サボるという行為は、悪ではない。
頭と身体を定期的に休ませることは、生産的な作業にとって不可欠なものだからだ。
皆と同じように働き、同じように休むというルーティンを繰り返しているだけでは、本当に充実した休息とはいえない。
平日の真っ昼間に忙しそうに働く人々の様子を眺めながらぼんやりと思案をめぐらせたり、仕事と仕事の合間にまったく違う情報に触れて刺激を受けたりすることが必要なのだ。
適度にサボることによって、心の余裕が得られる。素晴らしいアイデアは、そこから生まれるはずだ。
しかし、世間の目は厳しい。
なんとか、うまくサボることはできないものか……。
これまでにも数々の勇者たちが、究極のサボりメソッドを手に入れるべく冒険に旅立っていった。
だが、彼らの多くは安易だった……。
近所の図書館で大イビキをかいては司書さんに出ていってくれと叱られたり、電話口で「病欠します」と息も絶え絶えな声で告げるウソも上司にはとっくに見破られていたりと、小手先の技術におぼれたせいで、ダークサイドに堕ちていった……。
非常に残念なことである。
そこで今回は、こんな世知辛い世の中をサボり抜くための、禁断の秘術について話そう。
けっして口外しないでほしい。
そして輝かしい未来をつかみとってくれ。
■ その1:誰よりも働け
「サボる」と聞くと、非常階段に座り込んでタバコを吸っているあんちゃんや、難しい表情を浮かべながらヤフオクでゴルフクラブをチェックしているおじさまたちを思い浮かべるかもしれない。
……ダメだ。
既存の常識にとらわれず、もっと自由に発想するべきだ。
本気でサボりたいのならば、まずは誰よりも働くのである。
誰よりも速く、誰よりも力強く、誰よりもひたむきに働くのだ。
「なんだそれ、サボってないじゃないか」と思うなかれ。
他の人間が嫌がる面倒な仕事が転がっていたら見逃してはいけない。
必死に拾いにかかり、夢中で取り組んでいるうちに、ふと気付く。
「あれ……これをこうして、こうやったら……めっちゃラクや~~~ん」
懸命に働き、創意工夫を行うことで、少しずつ余裕が生まれ、サボる余地ができるのである。
これこそ、サボリベーションだ。
しかし絶対に、絶対にこの事実を他人に話すな。
誰かに話すヒマがあるならば、しっかりと休みを取れ。
周囲はこう思うだろう……。
「かわいそうに、消耗しきって休んでいるんだな……申し訳ない……」
そのころ、こっちは南の島。
ハンモックにゆられながら、新たなサボり方についてゆっくりと構想を練っていれば良い。
■ その2:周囲を巻きこめ
人間は、他人が幸せそうにしていると、なぜかイラっとする生き物だ。
電車でカップルがやたらとイチャイチャしている現場に出くわしたときの、あの感じだ。
だが、自分たちだけの世界に入りこんでしまっている恋人たちは、そんなことはおかまいなし……。
……そこだ。
もしスムーズなサボりを実現したければ、自分の世界に周囲もしっかりと巻きこむことが効果的だ。
「ボク、来週ちょっと休もうと思ってるんですけど……。逆に課長、たしか再来週、お子さんの卒業式でしたよね? 来週ボクが休んで、課長が再来週休む。どうですか?」
「わたし、今日は午後休でドロン的な感じなんですけど、逆に先輩、一緒にアランドロン的な結果、ちょっと焼き鳥にビール一杯くらいご一緒的なのはどう思います的な?」
的なノリで逆にややこしそうな人物を取り込んでいけば、「いや、オレは別に……だけど、そうだなタマには……アリか! 太陽がいっぱい!」と、心を許してくれることだろう。
大切なことは「心の壁」を作らないことだ。
自分だけが休もうとしている……と思っていると、無意識に他人を避けようとして壁ができていることがある。
自分に、自分が負けているのだ。
休むときは堂々と休むのが基本だが、それでも渋い顔をする連中は、自分のペースに巻きこんでいく。
そして、お互いに思いやることができる、あたたかいおサボり空気を、チームや職場に生み出していくのだ。
太陽がいっぱい!
