先日ご紹介した「家庭の電子レンジで光速を測定する実験」ですけど、よく考えたら間違ってました、ごめんなさい。
正確にいうと、「論拠にした理屈は合ってるけど、検証方法が条件を満たさない」です。
これ世界的に有名な実験なので、もしかしたら紹介してる人ほぼ全員トンチキかもしれない。(白目)
∧_∧ ( ´∀`){ フーン ( ) │ │ │ (__)_)
前回のあらすじ
「チョコを電子レンジにかけた加熱むらの間隔から光速が手軽に算出できる」という定番の実験があって、面白そうだから試したらそれらしい結果が出たんで「へー」て思って書きました。
どこが間違っていたのか
電子レンジが作る加熱むらは定常波である、というのがこの実験での定説です。しかし実際に現れた加熱むらを見て、前提が間違いではないかと思い始めました。
【via Wikipedia “standing wave”(PD)】
加熱むらが六角形に見える → 照射角が違うかも
六角形という形は数学的にみてとても美しいフォルムをしています。そのため、現れた融解ポイントが六角形に近い形をしているのを見て「それっぽい(=科学的に確からしい)」と思い込んでしまいました。
しかし、よくよく考えると それこそが前提の誤りを体現しています。加熱むらが定常波に由来するもので、それが円に沿うならば、その間隔は波長由来でない可能性が高い。マグネトロンからのマイクロ波を伝えるアンテナの挙動に依存するはずです。
アンテナの仕様が判らないので検証不能でした
もしかして単純な定常波じゃないのでは(汗
Microwave billiards and quantum chaos よりマイクロ波共振器内の波動
参考:クラドニ図形
【 memo 】
クラドニ図形 … 固有振動による節の可視化と、それがつくる模様
【Wikipedia Ernst Chladniより、クラドニ図形のスケッチ(PD)】
定常波で光速を測ること自体は可能
ただ、定常波で光速を測れること自体は定義的に正しいのです。鏡面にマイクロ波あてて光速を計測した例が以下の「実験2」。
参考(PDF):マイクロ波による光速の測定(岡山:倉敷天城高校)
おそらく原始的な設計の電子レンジでは定常波が観測できたと思います。それでも現代的な構造の電子レンジでは実験そのものが成立しない気がしてきました。
どうして誤りが訂正されないのか
この件について色々な所で紹介されてるんですが、英語サイトも含めて反論の声はそれほど大きくありません。どうして専門家によるツッコミが見当たらないのでしょう?
マイクロ波の専門家とは
マイクロ波に詳しい職種といえば、真っ先に思い付くのが以下の方々でしょうね。
えーと、どちらも迂闊なことを言うと身バレが困る皆さんでした。
【 2015.02.24追記 】
「電子レンジの人もダメなの?」というご意見について。
ここでの話題は既に「電子レンジの原理と言うより各メーカーの仕様に近い部分」に移ったので守秘義務に抵触するだろうと思ったのです。文体で知り合いにばれそう。
それらしい結果が出る
また、先の結果を見て定常波だと思い込んでしまった原因は「加熱むらの間隔がそれらしい数字だった」からです。でも、マイクロ波だと実測波長が1mmずれると簡単に光速を超えてしまう。
自分が試した時も有効数字が甘い自覚はあったのですが、「そういうことになってるから」で無条件に信用してしまいました。(´・ω・`)
家庭で光速を測る方法
それでも「光速を実感する」のはいずれやってみたいので、考えられる方法を列記しておきます。
正しく定常波を測定する
先ほど紹介した高校の実験と同じ手法ですね。アンテナと反射鏡を正確に対面させてディテクターで波長を見る方法。それなりに大掛かりですが、プラ板にアルミホイル巻いてるだけだし頑張れば個人でも行けそう。
光ケーブルをオシロスコープに繋ぐ
光ファイバーケーブルに信号を送って、入出力の差分を見れば当然光速が測れるはずです。
ただし、光ケーブル中を進む光は真空中に比べてずっと遅い。ケーブル内を直進する光と蛇行する光で反射減衰&遅延が生じないように内部の屈折率が複雑に調整されているからです。
GI型マルチモード光ファイバーの内部模式図
素性が明らかで、かつ十分に長いケーブルがあれば やってやれないことはないでしょう。
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個人が買えるのはこの程度が限界か。 |
レーザー光でヤングの実験
感覚的に最も実感しやすい方法としては干渉縞による測定ではないでしょうか。19世紀初頭にヤングが行った古典実験に習うものですが、レーザーなど強い光を使うことで比較的正確な値が求まるはずです。
トーマス・ヤングによるスケッチ(PD)
ただし、波長が短いぶんスリットの工作精度がシビアになります。紙にナイフで作ったスリットだと紙の厚みで屈折ノイズが出てしまうでしょう。
あと、レーザーは十分に強いものを用意する必要があります。直視したらダメ、絶対!レベルの高出力レーザーじゃないと光量が足りなくなるので気をつけて下さい。
【 memo 】
距離を長くとるなら「衛星放送と電波時計で正時の時差を見る」という方法もあるのですが、現行のデジタル放送だとMPEG圧縮展開で発生する遅延のほうが圧倒的に長いので対象外とします。
干渉その2
【2015.02.24 本章追記】@suikan_blackfin さんによる本記事へのコメントより。
電波の速度なら、ダイポールアンテナで同相受信して干渉させればいい。到来方向に沿って並べて受信感度最低の時のアンテナ間隔がその周波数の半波長。
https://twitter.com/suikan_blackfin/status/569755825956220928
おぉ~!そうですね、こっちの方がちょっと手軽。頭イイ!(・∀・)
まとめ
…ということでデマ言いました。勘違いした要因は
近似値が出た理由としては、ありがちなサイズの皿を効率よく温めるために設計された値がたまたま似てたんだと思います。
科学にとってもっとも重大な敵は、人々の心の奥底にある「そうであってほしい」という気持ち、つまり信仰だ。
宇宙はどうもやっぱりホログラムらしい:shi3zの長文日記
P.S.:感熱紙による追試
id:ka-ka_xyzさんの感熱紙による追試と結果。
電子レンジで光速を測ろうとしたけど上手く行かなかったでござるの巻 続き – ka-ka_xyzの日記
お騒がせしましたでござる。
ちなみに この加熱スポットってZ方向にも出ますよね。せっかくなので私も感熱紙でやってみようと思って色々工作したんですけど上手い骨組みが作れなくて挫折しました。(´・ω・`)
…ということで、今度その測定をする際は庫内を埋め尽くす巨大なマシュマロを制作しt
加熱変色するゲル状物質
【2015.02.24 本章追記】id:xr0038 さんのコメント、
id:xr0038:加熱した部分だけ変色するゼリーみたいなものを使うとおもしろそうかなって思っているんですがそんな都合のいい物質ないですかね?
身近な所で卵白はどうかなと思ったんですけど、高さのある容器に入れると熱変性した部分だけ沈殿しちゃいそうですよね。容器にメッシュ入れておけば良いのかな。(後で調理が難しそうですが。)
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卵白飲み放題…。(;・`д・́){ゴクリ ←違 |
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