JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第858号
科学技術振興機構報 第858号

※株式会社愛南リベラシオの問い合わせ先を変更しました(令和3年12月14日)

平成24年2月1日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL https://www.jst.go.jp

昆虫を養殖魚の飼料として実用化するベンチャー企業設立
-コスト削減、病気に強い魚など画期的効果-

(JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の研究開発成果を事業展開)

JST(理事長 中村 道治)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成21年度より愛媛大学に委託した研究開発課題「イエバエを利用した革新的養殖システムの創出」(開発代表者:三浦 猛 愛媛大学 南予水産研究センター 教授、起業家:串間 充崇)では、イエバエなどの昆虫を用いた飼料や飼料添加物の開発を行ってきました。この成果をもとに平成24年2月1日(水)、メンバーらが出資して「株式会社愛南リベラシオ」を設立しました。

日本の水産養殖業が直面する課題の1つに、主要な動物性たんぱく質源である魚粉を原因とした、飼料価格の高騰が挙げられます。三浦教授らは、魚粉の使用量を減らし飼料価格の安定化を目指して、昆虫を新たな動物性たんぱく質源として利用する研究開発を行ってきました。その結果、昆虫から得られたたんぱく質は、(1)魚粉をあまり使わずに、コストを抑えることができる(魚粉低減化)、(2)養殖魚が好んで摂取する(摂餌促進注1))、(3)飼料を摂取した養殖魚の耐病性が向上する(免疫活性化)といった、養殖用飼料に非常に適した機能性を持っていることを発見しました。

今後の事業展開として、生産者や飼料会社と連携し、昆虫たんぱく質を含有する飼料や飼料添加物の開発を進めながら、飼料原料の国産化や価格安定化という日本の養殖業が抱える課題の解決に尽力します。また、これまでの研究開発で、養殖魚の健康状態の指標としてきた酸化ストレス注2)や、その他の測定ノウハウを生かして、生産者や飼料メーカーから試験を受託し、科学的根拠に基づいた養殖技術の確立に貢献することを目指します。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 本格研究開発 起業挑戦タイプ

研究開発課題 「イエバエを利用した革新的養殖システムの創出」
開発代表者 三浦 猛(愛媛大学 南予水産研究センター 教授)
起業家 串間 充崇(アビオス株式会社 代表取締役)
起業支援機関 入野 和朗(愛媛大学 社会連携推進機構 准教授)
研究開始年度 平成21年度(継続中)

A-STEPは大学・公的研究機関などで生まれた研究成果をもとに、実用化を目指すための幅広い研究開発フェーズを対象とした技術移転支援制度です。今回の「株式会社愛南リベラシオ」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」、「大学発ベンチャー創出推進」、およびA-STEPによって設立したベンチャー企業数は、117社となりました。
詳細情報:https://www.jst.go.jp/a-step/

<開発の背景>

水産養殖は食料供給の手段としてはもちろんのこと、日本が誇るべき産業の1つです。平成20年の日本の水産養殖の生産量は約120万t、生産額は約5000億円にもおよび(水産庁統計より)、愛媛県は養殖生産高日本一(約650億円)となっています。加えて、世界的な視野に立てば、(1)漁獲低減・人口増加による食料の安定供給の必要性、(2)健康志向に基づく魚食の普及、(3)BSE・鳥インフルエンザなどの疾病の流行による畜産の限界――などを理由に水産養殖の意義が注目されています。

しかしながら、日本の水産養殖は衰退の危機にあります。世界的には、この30年で養殖生産は8倍近くに激増し、ノルウェーやチリ、中国・ベトナムなどのアジア諸国を中心に順調に増加傾向であるのと対照的に、日本の養殖生産高は1990年代をピークに減少傾向にあります(国際連合食糧農業機関(FAO)統計より、図1)。養殖業の衰退は、愛媛県内においても例外ではなく、廃業に追い込まれる業者も多いのが現状であり、水産養殖業そのものの変革が求められています。

日本の水産養殖業が直面する課題の1つに「飼料価格の高騰」が挙げられます。養殖用飼料に必須の動物性たんぱく質は、カタクチイワシやアジなどの小魚を粉末化した魚粉です。日本で用いられる魚粉は、そのほとんどを輸入に頼っており、近年の水産資源の減少や燃料費の高騰、さらに他国での需要の急増を背景に、魚粉価格は2倍以上に跳ね上がりました。そうしたなかで、大豆かすなどの植物性たんぱく質を利用して飼料中の魚粉含有量を低減する試みが行われていますが、養殖魚の成長性や抗病性に問題があり、まだ十分ではありません。

