PC、携帯、インターネット、マルチタッチ登場に匹敵する革命の旗手「Lytro(ライトロ)」がついに出ました。
今までのカメラとどこが違うの? これのどこが革命なの? Lytro(ライトロ)の原理と使用感を早速レポート。
ライトフィールドを捉える、という革命
撮影時フォーカス不要なのはズバリ、「Light Field capture(ライトフィールドキャプチャ、光照射野キャプチャ)」と呼ばれる技術のおかげ。とりあえずこの3ワードはしっかり頭に刻んでおいてくださいね。これがあるからLytroで撮った写真は、後でどこからもピント合わせができるのです。例えば、このように。
好きなところをクリックしてね。そこにピントが合うよ
Lytroはこのライトフィールド・キャプチャなるものをデバイス単体に搭載した初の製品。従来はカメラを何台も何台も並べて撮るか、コンピュータに直接繋ぐか、その両方をやらないと光照射野は捉えられませんでした。スタンフォードの設備なんてとんでもなく大きい! それがカメラ1台でパシャッとできるようになったんですね。
ライトフィールド(光照射野)センサは普通のカメラのセンサと違い、1枚の静止画像の再現に必要な光だけじゃなく、光の強度、カラー、方向まで記憶します。うちのマット・ホーナン記者が昨年記者発表のとき書いたように(英語)、このカメラの中に小さなレンズが何百枚も搭載になってて、そこでセンサに到達前の光を分解し、光の方角・総量まで記憶してるんでございますよ。これが撮影後のピント位置修正を可能たらしめる秘伝のソースというわけ。
これができると、これまでできなかった写真撮影の試みがアレもコレもできちゃう。Lytroはそうした新たな可能性に扉を開くカメラなのです。
使ってみた感想
Lytroを初めて手にとると、もうその瞬間から、ちゃんと考えられたデザインだなーって分かりますよ。細部まで目配りが効いてるんですね。決して小さくはないけれど、軽くて、ポケットに収まるし、鉄の砦のように頑丈。まさに「使うために造られた」という感じ。
カメラデザインの主役はレンズアレイ。これが赤の陽極酸化アルミのパートを全部占領してます。これぐらいじゃないときちんと機能しないんですね。 残り3分の1は表面がゴム加工。これは指の滑り留めになって安心です。
レンズキャップは磁石でLytro本体にくっつきます。1.46インチのスクリーンはタッチ対応で、本体上部のズームダイヤルもタッチです。シャッターと電源ボタンはLytroを親指と人差し指、中指で構えた姿勢のままカメラをONにして撮ってOFFにするという一連の動作ができる位置についてます。
だから予想外のシャッターチャンスにいきなり遭遇してもササッと手早く撮れる! 電源切って持ち歩いていても、その状態から2~3秒で撮れます。それ以上速くはムリだけどね。
とにかくUIがシンプルで、カメラをONにするだけで、もう撮れるんですねー。画面の左側をスワイプすると、前に撮った写真群が出てきます。ボトムから上に1本指でスワイプすると設定、ストレージ容量・バッテリー容量、Everyday/Creativeのモード切替えが表示されます。
Everydayモードは最速/ベーシック/初心者向け。焦点範囲(focal range)を自動で合わせて、フレームの真ん中にキープします。Creativeモードは光学8倍ズームの全領域(35-280mm相当)が使える設定で、スクリーン上でタップした物・領域にピントが合います。macroモードの写真でも、同様にピントは自由に合わせられます。Lytroの絞り値は常時f/2。 ISOレンジは125-3200ですが、大体は200-800の間を行ったり来たりですね。なにしろ頼みの綱は光線(Lytroはフラッシュもついてない)なので、光が少しでも足りないとノイズが入ってきちゃう、照明がかなり明るい室内でも。こ~れはもう少しなんとかして欲しいな。
Lytroが真価を発揮するのは、すぐ目の前の日当たりの良いところに被写体がある時ですね。これなら深度もディテールももっと吸収できます。間に遮るものがない遠くの被写体を撮っても、それほど細かいところまでは表情豊かには撮れません。逆光より順光で撮った方が光は拾えます。特に太陽の光が一番。室内照明だと暗く映っちゃうし、くもり空だとコントラスト比やや出すぎで、堅苦しく写ります。
ソフト(追:当初Mac対応のみ。Win対応も間もなく出ます)さえインストールすれば、あとはLytroで撮った写真をコンピュータに取り込む作業は超シンプル! マイクロUSBでカメラ繋ぐだけで写真が自動で転送されますよ。カメラで表示しても、スクリーン小さくて低解像度なのであんまチェックできないし、これは重要なポイントですねー。
但し取り込み後は処理に時間食うので、要らない写真はパソコン転送前にカメラ上で削除しておくこと。僕のMacBook Pro(2.26 GHz Core 2 Duo、RAMは8ギガ)でも写真1枚処理するのに1分かかりました。Chromeと、あとTwitterとかメールのアプリを何個か開いた状態でやって、それですからね。
