「一般論なら何を言ってもいい」と信じている人たち~「高齢出産でDNAに傷がつく」発言より~
世の中には、まだまだこういう人たちがいるから、困ったものです。
「晩婚化、健康な子が産まれない」と市長が答弁…富山・滑川 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
富山県滑川市の上田昌孝市長が、市議会で「晩婚化と(出産が)遅いほどDNAの傷から、なかなか健康な子供が産まれてこない」などと述べたとして、答弁の取り消しを求められています。上田市長は11日に行われた一般質問のなかで、晩婚化について次のように述べたと報じられています。
・「きわめて若い精子、卵子はDNAに傷がついていない。そういう若い精子と卵子から産まれた子供は非常に健康な子になっている」
・「晩婚化と(出産が)遅いほどDNAの傷から、なかなか健康な子供が産まれてこない」
・「こういう夫婦間、あるいは男女間の問題にも触れながら進めるべき」
トンデモ科学(ですらない)発言。こういう発言をとがめられた政治家は、だいたい開き直って、発言を「正当化」します。上田市長は読売新聞の取材に対し、
・「一般論を述べただけ」と述べ、削除を拒否する考えを示した。
・「誰かを名指ししたわけではなく、若いうちに健康な子供を産んでもらいたいという思いで発言した。撤回や謝罪をするつもりはない」
としています。どこかで聞いたことがある対応だなぁと思ったら、今年6月に起きた都議会の「セクハラ野次」問題でした。みんなの党TOKYOの塩村議員が、女性の妊娠・出産についての支援体制について質問を行っていた際、「早く結婚したらいいじゃないか」などの野次が飛んだ、あの事件です。発言を認めた自民党の鈴木章浩都議は、
「私自身、少子化、晩婚化の中で早く結婚していただきたいと思い、あのような発言になったが、したくても出来ない人への配慮が足りませんでした」
と、謝罪をしていますが、この謝罪文がまた、「全然コトの本質を分かっていない!」と批判を浴びることになりました。「早く結婚していただきたい」という言葉自体がもう、余計なおせっかいなんですが、その部分はあまり反省していないのだろうな、という感じです。富山の市長も、だんだん分が悪くなってきたら、「早くに健康な子供を産んでもらいたいという思いで発言したが、出産したくてもできない人たちへの配慮が足りなかった」という一文をお尻にくっつけて、本質的には何も解決しない、形式的な謝罪をするかもしれません。
「一般論だから何を言ってもいい」という人たち
両者の発言に共通しているのは、「女性が早く結婚し、出産するのはいいことだ」という大前提にもとづく「一般論」を主張し、謝罪の時も、その「一般論」を決して覆してはいないことです。
もろもろの社会状況を鑑みずに、「えーだって、女性は子供を早く(たくさん)産んでくれたほうがいいじゃん」というホンネを、ポロッと漏らす。その際に彼らが利用するのが「一般論」です。トンデモ度合いに濃淡はあれ、「高齢出産では健康的な子供が生まれづらい」とか、「女性は早く結婚した方がいい」といった、彼らにとっての「一般論」は、彼らの "ホンネ" を補強するものでしかありません。そして、そのホンネの部分を批判されても、彼らは最後まで屈さない。だって「自分のホンネは、一般論=多くの人にとって正しい事実だもん、そこは訂正する必要ないでしょ」というわけです。
言語にはコミュニケーション機能がある、だから「言って終わり」はありえない
当たり前のことではありますが、言葉は、単なる文字の羅列ではありません。すべての発言は、メタ・メッセージが宿るコミュニケーションなのです。Aさんが、Bさんに、「今日は遅刻せずに出社できたね」と言えば、それは往々にして、「いつもは遅刻魔だけどね」という意味を含んでいる。
同様に、「出産が遅いほどDNAの傷から、なかなか健康な子供が産まれてこない」という上田市長の発言は、多くの人を不快にさせる、何らかのメタ・メッセージを含んでいるのです。それがどんな意味かを、ここに書くのはあまりに嫌悪の情が湧くのでしませんが……。
いくら市長が「一般論を言っただけ」と主張しても、発言が「不快なコミュニケーション」を帰結してしまった以上、謝罪は必要でしょう。ましてや政治の場でなら、なおさらです。こうした自覚がない人が、一定数いるのだなぁと思います。
「一般論」を盾に、女性の身体に踏み込んでいく人たち
この手の人たちは、「一般論」を笠に着て、女性の身体的な領域にズカズカと踏み込んできます。妊娠や出産は、特に女性にとって繊細で、他人からはあまり立ち入られたくない領域。
ですが、彼らは「少子化対策」という「国家の大義名分」に加え、「一般論」で武装しているので、堂々としたものです。もちろん高齢出産にリスクがあるという「一般論」を否定はしませんが、どうして高齢出産が増えているのか、その社会的背景を考えないといけない。こうした議論の背景をすっ飛ばして、「女子の皆さん、早く産んでねっ!」というホンネを漏らすだけの人が、政治の領域にはまだまだ多いのだなぁと感じた次第です。
【北条かやプロフィール】
86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。
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