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ユーザーエクスペリエンス(UX)の関連記事、第2回をお届けする。UXに関する能力は、いまやリーダーシップの新たな要件となっている。企業の幹部はUXにどう関与し、UX思考をどう身につけるべきか。みずから製品デモを行う、自社のUXの実態を視覚化し把握する、スタートアップから学ぶ、などの方法がある。
ユーザーエクスペリエンス(UX)は、ビジネスにおける新たな「流行色」となっている(前回の記事を参照)。私が会う経営幹部のほとんどが、その業界を問わず、製品戦略のカギとしてUXの取り組みを推進している。これはわずか5年前と比べると大きな変化だ。当時はテクノロジー業界を除けば、UXに注意を向ける企業などなかった。私のようなデザイナーからすれば、製品を根本から理解している幹部と、スプレッドシート上でしか製品を見ていない幹部を見分けることは簡単だ。幸いなことに従来の不干渉型(ハンズオフ)のアプローチを取らない、UX志向のリーダー世代が台頭してきている。UXが従来のブランド・マーケティングの意義を失わせていくにつれ、製品に対してより直接的に関わる(ハンズオンの)必要がある――このことを、彼らは理解しているのだ。
CEOが製品デザインを主導する
スティーブ・ジョブズは、CEOが「製品デザインのリーダー」を担う時代を拓いた。ネクストとアップルでジョブズと共に開発に従事したグレン・リードは、次のように述懐する。「スティーブはある時、こう教えてくれました。彼がCEOになりたかった理由の1つは、そうすれば製品デザインの詳細や核心に関わるな、と誰にも言われることがないからだ、と。彼はデザインの中心にいて、そのすべてに関わっていました」
アップルの成功をふまえれば、多くの企業幹部がジョブズのやり方に倣っているのは意外ではない。ある経営トップは大手テクノロジー企業で80億ドルの製品ラインを統括しているが、みずからを部門の「最高製品デザイナー」(Chief Product Designer)と称している。彼の実際の肩書はシニア・バイス・プレジデント兼ゼネラル・マネジャーで、これまで自身をデザイナーであると考えたことはないにもかかわらずだ。数年前ならば、このような役づくりは上級幹部としての地位を下げるものと見られていた。いまや多くの企業で、製品デザインの詳細に関わるのは誇るべきこととされている。たとえばフェイスブックでは、経営幹部が製品デザインに深く関わり、「つくって学ぶ」文化が築かれている。
このような製品中心の考え方は、必ずしも新しいものではない。自動車業界はジョブズよりずっと以前に、目玉製品の「お披露目」という方法を確立している。ライバル企業を出し抜く儀式である毎年のモーターショーで、自動車メーカーの経営幹部が新たなコンセプトカーを披露してきた。たとえば、いまではあちこちで目にする人気車〈フィアット500〉(500シリーズをリニューアルした3代目)が最初に披露されたのは、2004年のジュネーブモーターショーで、ショーマンシップあふれるセルジオ・マルキオンネ(フィアットグループCEO)が直々に発表した。これは2001年にBMWが〈ミニ〉を復刻し話題を呼んだことをふまえたものである。