なぜ人は風俗に行って名文を生み出すのかー風俗増田30選と「行きて帰りし物語」
はじめに
鼠の小説には優れた点が二つある。セックス・シーンの無いことと、それから一人も人が死なないことだ。放って置いても人は死ぬし、女と寝る。そういうものだ。
村上春樹は、デビュー作「風の歌を聴け」で、このように書いています。
もっとも、彼自身の小説に、性的なシーンが多く見られるのは周知のとおり。
「ノルウェイの森」については、自身で「セックスと死のことしか書いてない」と述べているくらいです。
村上春樹に限らずとも、性的な描写のある文学作品は、珍しくありません。
はてな匿名ダイアリー(増田)においても、性的な要素と読み応えが両立する記事が、数多く存在します。
今回は、性風俗に関する増田の中から、何かしら心を動かされた記事を紹介します。
風俗増田30選*1
「まだまだ童貞半人前」 あるいは 「高齢童貞の風俗体験メモ」
ファッションヘルスでダブルブッキングされた話──あるいは客の民度と謝罪ソリューション
(後日談:おっさんの話を読んでくれてありがとう。)
オッパブでのアタックと今の仕事での押しの一手が、同じ行動クラスで
セクキャバがどれだけ素晴らしい場所であるか論じてみようと思う
ニューハーフにケツを掘られ男女のSEX後の反応の違いが初めて分かった
(続き:女性専用回春マッサージに行ってきた(電マと私・完) )
(続き:おっぱぶ嬢の戯言2日目、おっぱぶ嬢の戯言3日目、おっぱぶ嬢の戯言4日目 )
(トラバ:現役風俗嬢ですが、風俗使ってる時点で客は全員気持ち悪いです。 まぁ、良.. 追記:[追記]お気に入りの風俗嬢が退店しました)
なぜ人は風俗に行って名文を生み出すのか
では、 なぜこのような名文が生まれるのか。
こう書くと、これらの増田は本当に名文なのか、そもそも名文とは何か、みたいな話になってしまうので、「なぜ私はこれらの文章を興味深く読んだのか」という話をします。
未知の世界
一つは、風俗関係の話題が、未知の世界だから。
私の場合でいえば、風俗に行ったことも、そこで働いたこともありません。
日常生活で、そのような話を聞くことも稀です。
しかも、通常は*2、一定の交際期間を経て親密になってから行われることの多い性的な行為が、初対面の、風俗でなければ関わらないような人同士でも行われる。
そのような世界は、ある種、異世界であり、ファンタジーに近いともいえます。
どこまで真実かはともかく、その異世界の描写に好奇心を刺激される部分は少なからずあります。
価値観を見たい
少なくない金額を払って利用する側であっても、肉体的・精神的な消耗を伴って働く側であっても、風俗に関わることは、その人が何に重きを置いて(又は置かないで)、何を求めているのか、ということが問われるような気がします。
そういったところから、その人の価値観が見えるところも、興味深いのです。
誰かの「大好き」(大嫌い)が読める、というのは、ジャニオタブログと似ているところがあるかもしれません。(ジャニオタの文章力は異常ー非ジャニオタが心を動かされたブログ記事70選+α )
行きて帰りし物語
ここからは、これまで以上に雑な話ですが、風俗へ行った話というのは、「行きて帰りし物語」なのではないでしょうか。
この分野に詳しいわけではないですが、「行きて帰りし物語」は物語類型の一つとされています。
その定義ははっきりしませんが、最低限の要素としては、「誰か・何かが、どこかに行って帰ること」。
行き先は、非日常の世界・未知の世界であり、行って帰ってくることで、成長や精神的な欠如の解消があることなどが伴うことが指摘されています。*3
風俗という非日常の世界に行って、何かを得て(もしくは失って)、日常に戻る、という構造は、行きて帰りし物語の構造にぴったり当てはまるように思えます*4。
そういう構造があるからこそ、この種の話に惹かれるのかもしれません。
本当は、このほかに、 落語の廓話などにも話を広げられれば良いのですが、落語を全く知らないので無理でした。
おわりに
記事を書いてから気づきましたけど、ダジャレと風俗(話)が好きって、ステレオタイプな「ダメなおっさん」みたいですね…。
*1:30以上ありますが、そういうものです
*2:風俗業界などでなければ
*3:斎藤次郎「行きて帰りし物語ーキーワードで解く絵本・児童文学」、大塚英志「ストーリーメーカー 創作のための物語論」、「行きて帰りし物語」絵本の研究(1) : 「円環型」のお話の分析
*4:それを言い出すと、会社に行って帰ってくるとか、学校に行って帰ってくるのだって同じじゃないか、と言われそうですが、違うのは行き先が異世界だというところです。
*5:念のため書いておくと、これは、各増田の内容が全て実話だということを前提とした記事ではありません。
また、各増田の内容や風俗産業のあり方について、全面的に賛同、賞揚又は肯定してるわけではありません。
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