あれもすごかったけど、人体ミクロも神秘的...。
「どこにでも真と美は存在する」
これは、細胞の仕組みをビジュアルで教えるハーバード大のサイト「BioVisions」向けにアニメーションを製作するXvivo社共同創業者デイビッド・ボリンスキー氏(父親は彫刻家)の2007年の言葉。2006年に発表した第1弾アニメーション作品「The Inner Life of the Cell」(上)は大反響だったので、ご記憶の方も多いんじゃ?
白血球が体外からの感染を撃退するメカニズムを動的に描いた作品ですね。後にハワード・ヒューズ医学研究所の手により、音声もつきました(下)。
ほんと、モータータンパク質が小胞を運んでゆくシーン(3:46~)なんて鳥肌モノ...あそこまでノソリノソリ歩くわけじゃないけど、「歩く」のは事実みたいですよ? 人体って面白いなあ...。
このXvivoの最新作がこのほど発表になりました。タイトルは「Powering the Cell: Mitochondria(細胞の動力:ミトコンドリア)」(下)です。ますます美しさに磨きがかかってますよ。ぜひ720pの高画質でご堪能くださいませ。
ああ...「パラサイト・イヴ」でゲーッとなった人には最良の薬ですね...。
まあ、しかし、このアニメーションは単に目を楽しませるためのものじゃないし、普通の人に体内で繰り広げられるミクロな営みの素晴らしさを考えさせるためにあるんでもないですけどね。今は研究をリードする科学者の間で、この種のアニメーションが活用されてるんです。
ボリンスキー氏もTEDの講演で話したように、目先の研究に追われていると総体が見えなくなってしまうので、自分が取り組む細胞の世界全体で現実に何が起こっているのか、もっとよく把握するためにもアニメーションはとても有効なんだそうな。従来のイメージング技術も素晴らしかったけど、やっぱり動いてる細胞を見る方が格段に頭の刺激になりますもんね。
以下、NYタイムズからの抜粋。
「顕微鏡・X線結晶など、これまでのものは全部スナップショットだった」と、(分子のアニメーターの)Dr. Iwasaと頻繁に共同作業を行うハーバード大学Tomas Kirchhausen細胞生物学教授は語る。「私にとってアニメ化は、こうした全情報を論理的にひとつに繋ぎ合わせる手法なんです。アニメ化すると何が正しく何が正しくないかが見えてきて、自分たちのやってることが現実的かそうじゃないかに嫌でも向き合わなきゃならないからね」
目下、細胞がタンパク質や他の分子を取り込むプロセスについて研究中の氏は、アニメーションを見ると3本足のクラスリンというタンパク質が細胞内でどのような働きをしているか思い描く手がかりになる、と話している。
アニメーション製作は普通Mayaのようなソフトウェアを使って行います。6万3000ものタンパク質の全原子の3D座標データベース「Protein Data Bank」など、一般入手可能な情報源からデータを引き出して参考にしながら。
想像で補う部分が多く、そこが問題だと見る意見もありますが、新しいデータの山に埋もれて見えない原理を洗い出す有効なツールと見る向きも。どっちにせよ体内研究を担う次代の研究者にとっては、今後こういう科学アニメーションは欠かせないものになりそうですよ? ハーバード大生物学者E.O. Wilson氏らが現在開発を進めている最先端のデジタル教科書「Life on Earth」にもアニメーションによる詳しい解説が盛り込まれ、これがカリキュラムの中核となるようですから。
僕の細胞をここまでカッコ良く描いてくれた作品はこれまで見たことない、それは認めざるを得ないな。
[NYT]
Kyle VanHemert(原文/satomi)