99U:私は成功した知人に会うと、必ずこう聞くようにしていました。「あなたのキャリア戦略は?」できるだけ気軽な感じで聞きます。彼らの素の反応を見たいからです。

しかし、本当の意味で「キャリア戦略」を持っている人はほとんどいませんでした。多くの人が眉をひそめて「どういう意味だい?」と聞き返してきました。(もっとシンプルに「はあ?」とだけ返されることも)

私がこの質問を投げかけてきた理由はシンプルです。仕事で成功する確率を高めるには、戦略が必要だと信じているからです。また、戦略を作るための方法論も必要でしょう。

とはいえ、「戦略」は、人によって別のことを意味します。戦略とは「ビジョン+計画」のことだと考える人もいます。また、戦略とは「現状の最適化」、あるいは「ベストプラクティスに従うこと」だと言う人もいます。さらには、変化の激しい現代では、もはや戦略を立てるのは不可能だと主張する人もいます。

キャリア形成に役立つ、戦略の意味

私はロジャー・マーティン(Roger Martin)氏の戦略の定義に同意します。マーティン氏は一流の戦略思考の持ち主であり、ベストセラー『P&G式 「勝つために戦う」戦略』の共著者でもあります。「戦略は、勝つための一連の選択であり、一貫性のある選択の積み重ねが業界内の独特のポジションと競争相手への持続的な優位性、より優れた価値を持たせてくれる

一貫性のある選択の積み重ねとは何か? また、その選択をキャリアにどう応用するか? を掘り下げる前に、ビジネススクールとは違うやり方で戦略を定義してみます。

1. キャリア戦略が必要な理由は単純です。自分のリソースを集中するためです。私たちが持っている時間や注意力、エネルギー、能力は有限です。自分の潜在能力を最大限に活かさないという贅沢は許されません。集中が欠如した行動をとっていては勝てないということです。

2. 「計画」(ToDoリストやスケジュール)と「戦略」は、まったくの別物です。私たちは「計画」という言葉を「戦略」と同義語のように扱っています。しかし、それは間違いです。戦略とは計画ではなく選択のことです。戦略とは成功を保証するものではありません。また、完璧な戦略など存在しません。戦略とは未来志向のもので、未来とは不確実で予測不可能なものだからです。私たちができるのは、最良の選択をすることだけです。

3. ビジネスと同じく、キャリアにも競争的な側面があります。表面的なキャリアアドバイスでは内面のことばかり語られます。「ベストを尽くしなさい」「情熱に従いなさい」 内面にフォーカスするのは、たしかに良いことに聞こえます。しかし、現実的には、私たちはみな「自分」という企業のCEOをやっているわけです。業界内には常にほかのプレイヤーが存在し、リソースを奪い合っています。競争を無視した企業に何が起きるかはご存じのはず。個人のキャリアも同じです。

4. 戦略は創造的かつ科学的であるべきです。戦略とは、仮説作りとその検証のプロセスでもあります。あなたの選択は、あくまで現時点での推量、推測を元にしたものに過ぎません。ゴールに向かって走り始める前に、現実の世界でテストし、再調整される必要があります。

キャリア戦略に関する5つの質問

ロジャー・マーティン氏によれば、戦略とは、互いに切り離せない5つの質問の答えから成る、思慮深いフレームワークです。

何があなたにとっての勝利なのか?

あなたの願望、すなわち、何があなたにとって勝利なのかを、具体的に、明確に、そして野心的に書き出してください。いわば、未来志向の宣言です。あなたが何をするために存在するのか、また、どの事業に取り組むのかを記述します。それは、ただ何々をする、という控えめな宣言であってはなりません。

例えば、著名なアーティスト清水裕子氏は、99Uのインタビューで、11年間PRの仕事をしている間も、世界で最も尊敬されるアーティストのひとりになることを望んでいたと語っています。「本当にそれを願っていたし、有名になりたいと望んでいました」

どこで戦うか?

この質問は、あなたの戦場を定義します。つまり、どこで戦い、どこで戦わないかの選択です。業界、業界内のポジション、具体的な企業名、顧客セグメント、流通チャネル、製品/サービス、地理的な場所、生産ステージなどを決めます。「どこで戦い/いかに勝つか」のコンビネーションが、戦略の5つの質問の核心となります。キャリア転換を考えているなら、特にこの質問は重要です。

清水氏は、収入を確保するために、現代アートとしてのイラストではなく、商業イラストを選びました。彼女は広告会社とデザインファームに狙いを定めました。「(私の作品)はかなり特徴的です」と彼女。「私の作風が彼らの基準に合わなければ、ほかの誰かに依頼するでしょう。それでいいどうかは、あなた自身が決断すべきことです」

いかにして勝つか?

