コンピュータエンタテインメント開発のメッカ・九州で待望のCEDECが実現!
2015年10月17日、福岡・九州大学大橋キャンパス内にて、KYUSHU CEDEC 2015が開催された。例年、パシフィコ横浜で開催されているコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC”だが、2014年に札幌、2015年には大阪でも開催されており、KYUSHU CEDECは地方開催としては三ヵ所目となる。
開会式では、KYUSHU CEDEC 実行委員長を務めるサイバーコネクトツー代表取締役社長・松山洋氏が登壇し、開会宣言を行った。松山氏によると、当初は500人を集めることを目標に動き出したというKYUSHU CEDECだが、結果的には、地元九州を中心に、800人を超える受講申し込みがあったとのこと。松山氏は、九州CEDEC実現に協力してくれた多くの企業、人に感謝を述べつつ、集まった受講者たちに、「しっかり楽しんで、しっかり勉強して、さらなるクリエイティブに努めていただきたいと思います」と呼びかけた。
稀代のヒットメーカーの企画立案術とは!?
開会式に続いては、レベルファイブ代表取締役社長/CEO・日野晃博氏による基調講演“日野流 企画立案術”が行われた。ここからは、その模様をリポートしよう。
冒頭では、まず日野氏率いるレベルファイブについて改めて紹介された。その輝かしい実績については、ゲームファンならば誰もがご存じの通り。なかでも、ここで明かされた数字として驚異的なのが、いままでにリリースした41タイトルの売上が、1タイトル平均(世界合算)で、なんと93万6000本に達する、というもの。これほど高いヒット率を記録しているのであれば、やはり何らかの、ヒットの必勝法があるのでは……? というわけで、多くの人に問われるその疑問に答えることこそが、この講演の主題だ。
日野氏いわく、約25年にわたって長らくゲームの企画を作ってきた中では、やはり自分なりのルール、ノウハウが生まれてきているという。しかし、「企画を作るうえで必勝パターンはあるのか?」という問いに対する答えは、「もちろんありません」(日野氏)。
ただし、ヒットするか否かは別として、“作る意義が感じられる魅力的な企画”を作るノウハウはある、と日野氏。そこで、ゼロから“魅力的な企画”を作るためのノウハウが説明されていった。
まず日野氏の流儀では、“企画=商品の設計図”ではない。企画は、設計図を作るよりももっと前の段階でやるべきことであり、そこで求められるのは、“夢を提示すること”だという。重要なのは、制作に携わる人たちがやる気をもって取り組むためのきっかけとなり、モチベーションをもってすばらしいクリエイティブを発揮していくための発端となるアイデアであること。「ちょっとしたテキスト設定を見て、それおもしろそう、自分にもアイデア出させてくれ、といろいろな人が参加したくなるようなもの」(日野氏)こそが、魅力的な企画なのだ。
日野氏流の企画とは、コンセプトを作ること。仕様にまで浸食するような創りかたをしたくなるのをぐっとこらえて、コンセプトをしっかり固めるまでは、作るテキスト量を増やさないように心がけ、全体のベクトルが見えにくくならないように注意するのだそうだ。
『RPG(仮)』ではダメ!
