99U:いわゆる「月並の」キャリアアドバイスに意味が無いのは、世の中はものすごいスピードで変化しているからです。善意に満ちた識者によるアドバイスは、何十年も前の経験に基づいたものです。
経済学者のタイラー・コーエンは、最新著書『Average Is Over』(訳:標準は終わりだ)で、私たちは仕事に対する考え方を見直すべきで、急激なテクノロジーの変化が起きつつある中、キャリアについて再考すべきであると説きました。
産業化が進んだ国々でアウトソーシングや仕事の自動化が促進され、労働力が過剰になり、雇用が減っています。アマゾンの無人飛行機が利用される世界において、郵便配達人は必要とされるでしょうか? Googleの無人自動車が大衆市場に進出したら、誰がタクシーを必要とするでしょうか?
とはいえ、クリエイターが直面する問題はもっと漠然としています。ロボットに仕事を取って代わられることよりも、グローバルな規模での競争について心配すべきでしょう(オンライン教育が浸透しつつあるなか、ブルックリンのアートスクールの卒業生が、インドに住むPhotoshopの達人と同じ料金を求めることは可能でしょうか?)。
それでは、事あるごとにアウトソーシングと闘わなければならないような、仕事をめぐる新しいダイナミックな変化が起きている今、私たちがするべきことは、なんなのでしょうか? コーエンが次の時代のキャリアに必要であると主張する、"防弾仕様の"「ソフトスキル」がどのようなものか、ご紹介しましょう。
1.自分が下した人生の選択を肯定し、他人と比較して嫉妬を抱かないこと
自動化による副作用のひとつが、私たちができること、することの全てが測定可能になるという点です。その予兆は、もっとも多くのページビューを稼いでいるブロガー、Twitterフォロワーの数がもっとも多いクリエイターがすぐに分かるといった点にも表れています。さらに、近い将来にはサービス系の仕事においても、コーエンのいう「ハイパー実力主義」が導入され、全てが測定、追跡、順位付けされるようになるだろうと言います。その結果、仲間同士の比較、そしてそれに伴う不安が避けられなくなるだろう、と。私たちは常に、自分がどこに位置付けられているかを知り、雇用主はそれに基づいて対価を支払うようになるのです。
仕事のために生きるか? 生きるために仕事をするか?
結果、この新しいキャリア風景は興味深い2つの選択肢を私たちに突きつけます。1つは、「仕事のために生きる」ことを選び、雇用主からの評価を得るために、考えつくあらゆることをするか? もう1つは、「生きるために仕事をする」ことを好み、娯楽や家族の時間を最大限にとるか? という選択肢です。
コーエンは次のように説きます。
トップに君臨する人々は、責任と義務を求められ、その地位につくまでに、多くの人のために尽力してきました。そのネットワークから離れて、「ちょっと今日はプールでくつろぎたいから」などと言うのは難しいことです。常に電話につながっており、Eメールが届きます。いつも働いており、その報いを得る一方で、それは痛みも伴うのです。
本当の実力主義というのは、心理的に大変なものです。失敗や欠点は、良い点を学ぶきっかけになるよりも、むしろ私たちを傷つけ、落ち込ませます。この点が、全てが測定可能になるという新しい社会における大変な側面のひとつであると思います。多くの人はこれを好まないでしょう。
人は、自分のことを実際の実力よりも高く評価したいものなのです。実際よりも、生産性が高いと見なしたいものなのです。実際よりも、もしかしたら明るい未来が待っていると考えたいものなのです。
これが、"Average is over" (訳:標準は終わりだ)ということです。社会は私たちに選択をするように迫り、それは決して簡単なことではありません。
2.コーディングを学ぶな、テクノロジーを使って働く方法を学べ
テック業界で、耳にたこができるほど聞くフレーズが「みながコーディングを学ばなければならない」というものです。多数の組織(Code Academy、Treehouse、Udacityなど)がキャリアをそこそこ積んだ人々のために、新しいスキルを学ぶ機会を提供しており、小学校の教育課程にプログラミング教育を含めるべきだという声も高まっています。
プログラマーになることが魅力的に思えるのであれば、すばらしいことです。しかし、ひとつの「ハードスキル」を元に雇用機会を求めることは、時代遅れの考え方です。テクノロジーの急激な変化によって、私たちはどのハードスキルの需要が大きいかということを常に考える必要に迫られています(実際、考えるべきです)。必要とされるハードスキルにおいて高い実力をもつことは、短期的には必須ですが、長期的に見てあなたに成功をもたらすのは、どのようなテクノロジーを扱う際にも求められるソフトスキルの習得に集中することでしょう。
「単純な考え方をする人は多くいます」コーエンは言います。「"××年間かを使って、コンピュータプログラミングのスキルを身につけて、プログラマーにならなければ" と言うのです。大方の場合、これはうまくいきません。必要なのは、テクニカルなスキルをある特定分野の知識と結びつけられる人、マーケティング、プレゼンテーション、交渉の仕方をよく理解している人なのです」
