませている。逃げ切るには十分すぎる。

しかしなお少女の心も思慮すべきと、主には事のあらましは知らされていない。
当局からの配慮だが、一足先にこれを上申したのが熊のゲオルグであった。





当時ゲオルグの所属した近隣次元回遊特殊部隊。名前だけなら聞こえは良いが任務は管理世界周辺次元の荒事専門で、『空とぶ肥溜め』などと揶揄されたごろつき同然の部隊である。管理次元世界ミッドチルダでの武力の行使は認められていない。

彼らの乗艦「バイアクへ」は管理局の鹵獲した小型艦を改修した次元航行艦である。その由来は、ミッドチルダの空想作家が考えた架空の醜い怪物の名前だ。駆逐艦よりもさらに一回り小さく、乗員数は六十余人。任務よりも、休暇中の私事での負傷者の方が多かった。部隊は二年前にすでに解体されている。

肥溜め部隊設立の発案者で艦長エリック・サティ一等空佐、これがゲオルグの養父なのだが、その艦長からして正体がうかがい知れないほど破天荒な人物らしい。
しかしながら、その変人エリックの実力と人格をもって初めて不羈自尊の性質の強い部隊を纏め上げたのは間違いない。

エリックは怪我をせずとも血を流す。

という小唄がある。
艦に攻撃をうけると、エリックは仕込ませた血糊を額から流すのだ。
二つの意味があったらしい。
ひとつは緊張感が出るため、だそうだが、もう一つ。

「バイアクヘ」はその部隊の性質上、相当に危険な相手とやり合うことが多く、すべての任務において撃沈と隣り合せである。
これに備え、危機回避機構は充実しているのだが、一風変わっているのがその中の個人用の小型脱出ポッドだ。
ある戦闘で質量兵器を打ち込まれ揺れた艦内、艦長はいつものごとく額を切った。怒り狂ったエリックは手元のコンソールを殴りつける。すると脱出ポッド数機が誤作動をおこし、敵艦へ向かっていったのだ。
「バイアクヘ」の脱出艇はなぜか艦前方に向けて射出される。そして艦が危機に陥る度に誤作動を起こし、自動操縦で最も危険な方へ向かって逃げる。つまり敵に向かっていくのだ。射出されるタイミングも一定ではないため、人が乗っていたことはほとんどない。
そして血塗れの顔をスクリーン越しに上官に見せつけながら、一応程度に報告を行う。
血塗れのエリックを放っておく訳にもいかず、まずは手当を受けるよう指示され、後日詰問されると決まってこう言うのだ。

「覚えておりませんな。何分頭を強く打っていたものですから」

このシステムの不具合はついに解決することはなかった。

さて、そんな妙な部隊にゲオルグが所属していたのは、身内を囲おうとしたエリックの意図によるものだけではないだろう。当時のゲオルグは『肥溜め』に似つかわしい人物でもあったとシグナムは思っている。
他の隊員ほどの不羈ではないが、当時の彼は寡黙にして対人関係を蔑ろにする傾向が強く、自他共に認める無愛想のクロノ・ハラオウンが

「あんな無愛想なやつは見たことが無い」

と口にするほどであるから、その酷さも伺えよう。熊語の分かる補佐官が通訳をしていた、などという冗談のような話まである。

そもそも、何故そんな人間が執務官になったのかと言われると、エリックの口聞きも多少はあったに違いない。
執務官試験の面接官は「武辺にして朴訥、誠実な人柄」と評しているが、偶然まともな応答をしたのを勘違いをしたのか、あるいは黒い噂の中に真実もあるのか。
エリックの肝煎りで執務官になったゲオルグへの誹謗中傷は、絶えることが無かった。

さて八神はやてを狙った事件に、この肥溜めの執務官が関わったのは偶然でなく、本人からの協力の申し出によるものだった。情報を察知したのは肥溜め部隊特有の鼻の良さであろう。そういった情報は正規のルートを通るより、現場の犯罪者どもから流れるほうが早いこともある。

そして肥溜めはゴミ溜めではない。

補給と改修のためミッドチルダに駐留していたゲオルグは、正規の手続きを踏んで第97管理外世界を訪れていた。

ゲオルグが到着したのは日も暮れかけた頃。リンディ・ハラウオンの操るL型時空航行艦アースラ館内にて、クロノ・ハラウオン指揮のもと、武装隊は突入準備を整えていた。

突入部隊にはフェイト・テスタロッサとその使い魔アルフも駆けつけ、三十人からなる部隊でかなりの念の入れようだ。隠れてはやてを守っている人数も合わせると相当数になる。

