最初に道具を使った人類はアウストラロピテクス

手の骨の解析で従来説より50万年さかのぼる

2015.01.28
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アウストラロピテクス・アフリカヌスの頭骨。新たな研究で、ヒトのようにものをつまんだり、叩き石を握ったりしていたことを示す痕跡が手の骨に見つかった。(PHOTOGRAPH BY SHAEN ADEY, GALLO IMAGES/CORBIS)

 最初に石を振り下ろし、ものを叩き割ったのは誰だったのだろう?

 英国ケント大学の古人類学者マシュー・スキナー氏の研究チームは、手の骨の化石を解析することで、300万年以上前の初期人類が道具を使っていた可能性があることを『サイエンス』誌2015年1月23日号に発表した。これまでに見つかっている最古の石器は250万年前のものとされているが、今回の結果はそれを50万年さかのぼる。

 研究チームは、現生人類(ヒト)とチンパンジー、ネアンデルタール人、アウストラロピテクスほか初期人類の手の骨について、内部の海綿質という網目構造のパターンを比較した。ヒトのように日常的にものをつまみ、叩き石をつかんでいれば、この網目構造パターンに痕跡が残る。

 この研究で、アウストラロピテクス・アフリカヌスという初期人類について重大な事実が判明した。類人猿の手の骨にはなかった網目構造パターンの痕跡が、アウストラロピテクスの手の骨に見つかった。手のひらを形づくる中手骨の海綿質に、地面に握りこぶしをついて歩いたり、木に登ったりする動作ではできず、「道具を使うときに、親指と他の4指を向かい合わせて力を入れる動作」のパターンが見られたのだ。

さまざまな霊長類の親指の付け根にある第1中手骨。左からチンパンジー、アウストラロピテクス・アフリカヌス(300~200万年前)、パラントロプスまたは初期のヒト属(190~180万年前)、ヒト。下段はそれぞれの標本のマイクロCTスキャンによる3次元画像。内部構造の断面が見える。(T.L. KIVELL)

人類である証拠

 古人類学者たちは、初期人類が道具を使い始めた時期をめぐって、以前から論争を繰り広げてきた。人類特有の生存技術として最初に示されるのが、道具の使用だ。ここ数十年の間、200万年ほど前に生息したホモ・ハビリス(「器用な人」の意)という原人が最古の石器を作ったとされていた。

 ところが2000年にエチオピアで260万年前の道具が発見され、道具の出現時期は従来の説より50万年以上も前にさかのぼることになった。今回の研究は、もっと古くから道具が使われていたという説を裏づけるものだ。

 研究チームによると、鋭くとがった石の破片をつまんで「骨から肉をはがす」といった、精密把握と呼ばれる動作では、骨に大きな負荷 がかかるという。人類が進化の過程で道具を使うようになった時期を見きわめるには、手の骨の外見を見るよりも、その内部構造を調べ、継続的な動作によって形成されるパターンを見つける方がはるかに良い方法だ。これなら実際に使った道具が見つからなくても、使用していたと証明することができる。

 この研究結果は人類の祖先が少なくとも300万年前には道具を使っていたことを示すもので、考古学者が新たに石器を探す際のヒントとなるだろう。

※ナショナル ジオグラフィックの古生物・古人類関連の記事はこちらからどうぞ。

文=Dan Vergano/訳=三枝小夜子

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