自転車にまだ乗れない頃って、自転車がどうして倒れずに走れるのか、不思議じゃありませんでしたか? 自分には補助輪なしでは乗れない乗り物に、簡単そうに乗れている大人は神に見えた人もいると思います。
では、自転車が倒れない仕組みはなんでしょう? これまで、それは専門家の間では「キャスター角」と「ジャイロ効果」によるものだと考えられてきました。
「キャスター角」とは、自転車の前輪を横から見たとき、ステアリング軸(フォークやハンドルバーが回転する軸、多くはフロントフォークのヘッドチューブと平行になる)が垂直に対して傾いている角度です。通常ステアリング軸は上部が自転車後方に傾いていて、この軸から地面の方に延長線を引くと前輪の接地面より前方で地面と交差します。このステアリング軸延長線上の点と前輪接地面の間の距離をトレールといい、キャスター角とタイヤの大きさ、フォーク先端の湾曲によって作られるオフセットの組み合わせによって長さが変化します。トレールが長いほど直進安定性が保たれると考えられています。また、「ジャイロ効果」はコマのような物体が自転しているときに、軸の方向を保つ性質のことです。
でも今週、Science誌に掲載された論文がこの考え方をくつがえしました。冒頭の画像にある、一風変わった「自転車」による実験で、あることがわかったのです。
この自転車では、通常の自転車では前輪の接地面がステアリング軸と地面の接地点より後ろに位置するのに対し、前方になるようにデザインされています。これによって、キャスター角がマイナスになっています。また、前輪・後輪それぞれに逆回りする車輪が付けられていて、ジャイロ効果も打ち消されています。
それでも、この自転車は押されるとちゃんと倒れずに進み、前進する動きが止まるまで倒れなかったのです。その模様の動画がこちらで見られます。
この実験によって、これまで「自転車が倒れない理由」とされてきたキャスター角やジャイロ効果は、自転車の安定性にとって(貢献しないわけではないが)不可欠なものではないことがわかりました。
ではなぜ自転車が倒れないかというと、重心の配分、とくに前輪まわりのバランスがポイントです。実験では、前輪は軽く、後輪は重くなっているので、前輪は後輪より早く倒れようとします。でも前輪と後輪はつながっているので、結果的には前輪の方向に向かって進むようになり、倒れないというわけです。
ただ今回の実験では、なぜ従来のさまざまな自転車が倒れずに走ることができていたのか、すべて説明できてはいません。ともあれ、自転車が倒れそうになったときにその方向に進んで行けることが重要で、それが可能な自転車のデザインは非常に多様だ、ということです。
今回の発見によって、自転車のデザインが変わっていく可能性があります。従来よりもっと倒れにくい自転車とか、ゆっくり走るのに最適な自転車とか、いろいろ出てくると楽しいですね。
Jack Loftus(原文/miho)
※ご指摘ありがとうございました。キャスター角の説明を修正・補足しました!