つまり、あなたの仕事がテクノロジーを使うことで向上するのであれば、良いのです。例を挙げれば、コンピューターを利用した複雑な読み出し装置を使って、正確な診断を下すことのできる医者、クライアントのデータを精査して、より効率的に仕事をこなせる営業担当者などです。
「マーク・ザッカーバーグはもちろん偉大なプログラマーです。しかし、Facebookで重要なのはそれだけではありません。ユーザーのリピートを促進し、人を惹き付けるのです。彼は心理学も専攻していました。そうしたスキルの統合が重要なのです」
賢明な人は、テクノロジーの力を巧みに活用し、それをどう利用すべきか全体像を把握することができます。テクノロジーは変化します。情報入手の手段は変化します。しかし、戦略的にそれを活用することで、将来の労働力として常に求められる人材であり続けることができるのです。3.一流のリーダー、そして協力者になれ
優れたリーダーをアウトソーシングすることは不可能です。仕事や会社の専門性がより高まり、競争が激しくなるにつれて、トップの会社はますます、切れたリーダーシップを発揮する人材を求めるようになるでしょう。
「コンピュータでは、人を管理したり、人のやる気を高めたり、将来の期待を設定することはできません」コーエンはこのように述べます。「こうしたことは経営管理の中核に位置するものです。つまり、人に自信を与えたり、他の人の協力を実現すること。これは、技術的なことができない場合にも、成長を実現することのできる分野です」
コーエンは、経営者、管理職、監督者そして金融分野の専門職に就く人々が、1979年から2005年のあいだ、全報酬の7割を得ていたことを指摘しています。つまり、リーダーと全体像を見て考えられる人材がもっとも活躍しているのです。
「多くの場合において、『業界』で働く人々は、自分たちの仕事の進め方について、概念的に捉えることができません」コーエンはこのように書きます。ある特定の狭い範囲の職務につきつつ、全体像を把握することは日に日に難しくなってきています。
こうした超専門化によって、クリエイティブな仕事をするチームは、協力者を必要とするでしょう。各個人の専門性が増すにつれて、解決しなければならない問題の複雑さも増します。だからこそ、各専門分野同士が互いに協力し合うことが、より重要になります。たった1人の人材が、無人自動車を設計することはできないのです。
4.自分の仕事をマーケティングする方法を学べ
どんなにスキルや人脈があっても、自分の仕事が認知されなくては、成功はできません。 どの業界にいようと、自分の仕事をマーケティングするのは、今後さらに難しくなるでしょう。Redditの創設者であるAlexis Ohanianの言葉を借りれば「インターネット上で、面白い猫のビデオはすぐにクリックされる。Buzzfeed上のリスト記事やInstagramの写真と実質的に闘える人材が求められている」ということなのです。
コーエンは次のように言います。マーケティングはアウトソースすることが難しい類いのスキルです。時間や場所について、ターゲットとする地域に関する知識を大量に持っていなければなりません。読者がどういった層なのか、またマーケットのセグメントはどのようなものかといったことを理解するにあたって、インドの優秀な人材を雇おうというアイデアだけでは成功はできないでしょう。
ここでいう「マーケティング」とは、単に地元の大学で関連する講義を受けることとは異なります。それは、対象とする事柄、ターゲットとする層に関して、深い、確固とした理解をもつことなのです。こうした仕事に求められるような、高いレベルの分析力は決して自動化されることはなく、常に求められるスキルです。
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コーエンが描く未来のキャリア像というのは、少し恐ろしいものかもしれません。しかし、不確実性はチャンスを生みます。どの分野においても、トップの実力者はかつてないほどの報酬を得ています。デジタルノマド、起業家といった、我が道を進む人々の出現も目にしました。また、もっとも重要な点は、こうした「ソフトスキル」の重要性が増したことによって、より簡単に自らの関心や信条に合ったキャリアに転向することが可能になった点です。これまでになく自由に、自分の幸せの実現のために、キャリアとライフスタイルを自ら仕立てることができるようになったのです。
今後、成功するクリエイティブな人々というのは、こうした変化を前向きに受け止め、その変化を、世界に真の影響を与えるための機会とチャンスを生み出すきっかけとして、活用できる人でしょう。ウィリアム・ギブスンの言葉を借りれば「未来はすでにここにある――ただ、完全に均等に分配されていないだけ」なのです。
You Don't Need To Learn To Code + Other Truths About the Future of Careers I 99U
Sean Blanda(訳:佐藤ゆき)
Photo via Shutterstock.