Alexaひとり勝ち? アマゾンが次に直面する「本当の挑戦」

アマゾンのパーソナルアシスタント「Alexa」の普及に伴い、スマートホーム実現に向けた新たな課題が浮かび上がりつつある。
Alexaひとり勝ち? アマゾンが次に直面する「本当の挑戦」
PHOTO: PICTURE ALLIANCE / AFLO

「どこにいてもヴァーチャルなパーソナルアシスタントがある未来」を想像するのは、そう難しいことではない。近い将来、「Alexa」や「Siri」、「Google」などが家庭に溶け込み、住人が思いついたニーズをすべて満たせるようになるだろう。

牛乳が必要? 冷蔵庫に指示しよう。車庫のドアを閉め忘れた? ダッシュボードのマイクに向かってそうつぶやこう。マラソン後に食べるダブルチーズバーガーとフライドポテトを、ゴールする前に注文しておきたい? スマートウォッチに注文を叫ぼう。

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アマゾンのAlexaは現在、いたるところに“存在”し始めている[日本語版記事]。アマゾンがAlexa用開発者キットを公開してから1年ほど経ったが、自社製品に簡単な音声コマンドを統合する企業はあとを絶たない。ただ、完全にシームレスに接続された世界が実現するのは、まだ遠い将来のことのように感じられる。

課題となるのは、デヴァイスの開発ではない。デヴァイスが急増するなかで、いかに一貫したユーザー体験をつくり出せるかにある。

これは不可能なことではないが、実現にはしばらく時間がかかるだろう。「今後2年間で、しゃべる機器は数多く登場するでしょう」とFrog Designの元クリエイティヴディレクターで、Argodesignの共同創業者であるマーク・ロルストンは言う。コネクテッドデヴァイスとの対話方法や、デヴァイス相互のやりとりの方法を決めるルールは、まだ実現していない。標準や基準の策定は時間がかかるし、一種の実験でもある。

見渡してみれば、誰もがAlexaを何かに搭載しようとしているかのようだ。LGが販売するスマート冷蔵庫「Smart InstaView」は、「Alexa、レシピを見せて」というだけで、29インチの液晶ディスプレイにおすすめメニューを表示する。Ubtechの小型ロボット「Lynx」も、大いに話題になっている。マテルやレノボ、Klipschのような企業は、アマゾンの人工知能(AI)スピーカー「Echo」の模造品を大量に販売している。フォードやフォルクスワーゲンも、ダッシュボードにAlexaを搭載した自動車を2017年のCESで発表した。

確かに、Alexaをサポートする機器が多いほど、体験もスマートで効率化されたものになるだろう。だが実際には、AlexaのAPIである「Alexa Voice Service」(AVS)がオープンな状態であることが、設計上、一貫したユーザー体験をつくりだすのに大きな課題になる。そのため、アマゾンは現在、サードパーティの開発者向けに指針を策定しており、「Alexa」という起動語を使うことや、コマンドにはシンプルで明確な言葉を使うことが推奨されている。

必要なのは「中枢」

アマゾンのデジタル製品のUXデザインを担当するヴァイスプレジデント、ブライアン・クラリヴィッチは次のように語る。

「主要な目標として掲げられているのが、Alexaとユーザーとの対話をシームレスで容易なものにすることです。Alexaとやりとりするために、ユーザーが新しい言葉や話し方を学ぶ必要があってはいけません。相手が人間であるような自然な話し方ができるべきで、Alexaはそれに応答できなければなりません」

Echoに楽曲をプレイリストに入れるよう求めたり、冷蔵庫に氷をつくるよう命令したりする場合なら、これは簡単だ。だが、家にスマート機器がたくさんあると、各機器にそれぞれ対応するのは面倒になってくる。ソフトウェア会社Nuanceのシニアヴァイスプレジデント、ダン・フォークナーは次のように述べる。「一度に、複数のデヴァイスと、ユーザーが望む方法でやりとりできる必要があります。いまは、それぞれの機器と違うやりとりをしなければなりませんが、2、3年後を考えた場合、ユーザーたちは、機器それぞれとのやりとり方法を学ぶでしょうか? そうなるとは思えません」

いまのところ、冷蔵庫に「Alexa」と語りかけるとき、Alexaが組み込まれたほかのデヴァイスも聞いていることになる。LGは、自社の新しい冷蔵庫から「Uber」のタクシーを呼べると宣伝している(冷蔵庫からタクシーを呼びたいと思う理由について疑問が浮かぶが、いまは置いておこう)。だが、そこで新たな問題が提起される。台所にあるすべてのものにそうした機能があったらどうなるだろう?

そのひとつの解決策としてArgodesignのロルストンが挙げるのは、起動語を多様化させて対応する方式だ。あるいは、デヴァイスに理解させる手もある。音声が届くところに複数のEchoがある場合には、アマゾンの空間認識技術「ESP(Echo Spatial Perception)」が、声の主が各デヴァイスのどれくらい近くにいるかを算定し、最も近い機器だけが反応するわけだ。

だが、そうした方式も一時しのぎにすぎない。理想的なのは、すべてのデヴァイスが中枢となるハブに接続するようになることだ。ロルストンは、部屋(またはクルマ、オフィス)をコミュニケーション機器に変える小型のダウンライトを予想している。「実際のところ、台所に立っているときには『冷蔵庫に話しかける』のではなく『台所に立って家に話しかける』日が来ることが予想されます」

Nuanceのフォークナーも同意見だ。「思い描いているのは、音声機能がもっと家に溶け込んで役に立っている未来です。すべてのデヴァイスがほかの機器を認識しあい、デヴァイスが相互連携可能なかたちで人と対話できるようにする必要があります」

そのためには、プラットフォーム提供業者相互の協力か、あるいは、1社が支配する市場が必要だ。フォークナーによるとNuanceは、複数のソフトウェア企業と協力して、異なるプラットフォームをまとめる方法を考え出そうとしているという。スマートホームが自然で、簡単に管理できると感じさせる段階に達するかどうかは、こうしたデヴァイスの自然言語理解力や状況認識能力の向上にかかっている。

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いまのところ、アマゾンは依然として、できるだけ多くの場所にAlexaを組み込ませることに主に力を注いでいる。そして、ほとんどの企業は細かい点にほとんど関心がなく、Alexaを販売可能なアップグレードツールにすぎないと考えている。

だが、それでいいのだ。新たなテクノロジーとは、いつだって無秩序なものだ。何がうまくいき、何がうまくいかないかが、いずれは浮き彫りになる。普及することと、役に立つことは異なるということもはっきりするだろう。

いずれは、こうした異なるプラットフォームがひとつにまとまって、真に役立つエコシステムをつくり出すかもしれない。それまでは、冷蔵庫からUberのタクシーを呼べるという事実に、幾ばくかの喜びを見出すようにしよう。


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TEXT BY LIZ STINSON

TRANSLATION BY MINORI YAGURA/GALILEO