当然と言えば当然なのだが、やはりゾッとするねぇ。何の話かと言えば、2009年度のIT市場の惨状のこと。6月17日に電子情報技術産業協会(JEITA)が、国内のソフトウエアとソリューションサービス市場規模を発表したのだが、その数字を見ると特にSI開発の落ち込みがひどく、対前年度比12%減である。「そりゃ、リーマン・ショックの直後だから仕方ないでしょ」とすましていられるか・・・やはり無理である。
実は、気になるデータはSI分野以外のところにある。ソフトウエアとアウトソーシング・その他サービスも、それぞれ対前年度比で8%減となっている。アプリケーションパッケージやミドルウエアの売り上げを示すソフトウエアはともかく、アウトソーシング関連が落ち込んだのが気になる。ちなみに直近では、2006年度にSIが対前年度比6%減と落ち込んだが、その時もアウトソーシングは同7%増だった(ソフトウエアは同12%増)。
このアウトソーシング・その他サービスには、保守サービスも含まれるので、ユーザー企業がその支払いをガンガン削ったことがうかがえる。フルアウトソーシングを止めたという話もいくつか聞いたので、アウトソーシング費の削減も当然含まれるだろう。いずれにせよ、アウトソーシング関連が大幅に減少したのは非常事態。しかも、ユーザー企業のITコストの抑制傾向は今後も続きそうだ。
もはやユーザー企業は、右肩上がりでITコストを増やすことができない。むしろ、右肩下がりに抑制する。だから、サービスという形で生じるコストは、これからも徹底的に削り込もうとするだろう。もちろん、IT投資も既存の情報システムのコストを引き下げるための投資が基本となるため、既存のSIの市場規模は減少傾向が続く。しかし、モノ売りやモノ作り(SI)からサービスへという単純な戦略では、ITベンダーは生き残りが難しくなっていくかもしれない。
では、どうするのかだが、 何度も書いてきた通り、大手ITベンダーの生き残り策の要となるのがクラウド事業だ。この場合のクラウド事業とは、もちろんパブリックの方ではない。プライベートクラウドの構築・運用サービスである。ユーザー企業にはITコストの削減効果を訴え、プライベートクラウドへのIT投資を誘発させるのが基本戦略だ。
できれば、そのままアウトソーシングの受注に持って行きたい。ITベンダー自身が仮想化技術を駆使して、多くのユーザー企業のアウトソーシング案件をクラウド基盤に集約し、規模の経済を実現すれば、ユーザー企業の想定以上の料金引き下げが実現できる。そうすれば、ユーザー企業にも新規IT投資の余力が生まれる。これで、ユーザー企業もハッピー、ITベンダーもハッピー。極めて分かりやすい戦略である。
ただ、大手ITベンダーにとってはイス取りゲーム。既存のIT市場のフラット化、あるいは縮小傾向が続く中で、いかに自分だけが生き残るかを争うわけだ。もちろん従来の多重下請け構造も、もはや維持不可能だ。おそらく大きな痛みが伴うだろうが、今までさんざん「問題あり」とされてきた業界構造だ。そろそろ清算すべき時が近づいてきたのかもしれない。
実は、大手ITベンダーはSMB(中堅・中小企業向け)市場も取りに行こうとしている。何度も試みて中途半端な結果に終わったSMB市場だが、今回は本気だ。その武器はやはりクラウド。この場合はプライベートの方ではなく、パブリッククラウドである。もちろん実働部隊はグループ企業やパートナー企業だが、とにかく自社の取り分を広げる、その方針は大手向け市場でもSMB市場でも一貫している。
そんなわけなので中堅中小のITベンダーにとっては事業環境が厳しくなりそうだが、ビジネスチャンスは残されている。まずはユーザー企業に残る膨大なレガシー資産の“リフォーム需要”がある。真に運用効率の良いプライベートクラウドを構築するためには、レガシーマイグレーションが不可欠だが、大手ITベンダーにとっては採算の合わない鬼門である。中堅中小のITベンダーの工夫次第で良いビジネスになるだろう。
ユーザー企業の新規IT投資についても、そうだ。ユーザー企業が新たに投資する分野は、ビジネスに直結するITである。いわゆる“儲かるシステム”だ。図体の大きなITベンダーがユーザーニーズに即応できるとも思えない。中堅中小のITベンダーにも専門性があれば、十分なチャンスがあるだろう。いずれにしろ、これまで何度も言われてきたことが、今回は現実となる。IT業界の構造転換という“オオカミ”が遂に来たのだ。