一日で起きている時間のうち、4時間ぐらいは東方のことを考えています。
ここでいう東方とはもちろん東方神起のことではなく、居酒屋・東方見聞録のことでもなく、同人ゲーム〈東方Project〉のことである。
ご存じない読者もいるだろうから、念のため簡単に説明しておこう。東方Projectは同人作家ZUNのサークル「上海アリス幻樂団」が創作しているゲームとそのBGM、及び派生した商業出版物などを指す総称である。
その起源はZUN氏が大学在学中の1996年に発表したゲーム「東方靈異伝」まで遡るが、現在一般的に流通している作品は2002年のコミックマーケット62で正式に頒布が開始された「東方紅魔郷」以降のものである。「東方紅魔郷」(リンク先から体験版をDL可能)は縦スクロールの弾幕シューティングゲーム(6面+EXTRA)だ。この世界のどこかに博麗大結界によって守られた幻想郷があり、その中では外界で忘れられたものが今もなお生きながらえている。その世界の均衡を乱すことなく、なおかつ闘争の自由を確保するために編み出されたのが、「スペルカード」ルールだ。幻想郷に住む神・妖怪・人間の少女たちは、スペルカードを用いて楽しい「弾幕ごっこ」を繰り広げているのである――という東方の設定を話すたびに「それなんてギャルゲ?」と心ない輩につっこまれるが、例外的な作品を除いて、東方の中核にあるのは弾幕STGなのである。もしあなたがこれから東方厨を目指すのであれば、できれば原作の弾幕STGに挑戦してもらいたいと思う。
さて、その弾幕STGがなぜここまで人口に膾炙し、社会現象といってもいいほどの人気を獲得したかといえば、やはり二次創作の影響を無視できない。「東方紅魔郷」発表翌年には早くもファンコミュニティが形作られ、2005年の「第2回最萌トーナメント」開催によって爆発的に拡大した。さらに2007年に「ニコニコ動画」がサービスを開始、動画で二次創作物を見たファンの参入が、人気を決定づけることになったのだ。
というわけで今回は、誰でもすぐに初められる東方厨の仲間入りの仕方を教えたい。例大祭まで約2ヶ月、急げ。最短の道はニコニコ動画のアカウントをとって、東方関連作品を観ることだ。さまざまなジャンルの作品がアップされているが、最初は「東方手書き劇場」に挑戦することをお薦めしたい。
これは文字通り、東方のキャラ・世界観を使用した作品だ。もっとも多いのは4コマ形式のものだが、一部にはたいへんな長さの大河作品もあり、それにはまると幾晩も徹夜をすることになるので注意してもらいたい。
動画にはいくつかのタグが付されているはずだ。
もちろんいきなり動画を観ても楽しめるが、世界観や設定を知りたくなったら、ZUNによる公式本を見ることをお薦めする。『東方求聞史紀』『東方文化帖』あたりがいいだろう。ZUN原作、秋☆枝画のコミック『東方儚月抄』あたりから入る手もある。
では、東方厨・杉江松恋がお薦めする「東方手書き劇場ベスト10」をどうぞ。順位は初見で理解しやすいかどうかでつけたので、作品のおもしろさとは別であることをお断りしておく。もちろん、順位が上のほうが初心者向け。
第1位「夢の東方タッグ編」作者:オレンジゼリー
『キン肉マン』のコミックを拾った幻想郷の住人が、チームを組んでタッグトーナメント戦を繰り広げる物語。東方動画随一の人気を誇り、新作がアップされると必ず祭状態になる。たいへんな大河シリーズであるため、第一回から観始めるとその晩は絶対に徹夜になるはずだ。
第2位「東方日記」作者:空の雨雲
無口どころかまったく喋らない博麗霊夢が主人公。霊夢はスペルカードルールの制定者であり、かつ神社の巫女として博麗大結界を守っている。いわば幻想郷の中心人物なのだが、なぜか「貧乏」「金にうるさい」「鬼畜(公式でもそっけない性格であるため)」などの二次設定が一般化している。ここんちの霊夢は純粋さではいちばんなのである。ほのぼの動画。
第3位「虹色☆ハニー」作者:まるみこ
「2828動画」といって、観ながら思わずニヤニヤしてしまうラブコメ路線がある。その代表格が、今はこれ。「東方紅魔郷」の主要キャラクターである紅魔館のひとびとが登場人物で、メイド長・十六夜咲夜と門番・紅美鈴のくっつきそうでなかなかくっつかない関係にやきもきさせられる。伏線回収が巧い作者なので、絵の隅々までよくご覧いただきたい。
第4位「チルノが歩くだけ」作者:マルケー
1つだけ短編を入れてみた。東方のBGMに合わせてキャラが動く手書きアニメーションで、回を追うごとにどんどん動きがすごくなっていく。
第5位「元々シュールな東方手描き4コマ」作者:ポン
2010年にもっとも人気があった作者がこの人。もともとは和田ラジヲなどのギャグマンガのネタを東方キャラで再現するという作風だったが、twitterでネタを募集してマンガ化に挑戦するという「無茶振り企画」で人気が完全にブレイク。赤松健風と尾田栄一郎風の両方の画風を模写して、同時に東方キャラを対決させるなんて無茶振り、よく出来るものだ。
第6位「東方チョメチョメ手書きマンガ」作者:ぺけ
長寿作品の一つ。私は博麗霊夢が嫁(あ、言っちゃった)なので、霊夢が活躍する動画に甘い傾向があるのだが、この動画は背のちっちゃい霊夢が可愛いです。キャラクターのデフォルメもそれほどきつくなく、小ネタもきいているので、ギャグ路線はお薦めなシリーズである。細かいアニメーションが使われており、動きを観る楽しみというのもある。
第7位「東方痩白岩(正編/EXTRA/PHANTAZM)」作者:太増夫
「東方妖々夢」1面ボスのレティ・ホワイトロックが主人公。本当なら雑魚キャラすれすれの1面ボスを主役にするために、トリッキーなストーリーが用いられ、引き込まれる。
第8位「へんたい東方」作者:まことじ(makotoji)
『のうぜい!』でプロデビューを果たした作者の、記念碑的作品。このシリーズをアップし続けていることのまことじは「幻想郷催促のmakotoji」と呼ばれたほどのスピードを誇り、かつストーリーも抜群だった。問題はこの動画に出てくるキャラクターのほとんどが二次設定の塊であることで、原作とはことごとく違う。そのつもりで観たほうがいいです。
第9位「つちぐもとはしひめ」作者:葛の葉
初心者向けとは言いがたいのだが、これだけは観たほうがいい。「東方地霊殿」の登場人物が、それ以前の作品に出ていたらどうなるか、という実験からスタートしており、歴史(公式の設定)を変えないようにキャラクターが配置され、物語が考えられている点がすごいのである。最初はシンプルだった絵がだんだん巧くなっていく過程も楽しめる。
第10位「魔理沙が海に行きました」作者:2151
PV系とでもいうべきか。東方BGMと他のゲーム音楽をかけあわせた曲を自作するだけでも素晴らしいが(この作品では恋色マスタースパーク+チーターマン)、それにつけられた絵がアメコミ風の独創的なものである点も良い。謎の中毒性があり、気がつくと何度も何度も再生している。
なお杉江は、東方手書き動画の索引をマイリスト(07年、08年、09年、10年)にて作成中です。まだ建設中ですが、観覧の手引きとしてご利用ください。例大祭まではずっと更新し続けるよ。ゆっくり見ていってね!(杉江松恋)