われわれはなぜ、日曜日にもメールを頻繁にチェックし、Facebookのようなソーシャルサイトを1日に何十回もチェックせずにいられないのだろうか? 新しい事実を知ることがなぜ喜びになるのだろうか?
脳にとっては、情報もまた報酬刺激、すなわち神経伝達物質(この場合はドーパミン)の放出をもたらす興奮性の刺激のひとつだからだ。
以下、情報は中毒になるということを論じた、Slateのコラム(筆者はエミリー・ヨッフェ)から引用しよう。
哺乳類の報酬系(快感覚を与える神経系)はドーパミン神経系とされ、覚醒剤やコカインなど依存性を有する薬剤の大部分は、ドーパミン賦活作用を持っている。とはいえ、「情報は麻薬と同じ」という論についてはもう少し詳しく見ることが必要だろう。
人間の好奇心には範囲がある
脳は、何にでも無限の好奇心を持ち続けるマシンではない。ほとんどの人は、量子物理学やら健康保険制度改革の実際の詳細、アフガニスタンの大統領選等についてはそれほど関心を持たないだろう。新たな情報への渇望は、局地的で、個人的なものに向かう傾向がある。人間の好奇心には範囲があるのだ。
それは、われわれの脳のなかで情報が報酬を引き起こす仕組みと関係している。脳細胞は、「すでに知っている事柄」について、さらなる情報を求めるよう調整されている。要するに、脳細胞は常に、自らの「予測誤差信号」(prediction-error signal)、すなわち予測と実際に生じるものとの差を縮小しようとするのだ。
例えばサルに、ベルが鳴るたびにジュースを受け取るように訓練させた場合、ドーパミン作動性ニューロンはたちまち、ベルの音は甘い飲み物という報酬を予期させるものであることを学習するだろう。そしてサルは、この特定の報酬刺激について、もっと多くの情報を求めるようになる。例えば、ベルが鳴る前に起こることは何だろう? という情報だ。ベルを鳴らす前に科学者はスイッチをいじるのだろうか? あるいは科学者は鼻をいじるのだろうか? あるいは単に、部屋に入ってくるのだろうか?
多くの実験から、われわれのドーパミン作動性ニューロン(神経伝達物質としてドーパミンを放出するニューロン)は、報酬そのものに反応するのではなく、報酬を予期させる確かな情報をいち早く見つけようとする性質を持っていることが明らかになっている。※ドーパミンニューロンは、予測していたよりも報酬が大きいときに発火する(すなわち報酬予測誤差信号を担う)ということが諸研究から示唆されている。
だからこそ、われわれは「新しい事実」を強く欲するのだ。すでに知っている「古い事実」を更新し、認知モデルを前進させる手段として、「新しい事実」が欲されるのだ。
都合の悪い事実は無視する理由
一方で、こうしたメカニズムは、非常に賢い人たちにおいてさえも、「情報中毒」のせいで「現実の事実」が無視されることがあることも説明する。米国の政治学者ラリー・バーテルズによる興味深い調査を紹介しよう。
保守派の人々はなぜ「事実」を無視したのだろうか? それはその情報が、自分たちがあらかじめ作り上げていたモデルにそぐわなかったからだ。この情報は、彼らを引きつける中毒性に欠けていただけでなく、むしろ積極的に彼らを遠ざける類のものだった。ある種の情報に「中毒」する一方で、それと反する別の見方については関心を持たないという状態が起こるのだ。(もちろん、民主党側も偏見から遠いとは言えないだろう。ブッシュ政権のAIDS関連政策やアフリカ関連の方針を民主党員に聞けば、同様の結果が生じるはずだ。)また、TwitterやFacebookについても、まったく知らない人の投稿については、人はそれほど関心を持つことができない。
われわれはなぜ、視野が狭く、ある種のことに盲目的で、すぐに退屈してしまうのだろうか。それは、脳が制限のあるマシンであり、情報処理の容量に限りがあるからだ。結果としてわれわれは、すべての情報を平等に取り扱うことはない。わたしにとってはすごい事実も、あなたにとっては無意味だし、あなたにとっての必要なディテールは、わたしにとっては退屈だ。つまり、好奇心にはパラドックスがあるのだ──「すでに自分が知っていること」をもっと知りたい、という。
TEXT BY JONAH LEHRER
TRANSLATION BY TOMOKO TAKAHASHI/HIROKO GOHARA