英国イングランド南部、ピュージー・ベイル。ここには新石器時代の巨大な環状遺跡「マーデンヘンジ」がある。地上からは、その大きさを感じるのは難しい。
かつては高さ3メートルの壁が約15ヘクタールの土地を取り囲んでいたが、数千年の間に少しずつ失われていった。この一帯は昔から農業に利用されてきた肥沃な土地だった。今はスゲやイラクサに覆われ、ウシやヒツジが草を食んでいる。晴れた夏の日にマーデンヘンジに立ち、辺りを見渡しても、草が風に揺れる平和な農場にしか見えない。(参考記事:「探訪 世界遺産 ストーンヘンジの謎」)
しかし4500年前の新石器時代、ここはさながら、優れた技術の展示場だった。マーデンヘンジは、15キロほど南にあるストーンヘンジと比べて10倍も大きい。
マーデンヘンジがなぜ造られたのか、また、新石器時代になぜここで熱狂的なまでの建設ラッシュが起きたのかは誰にも分からない。この周辺には、エイボン川に沿ってストーンヘンジやエーヴベリー、ダーリントン・ウォールズ、シルバリーヒルといった環状遺跡が、数キロおきに点在している。英レディング大学の考古学者、ジム・レアリー氏は、この古代の謎を解明しようとしている。(参考記事:「ストーンヘンジ、地中に未知の17遺跡」)
今年7月、レアリー氏は公共団体「ヒストリック・イングランド」と協力し、3年にわたるマーデンヘンジの発掘調査に取りかかった。これだけ巨大であるにもかかわらず、これまで考古学者たちはこの遺跡にほとんど関心を向けなかった。注目されるのは見た目のインパクトがより強い遺跡ばかりだったのだ。
「この一帯では、もっと発掘調査が行われるべきです」とレアリー氏は話す。マーデンヘンジが新石器時代の遺跡だと確認されたのは1960年代のこと。それ以降、ここが調査されたのはレアリー氏が主導する2010年と今夏の2回だけだ。
石器時代の宝飾品
レアリー氏の努力は実を結び始めている。遺跡の中心部にある、保存状態のいい貴重な石の建造物から、青銅器時代初期の墓や遺物が見つかった。美しく仕上げられた矢じりもその1つだ。装飾用に作られたもののようで、いわば新石器時代の宝飾品といえる。(参考記事:「古代シナゴーグで発見された“場違いな”もの」)
マーデンヘンジのすぐ外にある小さな環状遺跡、ウィルスフォードヘンジからは、10代前半とみられる身長約150センチの人骨が発見された。性別はまだ判明していないが、琥珀のネックレスと一緒に約4000年前に埋葬されたことが分かっている。マーデンヘンジの最盛期よりも数百年後のことだ。
「この場所に埋葬されていたことから、青銅器時代になってもなお、新石器時代のモニュメントがいかに重視されていたかが分かります」とレアリー氏。「おそらく、死者を葬るのにふさわしい、神聖な場所として保たれてきたのでしょう」