tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

相談記事:こんな感じであってますかね?

学生の研究指導をしている中で、こんな問題に行き当たりました。
色々考えているうちに、自分の中で整理は出来てきたのですが、このような整理でよいのかどうか自信が持てずにいます。
(私が知らないだけで、定番っぽい問題な気もするのですが・・・)

なお、この問題は学生の研究の本題とは直接関係ありませんので、その点はお気になさらず。


頂点集合  V = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\} の完全グラフ  G を考えます。頂点数はさして問題ではないので一般に  n = |V| としておきます。

各辺には距離  d(i, j) が設定されています。

頂点  i から頂点  j へと条件付き確率  p(j | i) で遷移することを考えます。初期状態  t = 0 は確率  p(i) で決まります。

 t = 0 から初めて、頂点間を  t = T ステップ遷移することを考えたとき、そのパスの距離の総和は期待値は?

という問題です。


複雑な計算になりそうなので、 T = 1, 2 あたりから計算してみます。

 T = 1 のとき:
 t = 0 で確率  p(i) で頂点  i が選ばれます。
そこから  t = 1 のとき、頂点  j に条件付き確率  p(j | i) で遷移します。

したがって、確率  p(i) p(j | i) でパス  i\to j を通ります。そのパスの距離は  d(i, j) なので、パスの距離の総和の期待値は

 \displaystyle \sum_{j = 1}^{n} \sum_{i = 1}^{n} p(i) p(j | i) d(i, j) \tag{1}

となります。


 T = 2 のとき:
 t = 0 で確率  p(i) で頂点  i が選ばれます。
 t = 1 のとき、頂点  j に条件付き確率  p(j | i) で遷移します。
 t = 2 のとき、頂点  k に条件付き確率  p(k | j) で遷移します。

したがって、確率  p(i) p(j | i) p(k | j) でパス  i\to j \to k を通ります。そのパスの距離は  d(i, j) + d(j, k) なので、パスの距離の総和の期待値は

 \displaystyle \sum_{k = 1}^{n} \sum_{j = 1}^{n} \sum_{i = 1}^{n} p(i) p(j | i) p(k | j) \left(d(i, j) + d(j, k) \right) \tag{2}

となります。

このまま続けていくと、どんどん変数が増えて大変なので、次のように書き換えます:

 \displaystyle \begin{align*} &\sum_{i_2 = 1}^{n} \sum_{i_1 = 1}^{n} \sum_{i_0 = 1}^{n} p(i_0) p(i_1 | i_0) p(i_2 | i_1) \left(d(i_0, i_1) + d(i_1, i_2) \right) \\
&= \sum_{i_2 = 1}^{n} \sum_{i_1 = 1}^{n} \sum_{i_0 = 1}^{n} \left\{ p(i_0) \prod_{t=1}^{2} p(i_{t} | i_{t-1}) \left(\sum_{t=1}^{2} d(i_{t-1}, i_t) \right) \right\} \end{align*}



一般に  T ステップ遷移した際のパスの距離の総和の期待値は

 \displaystyle \sum_{(i_0, i_1, \ldots, i_T) \in V^{T+1}} \left\{ p(i_0) \prod_{t=1}^{T} p(i_{t} | i_{t-1}) \left(\sum_{t=1}^{T} d(i_{t-1}, i_t) \right) \right\}  \tag{3}

となります。


・・・たぶんこれでいいと思うんですが、もうちょっとすっきりしないですかね?


もう少しすっきりできる?

と、ここまで考えて、もうちょっと整理できそうな気がしました。

今考えている問題は、長さ  T のパス  w = i_0 \to i_1 \to \cdots \to i_T の距離の総和の期待値を考える問題でした。

パス  w = i_0 \to i_1 \to \cdots \to i_T の生起確率を  p(w) とすると、これは

 \displaystyle p(w) := p(i_0, i_1, \cdots, i_T) = p(i_0) \prod_{t=1}^{T} p(i_{t} | i_{t-1})  \tag{4}

です。そのパス  w の距離の総和を  d(w) で表すと、これは

 \displaystyle  d(w) := \sum_{t=1}^{T} d(i_{t-1}, i_t)  \tag{5}

となります。

以上から、長さ  T のパスの距離の総和の期待値は

 \displaystyle  \sum_w p(w)d(w) \tag{6}

ただし、総和記号は長さ  T のパス  w をわたる。と単に表してもよさそうです。


グラフィカルモデルとか、そういう文脈でこういう問題たくさん出てきそうな気がするんですが、どうやって表すんですかね?

知っている方がいましたら教えてください。

バーコフのダイヤモンドリングを作ってみた

本記事は日曜数学 Advent Calendar 2024の1日目の記事です。


ご無沙汰しています。日曜数学者のtsujimotterです。

2024年も日曜数学アドベントカレンダーを立ち上げまして、今日の記事はその1日目の記事となります。
adventar.org

明日話したくなる数学豆知識 (2014)から数えると、なんと 11年目(素数) です。

おかげさまで既に全日25件が埋まっております。ありがたいことですね。記事が投稿されるのを楽しみにしています!