愛媛大学 南予水産研究センターの三浦教授らは、魚粉の低減化や飼料価格の安定化を目的として、昆虫を新たな動物性たんぱく質源として利用する研究開発を行ってきました。

<研究開発の内容>

三浦教授らは、ハエなどの昆虫はほかの生物に比べて生活環が非常に短く、人工的な安定生産が可能なことに注目し、さまざまなハエのサナギを養殖魚の餌に混ぜて、効果を検証しました。

本研究開発の結果、ハエのサナギを含有する飼料で、以下の3つの効能が確認できました(図2)。

<今後の事業展開>

以下の事業を通じて、水産養殖の活性化に貢献します。

<参考図>

図1

図1 各国養殖生産量の推移(単位:1000t)

世界的な養殖生産は、この30年で養殖生産は8倍近くに激増し、ノルウェーやチリ、中国・ベトナムなどのアジア諸国を中心に順調に増加傾向であるのと対照的に、日本の養殖生産高は1990年代をピークに減少傾向にあり、その対策が必要です。

図2

図2 本研究の概要図

ハエなどの昆虫がほかの生物に比べて人工的な安定生産が可能なことに注目し、養殖魚の餌に昆虫のサナギの粉末を混ぜて効果を研究した結果、魚粉低減化などの効果が見いだされました。従って、昆虫サナギは飼料原料や、その効果を付加することのできる飼料添加物として有用であることが明らかになりました。

図3

図3 マダイ養殖場での実証実験(体色の比較)

従来の養殖場で与えている魚粉含有率40%の飼料を与えた養殖魚より、魚粉含有率を30%とした上でイエバエサナギを2.5%加えた飼料を与えた養殖魚の方が、体色が良好でした。

図4

図4 マダイ養殖場での実証試験(成長性および増肉係数の比較)

魚粉含有率40%の飼料を与えた対照区の養殖魚より、魚粉含有率を30%とした上でイエバエサナギを2.5%加えた飼料を与えた試験区の養殖魚の方が大きく成長することが確認できました。また、魚の体重を1kg増やすために必要な飼料の量(増肉係数)は試験区の方が少ないことから、試験区の養殖魚の方が効率的に成長することが確認されました。

図5

図5 マダイ養殖場での実証試験(酸化ストレスの比較)

魚粉含有率40%の飼料を与えた対照区と比較して、魚粉含有率を30%とした上でイエバエサナギを2.5%加えた飼料を与えた試験区の養殖魚は、抗酸化力(BAP)注3)が高く、活性酸素代謝物(dROMs)注4)量が低いことが分かりました。これは試験区の養殖魚が、酸化ストレスに対する耐性が高く、酸化ストレスが低い状態を保っていることを示しています。

<用語解説>

注1) 摂餌促進
養殖魚の飼料に対する嗜好性を高めて、飼料の摂食を促進させることを言う。
注2) 酸化ストレス
生体内で活性酸素により障害が生じる状態のことで、過酸化酸素の産出・還元のバランスが崩れることによって酸化ストレスが高くなる。酸化ストレスは、さまざまな疾患を引き起こすことで知られており、養殖魚の健康状態の指標として適している。
注3) 抗酸化力(BAP:Biological Anti-oxidant Potential)
鉄イオンの色の変化を利用してサンプル中の抗酸化力(還元力)を測定するもので、抗酸化力が高ければ酸化ストレスが低いということが言える。
注4) 活性酸素代謝物(dROMs:derivatives of Reactive Oxidative Metabolites)
活性酸素が生体物質と反応することによって発生する物質。この活性酸素代謝物の量を測定し、量が多ければ「生体内の酸化の度合が高く、酸化ストレスが高い」ということが言える。

参考:<企業概要、ほか>

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

愛媛大学 南予水産研究センター 生命科学研究部門
〒798-4292 愛媛県南宇和郡愛南町船越1289番地1
三浦 猛(ミウラ タケシ)
Tel:0895-82-1028
E-mail:

株式会社愛南リベラシオ
URL http://ai-lib.com/

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 イノベーション推進本部 産学連携展開部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
寺下 大地(テラシタ ダイチ)、狩野 保(カノウ タモツ)
Tel:03-5214-7624 Fax:03-5214-0017