欧州テールリスクの警戒解けず、連立政権のもろさをポルトガルが露呈

By ロイター編集
欧州テールリスクの警戒解けず、連立政権のもろさをポルトガルが露呈
7月4日、ポルトガルの政局不安から広がったリスクオフの動きはいったん落ち着いており、東京市場は小動きとなっている。写真は都内の外為トレーダー。2008年10月撮影(2013年 ロイター/Yuriko Nakao)
[東京 4日 ロイター] - ポルトガルの政局不安から広がったリスクオフの動きはいったん落ち着いており、東京市場は小動きとなっている。欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れプログラム(OMT)など安全網が敷かれたことで、昨年まで3年続いた欧州発の不安の連鎖は起きないとの見方が多い。
ただ、ポルトガルは不安定な連立政権のもろさという欧州の本質的な問題を露呈させた。ユーロ圏経済は依然厳しく、高い失業率のなかで、国民の不満は高まりやすい。政権が瓦解すればOMTの要請も難しくなるため、市場にはテールリスクへの警戒感も強まっている。
<4度目の夏の欧州リスク>
欧州で広がったリスクオフの波は、6月ADP全米雇用報告など経済指標が良かったことで、米市場であっさり止まった。欧州株は下落、国債利回りも上昇したが、米ダウ<.DJI>は56ドル高と反発。米市場は独立記念日前の半日取引で商いは薄かったがネガティブムードは広がらず、雇用統計前のポジション調整が中心だった。「ポルトガルの政局不安は利益確定売りに使われただけで、市場に不安が広がっているわけではない」(野村証券・投資情報部エクイティ・マーケット・ストラテジストの村山誠氏)という。
東京市場も前日の夕方は欧州不安の強まりで、株式先物が下落し円高も進んだが、4日の日経平均<.N225>は一時プラス圏に浮上するなど底堅い展開だった。ドル/円も100円を割り込んでいるが、99円後半を維持している。リスクオンには歯止めがかかっている。一方、10年長期金利は小幅低下。「欧州不安のリスクオフと米経済改善期待のリスクオンという双方の要因が混在」(国内証券)するなかで方向感に乏しい展開になっているという。
IHSシニアエコノミストの田口はるみ氏は「市場のアベノミクスの評価は参院選後にどれだけ既得権益に切り込むような成長戦略第2弾を打ち出せるかにかかっている。それまでは海外要因に左右されやすい展開が続くだろう。ポルトガルやギリシャへの不安も出ているが、今年はECBの安全網があるほか、世界経済は今年2─3%の成長が見込めるため、昨年までのように市場がクラッシュする可能性は大きくない」との見方を示している。
<政権崩壊ならOMT申請は白紙に>
ただ、ポルトガルの政局混乱は、連立政権体制の不安定さを露呈させた。欧州ではイタリアの「五つ星運動」のように財政緊縮策に反対する第3勢力の台頭で、第1党と第2党などが組む連立政権の形をとる国が多くなっている。極右政党の「黄金の夜明け」の支持率が高くなっているギリシャでは、民主左派党が離脱したが、新民主主義党(ND)と全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の連立体制が継続している。
5月のユーロ圏失業率が12.2%と過去最悪となるなど、欧州経済は依然低迷。財政緊縮策に対する国民の反対が強くなるなかで連立政権への逆風は強まるばかりだ。ポルトガルはこれまで、経済を立て直すための緊縮財政策など適切な全ての措置を実施しており、EUからの支援を受けた国として「模範国」だった。しかし、皮肉にも財政緊縮策は国民の支持率を低下させ、連立内閣からの閣僚の離脱が相次ぐ事態となっている。
連立政権が崩壊すれば、ECBの安全網であるOMTへの申請は白紙となる。OMTはECBが無条件に国債を買い入れるわけではない。申請国は「MOU(覚書)」という、国債を買ってもらう代わりに緊縮財政による経済再建を進めるという「一筆」を交わさなければならない。「MOU」を交わした政権が下野すれば、振出しに戻る。融資能力5000億ユーロを有する欧州安定メカニズム(ESM)もあり、安全網は二重三重に構築されているが、欧州政治が混乱すれば、市場のセンチメントも不安定化しやすい。
一方、ユーロ諸国支援の中心となるドイツは9月の総選挙まで動きにくい。同国でもメルケル首相が属するキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が連立を組んでいるが、反ユーロを掲げる新政党「ドイツのための選択肢(AfD) 」が台頭してきている。「9月の総選挙まで支援には前向きな態度をみせにくい。少なくとも、その間は欧州テールリスクの顕在化を警戒する必要がある」と三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長の今井健一氏は指摘している。
(伊賀 大記;編集 宮崎亜巳)

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