寝たきりが嫌ならダイエット、体力作り、ストレス発散……。その目的は様々だが、とにかく日本人はウォーキングが大好きだ。しかし、その効果を盲信してしまうと、あなたの生活に重大な影を落とすかもしれない。
軽い膝の痛みが大事に
肩からタオルをかけ、鮮やかな色のウェアに身を包み颯爽と歩く人たちの姿は、今や街のありふれた光景だ。汗ばんだ肌をタオルで拭うときの彼らの表情は充実感に満ち満ちている。
近年、日本のウォーキング人口は増え続けている。'16年度には、4500万人を超え、過去20年で2倍になった。
特に若年層に比べ、年齢層が高いほどウォーキング人口は多く、週1回以上のウォーキングが習慣になっている60歳以上の高齢者は約半数に上る。
「歩けば健康」――そう信じて疑わない人は多い。1年半前に勤めていた不動産会社を定年退職して以来、ウォーキングを日課にしていた清水豊さん(65歳・仮名)もそんな一人だった。
「会社勤めをしていた頃は、外回りの営業で、日中は革靴の底が擦り減るほど歩き回っていましたし、身体はよく動かしていたほうだと思います。
ただ、仕事を辞めた途端に、家の中で横になってテレビを見る時間が増えた。腹周りも気になり始め、このままではいけないと思い、1年前から、一人でも気軽にできる運動をしたい、とウォーキングを始めたんです」
始めてから2ヵ月ほどで、お腹の肉は落ち、「歩く」ことの効果を実感。清水さんは、歩けば歩くほど健康体になる、そう思い込んでウォーキングを続けたという。ところが……。
「始めてから半年ぐらい経った頃でしょうか、膝に軽い痛みが出始めました。それでも、早朝のウォーキングはもう生活のルーティーンになっていましたし、健康のためと信じていたのでやめる気はなかった。
また、妻から無駄な贅肉が落ちたことを褒められたのも嬉しかった。今の体型を維持して、若々しさを保ちたいという気持ちもあったかもしれません」(清水さん)
清水さんはサポーターを付けるなどして、ダマしダマしウォーキングを続けた。しかし、痛みが出始めてから3ヵ月後、清水さんは、ついにガマンができなくなって病院で診察を受けた。
そこで深刻な「変形性膝関節症」を発症していることがわかったのだ。すでにちょっとした距離でも歩くのが億劫になるほど、膝の損傷は重いものになっており、以来、清水さんは、一日の大半を自宅のベッドやソファーの上で過ごさざるをえなくなったという。