今日はバーコフのダイヤモンドの話がしたい

日曜数学アドベントカレンダーは、自分が好きなトピックについて熱く語るのが主旨です。
今日は、私の現在一番のお気に入り概念である

バーコフのダイヤモンド

について、熱く語りたいと思います。

知り合ったきっかけは、YouTubeの下記動画を作るために、四色問題について勉強していたときでした。
www.youtube.com


バーコフのダイヤモンドとは、四色問題で扱われる地図の一部分を表す図形のことで、こんな形をしています。

「四色問題の最小の反例に出てこない配置」という大変魅力的な性質を持っています。

現時点ではなんのこっちゃ分からなくても、後々説明していきますのでご安心ください。



先走ってしまいましたが、まずは四色問題(四色定理)について順を追って説明したいと思います。


今回の話が難しいなと思った人は、ぜひ記事の最後のセクションまで飛んで、そこだけでも読んでみてもらえると嬉しいです!

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【旧ブログ記事】40-32÷2=4!の一般解


本記事は2012年5月10日に、当時のtsujimotterが骨折で入院中に暇を持て余して執筆し、旧ブログで公開していた記事の再掲です。
久しぶりに読んで面白かったのと、旧ブログは将来無くなる可能性があることから、tsujimotterのノートブックにも載せておこう思います。よろしければご覧いただければと思います。
できるだけ当時の雰囲気を残しておきたいので、文章には原則手を入れていません。

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子どもの保育園選びにAHP(階層分析法)を使ってみた話(の数学パート解説)

本記事は日曜数学 Advent Calendar 2023の1日目の記事です。


ご無沙汰しています。日曜数学者のtsujimotterです。

2022年12月に子どもが生まれまして、そこからブログや動画の投稿が滞っていたのですが、アドベントカレンダーの季節ということで久しぶりに復活しました。*1


今年も日曜数学アドベントカレンダーを立ち上げました。
adventar.org

明日話したくなる数学豆知識 (2014)から数えると、なんと 10年目 です。

今年の分も、おかげさまでブログ執筆時点で21件の方が登録してくれています。記事が投稿されるのを楽しみにしています!

残りの枠についても、よろしければご参加いただけると嬉しいです!

*1:本当にアドベントカレンダーぶりの投稿でした・・・。

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2022年の日曜数学活動:YouTubeを始めました!

日曜数学 Advent Calendar 2022 の最終日の記事です。

メリークリスマス!!

毎年恒例の日曜数学Advent Calendarは、2022年も実施することとなりまして、こちらの記事はその最終日の記事です。
adventar.org

おかげさまで、(初日を除いて*1)毎日記事が埋まりました!

今年はこれまで以上に気合が入った記事が多く、毎日楽しく読ませていただきました。ご参加いただきまして、ありがとうございます!!


今回の記事のテーマは、2022年の振り返り なのですが、2022年のtsujimotterは特に「YouTubeでの動画投稿」を頑張りましたので、その活動について紹介したいと思います。

*1:初日に登録された方へ:もし、今後書く予定がありませんでしたら、キャンセルいただけたら他の方が記事を書くことができて楽しいかもしれません。

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エルキースによるオイラー予想の反例:2682440^4 + 15365639^4 + 18796760^4 = 20615673^4

こちらの記事は今日投稿された下記の動画に関して、さらに深い解説をする記事となっています。

よろしければ、こちらの動画も合わせてご覧ください!

フェルマーの最終定理の  n = 3 のケース

 X^3 + Y^3 = Z^3 \tag{1}

に自然数解が存在しないことは、オイラーによって証明されていました。

オイラー自身は、この式の指数と変数の個数を1個ずつ増やした

 X^4 + Y^4 + Z^4 = W^4 \tag{2}

 X^5 + Y^5 + Z^5 + W^5 = V^5 \tag{3}

にも、同様に解がないことを予想しました(1769年)。以降もずっと指数と変数を増やして行っても同様に解がないと予想していたようです。割と自然な発想ですよね。


一見すると式  (2), (3) には自然数解がなさそうなので、長い間解がないと信じられていました。

ところが、1966年にレオン・J・ランダーとトーマス・R・パーキンによって、式  (3) の解が発見されたのです:

 27^5 + 84^5 + 110^5 + 133^5 = 144^5 \tag{4}

この発見によってオイラー予想は間違っていることが示されたわけです。

次がそのランダーとパーキンの論文なのですが、1ページで完結する論文 ということで有名です。

こうなってくると、式  (2) の方も怪しく見えてきます。実際、この  (2) の解の探索が多くの研究者によって試みられました。そして、ついに1988年に天才数学者、ノーム・エルキースによって解が発見されたのです。

それが次の解でした:

 2682440^4 + 15365639^4 + 18796760^4 = 20615673^4 \tag{5}

さらに言えばエルキースはこの解だけではなく、無限個の(互いに素な)解を見つける方法を得ています。


今日は、このエルキースの解がどうやって見つけられたのか、その手法を紹介したいと思います。たぶん、これについて詳しく書かれた日本語の記事はそう見つからないと思います。

実際、この解を発見するための方法は、楕円曲線とコンピュータを使ったかなり難解な方法でした。以前から興味を持っていたのですが、きっと僕にはわからないだろうと諦めていました。ですが、思い立って原論文に当たってみたところ、意外と読めてしまったのです。

そんなわけで今日はエルキースの方法について、その概要を紹介したいと思います。細かい部分は理解できているわけではないので、原論文をあたってください。

ぜひ最後までご覧ください。

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