■ その3:会社に戻るな
仕事熱心な人によく見られるのが、午後に外出して、用事が終わった後に発されるあの言葉だ……。
「それじゃ、社に戻ります」
……戻るんかい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
このサラリーマン社会においては、さまざまなユートピアが存在する。
しかし、最近は先輩から後輩への引き継ぎがしっかりと行われておらず、その存在を知らない諸氏が増えている。非常にゆゆしき事態である。
よく聞いてほしい。
午後の外出は、楽園の果実だ。
日中の日射しをたっぷりと浴びた、熟れたての果実だ。
しっかりともぐのだ。
もいで、その甘さを堪能してほしい。
仕事に関係あったりなかったりする書籍を探して書店をブラブラしたり、企画にインスピレーションを与えてくれたりくれなかったりするネタを求めてショッピングモールに向かったりしつつ、そのままFO(筆者注:フェイド・アウトのこと)が基本形だ。
そもそも、社に戻って作業を再開すれば何が起こるか、よく考えていただきたい。
忙しそうだな、と思ってもらえる可能性もある。だが、逆の可能性だってある。
「なんだこいつ、まだまだ入るじゃないか……よし、もっと仕事を突っ込んでやれ!」
そうやって、自らサボる機会を失っているかもしれないことを自覚してほしい。
太陽がいっぱい!
■ その4:早朝を有効活用せよ
遅くまで働いている人間に限って、朝来るのが遅かったり、ダラダラとしゃべりながら昼食をとったり、タバコ部屋に行ったり来たりを繰り返しているものだ。
すべての人生を会社に捧げたい者はかまわないが、そうでない者は今すぐ行動を変えたほうがよい。
サボりの基本は、朝だ。
早朝の空気の美味さをご存じだろうか?
焼きたてのパンとコーヒーをいただきながら、本日の予定に思いを馳せる時間の優雅さをご存じだろうか?
この心のゆとりが、厳しい1日を切りぬけるための活力となるのだ。
また、朝は何かとポジティブな気持ちになりやすいのも特徴だ。
楽しみにしているプライベートの計画を立てたり、面白いアイデアを練るにも都合がいい。
有効に使っていただきたい。
ちなみにパンにはバターとハチミツをたっぷり塗るのが好みだが、最近はバターの入手が困難になっており、マーガリンで我慢しているのは内緒だ。
ただ、どれだけ早朝に起きても、こちらの気配に気付いた小さな子どもが起きてしまっては相手をしなくてはならず、どうにもならないという諸氏もいることだろう。
その場合は、無事に子どもが成長し、勝手に寝て勝手に起きるようになったときにやってくる黄金の朝を、ともに心待ちにしようではないか!
■ その5:もっとサボりたければエラくなれ
そもそも、休みたいときにしっかりと休み、働きたいときに楽しく働けるのが、われわれサラリーマンの理想だ。
しかし、あまりにも多くの人間がサボると、効率が落ちるだけでなく、士気が下がる原因となってしまう。
なんとかならないものか……。
そうだ。
実は「サボることについて考える」というのは、自分だけではなく、みんなの幸せについても考えることなのだ。
このようなスケールのでかい発想ができる諸君に、犬だって言いたいことがある。
……もっとエラくなろう。
エラくなって、会社の誰もがたっぷりとサボって心と身体の余裕を確保し、これまで以上にワクワクと仕事に取り組むことができるような環境になるように、変えていこうではないか。
そして、そのためにもしっかりと休養をとり、充実した日々を送っていこう。
話は以上だ。
あとは各自で技術の向上に努めてくれ!
太陽がいっぱい!
著者:いぬじん (id:inujin)
犬のサラリーマン/クリエイティブディレクター/中年大陸の冒険家。
中年にビミョーにさしかかり、色々と人生に迷っていた頃に、はてなブログ「犬だって言いたいことがあるのだ。」を書きはじめる。言いたいことをあれこれ書いていくことで、新しい発見や素敵な出会いがあり、自分の進むべき道が見えるようになってきた。コーヒーをよく、こぼす。