マイナンバー法案が5月9日付で衆議院で修正のうえ可決され、参議院に送られた。今通常国会の会期は6月26日までであり、会期末まで一月余り。6月には、7月の参院選の前哨戦にも位置づけられる東京都議選があることから、政府・与党は5月中の可決・成立を目指している。
法案は、民主党政権時代から民自公の3党で協議してきたものがベース。参議院では3党で過半数を超えるため、採決にさえこぎ着ければ可決は確実な情勢である。とはいえ、国民全員に関わる重要な制度だけに、不安や懸念を解消するために丁寧な審議が求められる。衆議院での審議過程を振り返りながら、政府の考え方や議論の焦点になった主な事項を整理する。
マイナンバー法案は、3月1日に閣議決定され、同日付で衆議院に提出された。法案は、マイナンバー法案の本体である「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」(番号法案)に加えて、ほか3法案がセットで審議された。具体的には、(1)36本の関係法律を束ねて一部を改正する「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」(整備法案)、(2)内閣官房に制度の推進役ともなる内閣情報通信政策監を置く「内閣法等の一部を改正する法律案」(政府CIO法案)、(3)マイナンバーの付番システムを運用する組織を設置する「地方公共団体情報システム機構法案」(機構法案)である。機構法案は総務省が所管し、他の3法は内閣官房が所管する。
自治体システムの改修費用には財政措置
衆議院では、まず3月22日の本会議で4法案の趣旨説明を行い、与野党6人による質疑を実施し、安倍晋三首相、麻生太郎財務大臣、甘利明社会保障・税一体改革担当大臣、山本一太IT政策担当大臣、新藤義孝総務大臣が答弁した。その後、法案は内閣委員会に付託され、3月27日、4月3日・5日・11日・24日・26日の計6回にわたって、政府関係者や参考人を呼んで質疑を行い、26日の内閣委員会で賛成多数で可決。5月9日の本会議では、番号法案と政府CIO法案を一部修正し、さらに付帯決議を付けて可決した。
審議を通して質問や議論が集中したのは、国民へのメリットの説明が不足している、システム構築の投資対効果が不明確、システム調達能力の実力が不透明、民間利用への拡大を含め個人情報保護の措置が不十分---といったところ。米国の社会保障番号(SSN)でなりすましによる被害が多発している問題については、マイナンバー制度では顔写真付きの個人番号カードによって本人確認を行うほか、民間企業などに個人番号の収集を禁じることで、米国のような被害の発生は防げると強調した。一方で、国民へのメリットの説明や投資対効果については、現状では政府内でも十分な評価ができていないことが浮き彫りになった。
システム面では、2011年ころに5000億円との推計もあった初期費用について、政府答弁で2000億~3000億円に圧縮できるとの見通しが明らかになった。このうち新規システム開発費用としては約350億円、既存システムの整備には2350億円程度がかかると見込んでいる。新規システムの開発費用はすでに2013年度予算で事業者との契約が可能な「債務負担行為」として明記してあり、今後2~3年かけて実経費として予算計上していくことになる。
新規システムの費用内訳は、個人番号と法人番号の付番システムが約160億円、行政機関間の情報連携を司る「情報提供ネットワークシステム」、「マイ・ポータル」、特定個人情報保護委員会の監視・監督システムの構築が約190億円である。個人番号の付番システムは総務省が調達するもので、番号生成機能の構築と住民基本台帳ネットワークシステムの改修に34億円、マイ・ポータルへのログイン認証を含む公的個人認証サービスシステムの構築に39億円、市町村の事務負担を軽減するための個人番号カード発行システムの構築に16億円、工程管理業務に12億円の計100億円を見込んでいる。国税庁が調達する法人番号の付番システムの構築費用としては、合算額の160億円から個人番号系の100億円を引いた約60億円を見込んでいることになる。
また、既存システムの整備費用2350億円の内訳は、年金システムが186億円、ハローワークシステムが155億円、国税システムが380億円、地方公共団体の業務システムが1600億円程度としている。地方公共団体のシステム改修費用については、法令で地方公共団体に事務処理を義務付ける場合は法定受託事務か自治事務かにかかわらず地方自治法に基づいて国が財政措置を講じることになっているとして、改修費用を基準財政需要額に算入したうえで地方交付税を算定する方針を明らかにした。