では、実際に魅力的なコンセプトデザインをするにはどうすればいいのか? ここから、日野氏流の具体的な手法が明かされていった。
まず、日野氏が非常に重視するのが、“タイトル”だ。日野氏は、企画初期の段階でよく見られる、“RPG(仮)”のようなタイトルをつけて進めていくやりかたには賛同できない、と語る。なぜなら、「タイトルはコンセプトの始まりである」(日野氏)からで、こういう方向に作品を作りたい、と考え、伝えるための最初のきっかけになりうる情報だからだ。そのため、日野氏の流儀では、「かっこいいタイトルをが思いつくまでは、先に進みません」(日野氏)というくらい大事にしているのだとか。
その例として挙げられたのが、ご存じ『妖怪ウォッチ』。これも、日野氏が企画時点で考えついたタイトルなのだそうだ。日野氏がタイトルをつける際に気をつけるポイントは、“聞いたときにひっかかりがあるか”、“そこからイメージや感情が生まれるか”。無臭のものではダメで、タイトルから絵や感情が浮かび、作品性、雰囲気が漂ってくるものでなければいけないという。
『妖怪ウォッチ』では、まず妖怪をテーマにしたRPGを作りたい、という発想があり、そこから、「妖怪とくっつけていちばんひっかかりがある言葉は?」と考えていったのだそうだ。しかし、“妖怪の館”、“妖怪小僧”、“妖怪番地4丁目”……などなど、いろいろ考えてもピンとこない。そこで活用したのが、日野氏が「すごいタイトル」と評する、『ドラゴンボール』式の命名法だ。“ドラゴンボール”は、“ドラゴン”のあとに、“ボール”という日常的な単語をつけることで、ファンタジー感と現代性を結びつけ、異質な感じを生み出したすばらしいタイトルだ、と日野氏。同様に、“妖怪”のもつ“古い”、“有機的”、“不気味”、“謎”といったイメージとは正反対に、“新しい“、“無機質”、“クリア”、“よく知られている”というイメージを持つものとして“ウォッチ”を結びつけ、ひっかかり、違和感を生み出したのだという。
そして“妖怪ウォッチ”というタイトルができたことで、そこから現代の文化が絡む世界観が広がっていき、新しい現代的な妖怪のイメージが膨らんでいったのだ。
そのほかにもレベルファイブ作品における実例が説明されていったが、いずれも、企画開始段階でつけたタイトルであり、開発を進めながら正式タイトルをつけなおしたものではないのだそうだ。
勝負はキャラクター設定を作った時点で決まる!
続いて語られたのが、“キャラクター設定のヒミツ”について。日野氏の場合、主要人物の設定やあらすじは、企画の最初の段階で作るのだそうだ。
日野氏は、レベルファイブ作品が、子どもたちに向けて極めてわかりやすいものを作ることを意識したものが多いため、年齢層が高い人向けの作品とは事情が異なる部分もあるとしつつ、「親しみやすく、扱いやすいキャラクターを作っておくと、物語の作りやすさは大違いです。設定を作った時点で勝負は決まっている、と言っても過言ではありません」と、キャラクター設定の重要さを説いた。
では、いかにわかりやすく、親しみやすいキャラクターを生み出すか? 日野氏が主人公を作る場合、まず“変化型”と“不変型”のどちらであるか、は必ず考えるポイントなのだそうだ。
変化型は、少年マンガなどで多い、成長する主人公のこと。主人公の成長=変化がシナリオになるため、伸びしろが大きければ大きいほど、物語に幅が出ておもしろくなりやすい。ちなみにこのタイプは、かつては最弱から最強に成長していくパターンが多かったが、最近では、「最初から最強で、超最強を目指すものが増えていますね」(日野氏)。このパターンの場合、最初から強く気持ちいい物語を楽しめるのが利点だが、さらなる高見を目指していく物語である、という点では同様である、と日野氏は分析する。
もうひとつの“不変型”は、絶対的な能力を持ち、終始ブレないキャラクター像を描くもの。強いキャラに憧れ、安心して物語を楽しめるのが魅力となる。これは『北斗の拳』のケンシロウや『シャーロックホームズ』のホームズなどが該当するタイプで、無敵の気持ちよさを軸にしており、これも王道だ、と日野氏。
わかりやすい、魅力的なコンテンツを考えるうえでは、この変化型(サクセス)、不変型(パーフェクト)の2パターンを意識するのが基本なのだ。
では、主人公をとりまく、ドラマの主軸となるメインキャラクターたちはいかに作っていくべきなのか? これについては、「くだらないことをいろいろ考えているのですが……」と冗談めかしつつ、日野氏流のユニークなルールが披露された。
日野氏がメインキャラを作るにあたり、チェックするのは“ゴレンジャーの5色”、つまり“赤”“青”“黄”“桃”“緑”が揃っているか、なのだそうだ。いわく、赤は主人公。青は、主人公の相棒であり、身近にいるクールなキャラ。黄はお笑い、ずっこけ担当のキャラで、桃はヒロイン。そして、緑はライバル、敵、上司など、主人公から距離を置く存在のことだ。この5色が揃うことで、物語が非常に作りやすくなる、と日野氏。
日野氏の分析では、多くの優れた物語ではこの要素が揃っているものだそうで、とくに日野氏が少年ものの企画を作る場合には、この5色に抜けがないかをチェックすることを忘れないようにしているのだという。
世界観=ビジュアル設定ではない!