この質問の答えがあなたの競争優位であり、あなたが提供するユニークな価値となります。どこで戦うかの選択は、いかに勝つかの選択で支えられていなければなりません。つまり、その戦場で何をするかを決めるのです。この2つの選択が互いに補強しあい、あなた独自のコンビネーションを作り出します。このコンビネーションは、キャリアの転換を考えている人にとって、特に大切なものです。

清水裕子氏は、業界における既存の勝者を模倣しないという決断をしました。独自のスタイルを打ち立てる必要があると判断したからです。「仕事を得るには、本当に他者より抜きん出る必要があります...あるときから、ほかの人の作品を見るのをやめました。彼らのようになりたいと願っていては、二番煎じにしかなれないからです」

必要な実行能力は何か?

この質問の答えが、「どこで戦うか」、「いかにして勝つか」で行った選択に命を吹き込みます。実行能力とは、現在および未来において、勝つために具体的な活動を行う能力です。

実行能力と聞くと、多くの人が単純に自分の強みをリストして満足します。ここには2つの問題があります。第一に、あなたの強みが競争優位となるとは限らないこと。第二に、その強みは、あなたが価値を提供すべき相手にとって、価値がないかもしれないことです。

例えば、清水氏は実行能力のリストに「絵を描く能力」を入れませんでした。なぜなら、「ドローイングやイラストレーションができる人なんていくらでもいるから」と彼女。そのかわり、清水氏は「自己表現」をリストに加えました。また、広報係としてのキャリアが、彼女に勝つための能力を与えました。すなわち、マーケティングと、プロモーションのスキル、また、意思決定者とつながる能力、交渉する能力です。「私はよく、自分はイラストのエージェント会社を作ってもうまくやれただろうと話します。私にはPRのバックグラウンドがあるからです」

どんなマネジメント・システムを設けるか?

ビジネスと同じく、「自分」を経営するには、自分の実行能力を構築し、コントロールし、メンテナンスする効果的なシステムが必要となります。キャリアマネジメントとはプロセスなのです。あなたの戦略的選択を支える、確かな方法が必要です。

清水氏は、少なくとも1つ、効果的なシステムを持っていました。ニューヨークにある大学「スクール・オブ・ビジュアルアーツ」で教えることです。この仕事が、彼女に現実社会との接点を提供しています。また、フレッシュなアイデアを生み出すのにも役立っています。「大学に行って、19歳の若者たちの話を聴くのは素晴らしい体験です」

戦略を確かなものにする質問

これで、あなたのキャリア戦略が完成しました。今や、勝ち取りたいものは明確です。戦うべき場所も決まりました。あなたの競争優位もわかりました。勝つために必要な能力や、それをサポートするシステムもわかりました。

しかし、どんな戦略も「実践では役に立たない」と言われます。かつて、マイク・タイソンは皮肉っぽくこう言いました。「誰もが計画を持っているよ。顔にパンチを食らうまではね」そうなる理由は、戦略の中に仮説が含まれているからです。あなたが自然に備えている熱意や楽観が、気づかないうちに「無意識の決めつけ」を作り出します。

あなたがこの先も同じ街に住んでいるかは誰にもわかりません。あるいは、まったく新しいテクノロジーが近い将来発明されないとも限りません。こうした無意識の決めつけが盲点となり、あなたの戦略を実践では役に立たないものにします。

つまり、あなたの戦略は、現実世界でテストされるまでは、たんなる推測の集合に過ぎないのです。逆に言えば、大胆な仮説を立て、科学的な検証を繰り返すことで、戦略をよりパワフルなものにできます。

正しく行えば、戦略は実践でも役に立ちます。ポイントは、やり方にあります。私の経験では、仮説を並べただけではうまくいきません。あなたが作った仮説は、あなたのメンタルモデルやメンタルバイアスから強い影響を受けているからです。

私たちは、不確実性を見るリスクを避け、楽をするために「知っていること」ばかりに注目します。しかし、仮説とはその定義上、未知の要素を含んでいます。未知とは恐ろしいものであり、私たちは無意識にそれを遠ざけようとします。

仮説を真に役立つものに変えるには、たったひとつの質問が必要です。「何が真実なのか?」 ロジャー・マーティン氏は、これを「戦略において最も重要な質問」といいます。

その答えをよく吟味し、何が真実かを問いかけてください。例えば、以下の穴を埋めてみてください。「私の『どこで戦うか』の選択が、勝つための選択になるには、______が真実でなければならない」

この質問を繰り返すことで、あなたの仮説は、「ベストな仮説」になります。そして、次にやるべきことは、この仮説を学習者の姿勢で実験し、検証することです。

あなたはどうやって自分のキャリアに「戦略」を導入しますか?

Can't Picture Where You'll Be in 5 Years? Find Your Strategy|99U

Matthew E. May(訳:伊藤貴之)

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