グーグル・グラスをはじめとする「身につけられるデジタル機器」の盛り上がりは、SF小説もかくやという勢いです。スマートフォンが旧来の携帯電話に取って代わったあの頃(そう遠い昔ではありません)のようなシフトチェンジが、これから起きるのか。米メディア「Inc.」が、課題を挙げながら"未来予測"をしています。

「ウェアラブルテクノロジー」と呼ばれる新しい産業の時代が訪れようとしています。その勢いはとどまるところを知らず、今年の売上は46億ドルに上るともいわれるほど。

グーグル・グラス」の登場はまだですが、多くのギークがすでにこの新テクノロジーに注目しています。今年4月に18歳以上の米国人を対象に行われた世論調査では、自称ギークのうち「スマートウォッチを購入して身につけるつもり」と答えたのは61%、「スマートグラスを購入して身に付けるつもり」は56%でした。さらに興味深いことに、非ギークでも、37%がスマートウォッチに、35%がスマートグラスに興味を示したのです。

最大のウェアラブルテクノロジー市場はヘルス&フィットネス

ヘルス&フィットネスの分野では、すでにウェアラブルガジェットが広く利用されています。ナイキの「FuelBand」のほか、「Jawbone Up」や「Fitbit」など、フィットネスの目標達成に向けた管理をしてくれるガジェットが数多く存在しているのです。座りすぎやランニングフォームの改善が必要なときに教えてくれる「スマートソックス」なんてものもあるほどです。

ウェアラブルテクノロジーは、すでに消費カロリーや歩数を計測するだけのものではなくなっています。患者のバイタルの記録、胎児および母体心拍数の記録、睡眠時無呼吸の重症度の測定、猫背を検知して振動するなど、幅広く活用されているのです。

団体競技のスポーツにも応用されています。NFLでは今年から、一部のヘルメットに衝撃センサーを内蔵し、各種の衝突によって受ける衝撃を、ポジションごとに測定しています。Virginia Techなどの大学でも、センサーを使って頭部外傷を負うプレイヤーとそうでないプレイヤーの違いを調査しています。結果次第ではルール改訂もあるのだとか。

ドイツのサッカーチームTSG Hoffenheimは、すね当てやユニフォーム、さらにはボールにまでセンサーを埋め込み、ボールの支配率、平均速度などのデータを収集しています。得られたデータを使って、各選手の強み・弱みに合ったトレーニングを構築したり、けがのリスク低減に役立てているそうです。

次なるブーム

次にブームが訪れるウェアラブルデバイスは、スマートウォッチではないでしょうか。「ABI Research」によると、2013年だけで120万台ものスマートウォッチが出荷される見込みです。躍進の要因としては、マイクロ電子機械システム(MEMS)や、Bluetooth 4.0のようなエネルギー効率の高い接続技術が、広くそして安価に入手できるようになったことが挙げられます。また、スマートウォッチアプリに必須であるスマートフォンが、世界中で浸透していることも要因のひとつでしょう。

アップルが「iWatch」の発売に手間取っている間に、サムスンは先日、スマートウォッチ「Galaxy Gear」を発売しました。190万画素のカメラとスピーカーフォンを備え、720p HDの動画撮影が可能なGalaxy Gearは、カラーバリエーションも豊富に用意されています。

今後の課題

ウェアラブルデバイスは毎日の生活にテクノロジーを織り交ぜてくれますが、もっと広く受け入れられるには、まだまだ課題があるのも事実です。

電源:これだけ技術が進歩しても、充電は必要です。つまり、充電器から逃れることはできないのです。最新のウェアラブルデバイスはスマートフォンと併用するものがほとんどなので、少なくとも2つのデバイスの充電が必要になります。両者の同期をとればバッテリーの消耗も早まります。ウェアラブルデバイスにとって電源管理は死活問題。そのうち、靴に内蔵されたセントラルパワーユニットから皮膚電動でデバイスに電力を供給し、歩くたびに充電されるなんていう未来が訪れるのかもしれません。

盗難:ウェアラブルデバイスがこれだけ重要な役割を担うようになってくると、使う人を制限する必要が出てきます。本当に安全な指紋認証や音声認証は、いつ実現するのでしょうか。iPhone 5Sの発売日当日、ドイツのグループが最新の指紋認証を突破したニュースはあまりにも有名です。

プライバシー:グーグル・グラス関連で、すでに問題になっています。目の前にいる相手が、見たことや聞いたことをすべて録画していると知ったらどんな気分ですか? トイレ、更衣室、役員室、寝室では使用禁止にすべきでしょうか? あなたが違法行為の目撃者と想定されるとき、警察や被害者は、あなたの個人的なビデオを証拠として押収できるのでしょうか? 今のテクノロジーがあれば、あなたの友達は、あなたのすることをすべて監視できてしまいます。友達だけではありません。もしハッカーがあなたのウェアラブルデバイスに侵入して、すべての画像を見ることができたなら?

機能性:すでに多くのデバイスにおいて、機能の制限に対するクレームが出ています。バイタルサインや装着者の周辺で起こっていることを測定するには、複数のセンサーを調整する柔軟性が必要になるでしょう。

情報過多:今のところ、センサーは「あなたに関する情報をあなたに提供する」ことに使われていますが、そう遠くない将来、「装着している他者があなたの情報を収集する」時代が訪れます。あなたは、ちょっとだけ事実を誇張して話したときの心拍数の変化を知られたいと思いますか? あなたのデータやセンサーに、どうやってファイアウォールを構築すればいいのでしょうか?

ウェアラブルガジェットの未来

コンピュータの小型化は飛躍的に進んでいます。先日も、スタンフォード大学のエンジニアがカーボンナノチューブを使ったコンピュータの開発に成功したと発表しました。いずれ、デバイスの小型化・高速化・高機能化が進み、装着ではなく、体内に内蔵できるコンピューターが登場するでしょう。

スマートフォンがコミュニケーションの形態を変えてしまったように、やがてウェアラブルデバイスがスマートフォンに取って代わるのでしょう。私たちにとって、インターネットを手中に収めることができたのは奇跡のような出来事ですが、メガネの中でそれを自由にコントロールできるのが普通である次の世代にとっては、指を動かしてメールしたりボタンを押して電話に出ることなど、「前世紀」と思われるのかもしれません。

The Future of Wearable Technology | Inc.

Scott Jones(訳:堀込泰三)

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