企画において、日野氏がもうひとつ重視しているのが、世界観設定だ。主人公、メインキャラ、そしてこの世界観が決まれば、方向性がしっかり定まる、というのが日野氏の考えだ。
ただし日野氏が言う“世界観設定”とは、作品ビジュアルの基礎となり、グラフィックデザインをするための設定のことではない。もちろん世界観設定にはそうした役割もありはするが、もっと大事な役割は、“架空世界での常識を設定すること”であり、ゼロから世界を生み出すということは、架空の世界のルールを作ることなのだ、と日野氏は語る。その世界では、車を空を飛べるのか? 一般の人は魔法を使えるのか? そしてそれらを見たときに、人々は驚くのか、当たり前の常識だと見なしているのか? そうした世界の常識がしっかり設定できていなければ意味がないというわけだ。
さらに、企画をおもしろくしていくための手法も語られた。日野氏の持論は、「コンテンツがヒットする理由は、企画がパーフェクトだからではない」ということ。その根底には、大勢の人々が結集して作り上げることで、作品がよりよいものになっていく、という考えがある。だから、企画に必要なのは“非の打ちどころのない、隙のないアイデア”ではなく「いい企画とはいいダシ汁。いろいろな人のアイデアを入れ込んで活かせるような、吸収し、まとめやすい包容力をもったものです」(日野氏)というわけだ。『妖怪ウォッチ』がこれだけの成功を収めたのも、『妖怪ウォッチ』が、「この世界のあらゆるものを吸収しても違和感がない」(日野氏)というほどの包容力、吸収力がある企画だったからこそだ。
それを踏まえて日野氏は、必勝の企画会議術として、“隠し設定会議”を実施することを薦める。これは、自分で納得がいくまで設定、案をまとめたうえで、あえてそれをすべて公開せず、要点書類のみで会議をやる、という手法のことだ。
この場合、企画を作ったコンセプトリーダー側では、設定がきっちり考えてあるため、ほかのメンバーからの疑問にすべて答えていくことができる。一方、会議に参加したプランナー側は、アイデアが決定事項として提示されていないため、萎縮することなくアイデアを出していけるのだ。そこで突拍子もないアイデアが生まれることで、コンセプトリーダーひとりでは思いもつかなかったような、新たな発想が生まれることもある。
企画は夢を語るもの。完璧である必要はない!
以上を踏まえて日野氏は、まとめとして、「いい企画とは夢を語り、未完成であるべきである」と語る。詳細な設定まで詰め込む必要はなく、夢を語ること。その企画を見た人に、「完璧な企画ですね」と言われる必要はなく、むしろ「おもしろい企画だけど、こことここは、こうしたほうが?」などと言われるくらいのほうがいい、というのが日野氏の考えなのだ。
最後に日野氏は、「皆さんもこれから、すばらしいクリエイティブをやっていかれると思います。我々も新しいことしかやりたくありませんから、さらに新しいことをやって、いろいろな人を驚かせていきたいと思います」と、今後の活動への意気込みを語って、講演を締めくくった。