焦点:軍事力誇示する中国、「裏庭」覇権めぐり対米けん制
[北京 10日 ロイター] - 習近平国家主席が率いる中国は、同国の「裏庭」における、いかなる米軍の軍事行動も躊躇(ちゅうちょ)させるテクノロジーを自国軍が有していると考えているようだ。
近未来の設定で、中国が空母を破壊するため弾道ミサイルを放ち、戦闘機の離着陸場を攻撃するなどして応戦の構えを見せている。
中国インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)が先月に配信したアニメーションに登場する敵は特定されていないものの、艦船は米ニミッツ級空母によく似ており、破壊された戦闘機はロッキード・マーチン製のF22戦闘機であることは明らかだ。
あくまで想像の世界かもしれないが、これまでに6000万回以上視聴されている同アニメーションは、中国国民と軍部の間にナショナリズムと自信が高まっていることを反映している。
中国人民解放軍の元少将で軍事評論家の羅援氏は6月、「米国は、中国との対決で勝てると確信できるのだろうか。中国は日々、現代の戦争に勝つために準備を怠らない」と指摘していた。
専門家はそのような米中対決の可能性がある場として3つ挙げている。1つは、中国が近隣諸国と領有権を争う南シナ海、2つ目は米国の同盟国である日本と領有権を争う尖閣諸島(中国名・釣魚島)のある東シナ海。そして3つ目は台湾の独立をめぐる中台問題だ。
米国は今なお世界で最大の軍事大国であり、最先端の軍備を投入して国際水域とされる中国沖での監視を続けている。
一方、中国は先週の抗日戦争勝利70年記念軍事パレードで、自国が誇る最先端兵器の一部を見せつけた。
ある米高官は、近年見られる中国の軍備増強を懸念してはいるものの、先の軍事パレードについては「ワシントンの誰もを過度に心配させるものではなかった」と語った。習主席は今月末に訪米する。
<軍事パレードで誇示>
軍事パレードでお披露目された兵器には、中国が独自に開発した対艦短距離弾道ミサイルDF‐21Dや数種類の大陸間弾道ミサイルのほか、グアムにある米軍基地を拠点とする艦艇の脅威となり、「グアムキラー」として知られる対艦中距離弾道ミサイルDF‐26も含まれていた。
また、南シナ海で中国が進める飛行場や港の建設は、東南アジア海域まで及ぶ地域に中国が力を誇示する一助となるだろう。
元中国海軍の少将である張召忠氏は今年、国営メディアで、台湾周辺における米国との対戦能力に関して「われわれは基本的に、第一列島線をすでに突破している」と主張。今後は「第二、第三列島線を突破する必要がある」とし、東アジアの他の地域のみならず、ハワイにまで及ぶ地域で米海軍に対抗できる可能性を示唆している。
ラジャラトナム国際研究院(シンガポール)の防衛問題専門家、リチャード・ビツィンガー氏は、軍事パレードで展示された兵器などに技術的な新しさは見られなかったとしたうえで、中国軍が自信過剰になっている可能性について懸念を示した。
<太平洋のパワーゲーム>
アジア重視戦略を掲げる米オバマ政権は、西太平洋で今後も支配的な海軍力を維持する構えを見せている。米海軍の約58%は、日本やグアム、シンガポールを含む太平洋艦隊に配備されており、米原子力空母「ロナルド・レーガン」は現在、米海軍横須賀基地に向かっている。
米国防総省による最近の報告書は、中国軍の防衛力には大きなギャップがあると指摘。その1つとして、対潜水艦作戦能力の欠如を挙げている。
北京のある西側当局者は、軍事パレードで展示されたミサイルについての内部評価に言及し、「このようなミサイルを保有していることと、戦闘でそれらを効果的に使用できることとは全く違う話だ」と語った。お披露目された最新モデルが果たして実際に配備されているかどうかも定かではないとの見方を示した。
とはいえ、中国の軍事的発展はすでに台湾にとっては大きな頭痛の種となっている。ロイターが確認した未公表の台湾国防部による報告書は、中国の改良されたH6爆撃機が対艦ミサイルを装備すれば、インド洋まで影響を及ぼすことが可能となると警告している。
冒頭に挙げたテンセントのアニメーションでも、同様の航空機がミサイルで空母を破壊する様子が描かれている。
「中国は最近、『われわれはここにいる。君たちはそれに慣れた方がいい』というメッセージを送っている」と、北京に住むアジアの上級外交官は指摘。「その狙いは、米国をできるだけ遠くに追いやることだ。なぜならアジアに2人もビッグブラザーは必要ないからだ」と語った。
(Ben Blanchard記者、翻訳:伊藤典子、編集:下郡美紀)
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