元経産官僚の古賀茂明氏と津田塾大学教授の萱野稔人氏の対談が「THE PAGE」にてライブ配信された。新書『国家の暴走~安倍政権の世論操作術』(角川oneテーマ21)が大ヒット中の古賀氏が指摘する、安倍政権の“暴走”と世論操作術、メディアとの関係について、萱野氏が迫った。(2014年9月29日収録)
* * *
戦争をするかどうかは、たった4人の閣僚で決められる!
萱野: 今日はよろしくお願いします。古賀さんが出された『国家の暴走』、売れているそうですね。
古賀: おかげさまで。ありがとうございます。
萱野: 古賀さんが経産省をお辞めになったのが2011年でしたよね。それから3年、今は主にどんなことをされているんですか?
古賀: 「どうやって食べてるの?」とよく聞かれますよ。私は役所にいたときから、組織にとらわれずに自分が正しいと信じる言動をしてきたつもりで、そのスタンスは今も変わりません。今回のような本を書いたりテレビに出演したりするのを主として、政治家などに自分の考えを伝えて彼らをサポートするようなこともしています。どこにも属していないので、特に肩書きはないのですが。
萱野: この3年のあいだで民主党から自民党へ政権がガラッと変わりました。古賀さんが「国家の暴走」とおっしゃっているのは、「安倍政権の暴走」と考えていいのですね。暴走とは、具体的にはどういうことでしょうか。

古賀: いま日本は、国としてのあり方が大きく変わろうとしています。それも、民主主義的な手続きや、これまで我々が理解してきた政治の変わり方とは外れた形と勢いで、高いハードルを次々に超えつつあるんです。
萱野: それは、集団的自衛権や秘密保護法などのことですか?
古賀: そうですね。あとは武器輸出三原則の撤廃など、主に外交や日米安全保障での話です。本来は、“岩盤規制”と呼ばれているところを変えていく経済的な改革が必要なんですが、そこは暴走していないというか、あまり動いていない。
萱野: 秘密保護法の法案自体は民主党時代にできていますよね。集団的自衛権も、野田政権のときに有識者会議で議題にあがりました。ということは、野田政権のときから今の流れができていた印象もありますが。
古賀: 野田さんと安倍さんは基本的には考え方が近いんです。野田さんも“暴走”したい気持ちはあったけど、民主党にはその能力がなかった。だから議論にさえならなかったんですね。
萱野: なるほど(笑)。安倍政権では集団的自衛権に関して、かなり議論になりました。これによって日本が戦争する国になるのでは、徴兵制が復活するのでは、と心配している人も多いと思います。そのあたり、古賀さんはどうお考えですか?
古賀: 将来的に徴兵制になる可能性は高いと私は思っています。仮に北朝鮮が核武装したら、日本もそれに続く可能性さえあるだろうと。ただし、安倍政権は「徴兵制なんてありえない」と言う。表面的には「日本は戦争しない」「今までの平和主義を守る」と言っているわけです。
萱野: “戦争を抑止するため”の集団的自衛権だと主張していますね。
古賀: レトリックとしてはそうなっているけれど、実際に進んでいる方向は違います。それに気づいていない人は多いと思います。安倍さんが言っている建前と、僕が“暴走”と呼んでいる動きには乖離がある。
集団的自衛権と特定秘密保護法に加えて、昨年成立した日本版NSC(国家安全保障会議)がありますが、この3つがあれば現行法の下、戦争ができるようになるんです。安倍さんは集団的自衛権について「限定行使」を強調していますが、行使される場合の要件は曖昧なままです。政権の判断で「限定行使」の範囲は際限なく広がる恐れもある、というか、最初からそれを見越した条件設定と考えられます。日本版NSCは、戦争に行く決断を閣議ではなく、最低4人の閣僚だけで決めることが可能です。そして、その決断までの過程を隠し、マスコミの取材活動を制限するのが特定秘密保護法です。(『国家の暴走』P.27~28、P.34より)