写真共有したい人はLytroのサーバーにアップロードすると、そこでFlashやHTML5プレーヤーの埋め込みコードを生成してくれます。この記事に埋め込んでるのが、それ。これはウェブ上どこにでも(Facebookも)埋め込めます。
でもまあ、Lytro一番の楽しさは撮影後いかようにも写真をいじれるところですよね。処理完了後の写真はクリックした場所にどこにでもピント位置が移動できます。まるで自分でレンズ動かしてるみたいに、見てる目の前で(光と構図がしっかりした写真じゃないとダメだけど)。
この偶然窓越しに撮った写真で気づいたんですけど、どこクリックするかによって窓の格子が出たり消えたりする! 「このカメラならどう撮ったら面白い写真が撮れるのかな?」と考えながら外を撮り歩いてコンピュターに舞い戻って写真アップして実験成果を確かめる、これが結構楽しいのです。
これはと思う焦点に出会ったら、そこでピントを固定したJPGの静止画像としてエクスポートすればOK。1080x1080ピクセルなので超高画素ってわけじゃないけど、ネットで使う分にはこれで十分ですよ。好きなところ
ピントがいくらでも合わせ直せるところを別にすれば、操作がシンプルなところがLytro一番の強み。ほんとにバカみたいに簡単に操作できちゃう。誰でも手にとって遊んでそれなりにいい写真が撮れるのです。上級者も上級者なりにパワフルな写真が撮れます。光が十分当たってる場所で撮ると被写体(人・物)のものすごい細かいところまで拾える ―特にマクロ撮影― ので、本当にいい感じでボケ味が出るんですね。低画素だけど、これはデジタル一眼レフに全く見劣りしません。
あとLytroは真っ暗闇に近い状態でもディテールが拾えるんです。美麗写真じゃないにしても暗視キャムとして通用するレベルに近いかも。
好きじゃないところ
本当に美しい写真撮ろうと思ったら、むちゃくちゃ光量が必要なところかな。少しでも光が足りないと、写真が部分的にぼやけたり、粒子が荒くなったり、細部まできちんと撮れなくなります。特に遠くの物を撮る時は、それ感じましたね。
また、ファイルタイプも新しく出たばかりで、あんましまだサポートされてない...。Lytroで撮った写真は、Lytroのアプリで見るか、Lytroのサイトでホストするプレイヤーで再生して見るかしかできません。
毎日使う常用カメラとしてはスクリーンの質、Lytro本体の形が問題で構えづらいところも。大きさ、画素数の問題とは別に、なにしろ視野角が狭いので真っ直ぐ構えて真っ直ぐ覗き込める時はいいんですが、変な角度にカメラを曲げると途端に見えなくなっちゃうんです。これは若干のデザイン変更で解決する問題かもしれませんけどね。
ズームコントロールは性能は問題ないのだけど、できればカメラの上じゃなく横についてた方が良い気が...。シャッターに手を動かす時うっかり間違えてズームしちゃった、というアクシデントが数えきれないぐらいありました。
レンズキャップはもっと強い磁石にして欲しいです。バッグとかコートのポケットに触れるたびにゴムのところが引っかかってキャップが落ちてしまった...。いつか失くすんじゃないかと、本気で心配。
買うべき?
今のLytroは、喩えて言うなら、高校の卒業アルバムで「将来絶対成功する学生」票が一番集まる子。もう成功してるのだけど、まだまだ未開拓の実力がある。このままいけばメンサ(MENSA)の殿堂入り間違いなし、という将来有望選手です。
ライトフィールド(光照射野)撮影は一般コンシューマとプロの両領域に食い込むポテンシャルを秘めています。その初の試みというフィルター抜きで評価しても、Lytroはかなり良くできた製品ですよ。まあ、今は実用性より物珍しさが先に立っちゃうところもあるし、値も張るし、改善の余地もあるけれど(メインのカメラには成り得ない)。
Lytro社(グーグルと同じマウンテンビューが本社)では今年いっぱいかけて3Dディスプレイと互換にして、サードパーティーのアプリをネイティブでサポートする予定です。取らぬ狸ですけどね。
だけど、このカメラいじって感じる「新しさ」は本物です。生まれて初めてコンピュータ触った時、任天堂にスイッチ入れた時、マルチタッチスクリーンいじった時の感動に近い。技術と写真が好きで、予備のカメラ買う余裕がある人は買ってエンジョイすべし。
Lytroスペックセンサ:11 megarays
レンズ: 光学8倍ズーム、絞り値f/2(固定)
ストレージ: 16GB(テスト時点)
フォーマット: .LFP
スクリーン: 1.46インチのタッチスクリーン
サイズ: 1.61 x 1.61 x 4.41インチ(4 x 4 x 11.2cm)
重量: 7.55オンス(214g)
バッテリー:充電可能なリチウムイオン電池
価格: 500ドル(テスト時点。400ドルから)
Gizランク: 4つ星(5段階評価で)
テストショットはここ(成功作と失敗作ごっちゃに入ってます)
ADRIAN COVERT(原文/satomi)