大げさなこの布陣の理由は保護対象としての八神はやての価値によるものだけではない。闇の書の主になる程の高い資質を備え、さらに管理局入局の意思を持った彼女の保護に全力を尽くすのは当局にとって当然だったが、広域指名手配犯逮捕の機会と、管理局に取り込んだ守護騎士達へのポーズでもあり、そして私刑を行おうとするものへの牽制の意味もあった。様々な利害の上での対応であったわけだ。

装備を整え、最終確認と円陣に組まれた中心に地図を広げ手順を確かめていたところに、ドアを蹴破る勢いでゲオルグが飛び込んできた。悪名高い特殊強襲部隊付きの執務官ともなれば歓迎するものはいない。

人相も悪い。今でこそ人懐っこい笑みを見せるが、当時の彼は口を開けば訛りの酷い口調で、地を揺るがすような唸り声を吐き出していた。右のこめかみにざっくりと切り傷があるのだが、入局前のものだというし、今は整髪料で撫で付けらている赤い総髪はかつて無造作に広がり、体は丸太のように厚く、無骨な警棒形のストレージデバイスを握り続ける傷だらけの掌さえも岩石のようで、拳骨を作れば角が無くなりむっくりと膨れ上がる。
背が高いと言うよりは体のつくりからしてその全てが大きかった。
『熊』は蔑称だ。

その出で立ちは、武辺者を好むシグナムですら幾分不快に感じた。上層部より捻じ込まれていなければ、合理主義者のクロノ・ハラオウンですら協力の申し出を撥ね付けるつもりでいたに違いない。事実、部隊は彼の到着を待たずして突入を開始しようとしていたのだから。






「親父の行方が知れなくてな。死ぬようなタマじゃ無いが、気味が悪いくらい影が見えない」
「父君というと、エリック・サティ殿か」

ぐいと焼酎を飲み干したかと思えば、唐突にゲオルグがそう言った。
見た目どおりに酒が強い。シグナムとてめったな事で酒に負けることはないが、それでもこの男の飲み方にはついて行く気になれない。

「あの艦長が死ぬもんかよ。どっかのヤクザでも乗っ取ってんじゃねェか」

とかつての肥溜めの一人であるマスターが口を挟んだ。肥溜めに関するの話にはすぐに乗ってくる。普段は口を挟むだけだが、機嫌が良いときは当時の事を楽しそうに披露するのだ。現場に居たなら間違いなく殴ってでも止めたような出来事ばかりだが、あまりに度を越して意味が分からない事ばかりなので、聞くだけならば不快にすら思えないことが多い。

とはいえ情婦達に刺し殺された隊員の話だけは流石に気の良いものではなかった。四年で解体された肥溜め唯一の死者らしい。殉職ではない。
自分だって一応は女だ。顔をしかめ、ざまあない、と口走ったら高い酒を一杯奢られた。

「それとも何か、会いタいってェ?」
「馬鹿いうな、あの親父だぞ。どうせまた良からぬ事でも企んでるに決まってる」
「良いこった。そん時ァ、また俺にモ声かけてくれるかねェ」
「俺は御免だ。おかげで古い奴らにはまだ怖がられてる」

そう言うと手酌で注いだ杯を再び勢いよく飲み干した。
ゲオルグとエリックに血のつながりは無い。道端を歩いているところを拾われた、とはゲオルグの弁だ。
それ以前の事を話したがらない彼だが、彼の中の何かが養父の琴線に触れたのであろう。彼の根本と言うか気性と言うか、そういった中に、伝聞で組み上がったエリック像と共通するものが多分にあるのだ。

「んなもん艦長の所為じゃネェだろう、なあベッピンさん」
「違いない」

と、熊の大きな掌の中で、猪口のように身を縮めるグラスを眺めながら同意した。長くもあるはずの指が、その厚さのせいで短指にも見える。
気を悪くしたのか、熊がマスターを睨み付ける。相変わらず迫力があった。

「うん、やはり父君は関係ないだろう。始めて見たときは、それはそれは怖かった」

といっても本当に恐れたわけではない。怖がられている、と聞けば誰しも納得するだけの威容があったのが確かなだけだ。
少しばかり酒が回ってきた事を感じながら右隣を見やれば、熊は鼻を鳴らして、つまんだ煙草に噛み付いた。


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