「創造力を高めたいなら、仕事場を出て散歩をしなさい」。これは昔からよく言われているアドバイスです。このたび、実験心理学の専門誌「The Journal of Experimental Psychology」で、このアドバイスの効果が実証されました。論文はスタンフォード大学の研究チームによるもの。小規模な実験を複数行って、ウォーキングに創造力を高める効果があるかどうかを確かめました。実験は基本的に、被験者にさまざまな条件でウォーキングをしてもらい、その前後に創造力をはかる試験を実施するという形で行われました。米紙「ニューヨーク・タイムズ」の記事に、その結果がまとめられています。
ほぼすべての学生が、ウォーキング中には大幅な創造力の向上を示しました。1つのモノの使い道をいくつも考えるという試験において、大部分の被験者では回答数が約60%も増加しました。しかもその回答は「目新しく、かつ適切なもの」だったそうです(後略)。
(前略)ウォーキングを終えて腰を下ろしたあとでも、被験者のクリエイティブな発想力は顕著な伸びを示しました。この(2つ目の)実験の場合、ウォーキングのあとの試験では、ウォーキングの前に比べて被験者の回答数が有意に増加し、回答の質も主観的に見て向上していました(後略)。
最後に、ウォーキングと創造力の実生活における関係について、また別の一面を評価するために、Oppezzo博士は実験の一部を屋外で行いました。屋外でのウォーキングは、無機質なオフィスの中でトレッドミルに乗るよりも「創造力の向上に大きく貢献するだろうと考える人は少なくないでしょう」。ところが驚いたことに、この推測は実験で裏切られました。被験者たちは、スタンフォード大学の緑豊かな心地良いキャンパスを8分間散歩したあとでは、同じ時間を屋内で座って過ごした場合と、屋外で座って過ごした場合のどちらと比べても、よりクリエイティブな発想を示しました。ところが、外で散歩した場合の結果と、そのあと室内で無機質な壁に向かってトレッドミルに乗った場合の結果を比べても、顕著な違いは見られませんでした。
ウォーキングには、一時的であるにせよ確実な効果があるようです。もっとも、なぜウォーキングが創造力の向上に役立つのかは、明確にはわかっていません。研究チームでは、気分の向上と関係している可能性や、ウォーキングによって脳のエネルギーが適度に発散されるおかげで自由な空想が可能になるなどの仮説を掲げています。また、今回の被験者は全員大学生で、もともと日々の生活の中でクリエイティブ・シンキングを鍛えられていることも考慮すべきでしょう。でも、ともかくも散歩は害になるものではありません。発想に行き詰まりを感じたなら、ちょっと体を動かしてみるのも悪くないでしょう。
Want to Be More Creative? Take a Walk|The New York Times
Give your ideas some legs: The positive effect of walking on creative thinking|The Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, Cognition
Thorin Klosowski(原文/訳:江藤千夏/ガリレオ)
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