『スティーブ・ジョブズ』著者:ヤマザキマリさんインタビュー
「彼は嫌な奴であり、天才であり、ひと言では言い表せない男です!」
---今作は、スティーブ・ジョブスの唯一の公認伝記の漫画化ですが、先生がこの作品を描くことになった経緯を教えてください。
ジョブズが亡くなって自伝が出版されると決まった時に、講談社の担当編集さんから連絡がきたんです。でもその時は、少し考えさせてくださいという返事をしました。
---すぐに「描きます」とはならなかったんですね。
そうなんですよ。その時の私は忙しかったし、ジョブズに対してシンパシーがなかったので(笑)。
でも、Macファンの息子からは『お願いだから自伝を読み直してほしい』と頼まれ、旦那とエンジニアの舅からも『やるしかないだろ!』とか、とにかく周りにいろいろ言われてしまって(笑)。身近な人間からそこまで強く言われると、もう一度自伝を読み返すしかないじゃないですか。
---そこから、描くことを決めた理由はなんだったんでしょうか?
改めて読むと、ジョブズの偏屈っぷりが、私の周りにいる人たちと似ているなと感じたんです。それで、ああ、こういう人なら描けるわ、と(笑)。私は、素敵な社内恋愛や学園恋愛モノを描けと言われても無理だと思うのですけど、変人なら描けるので(笑)。
それに、ジョブズを描きたいと思った理由はもうひとつあったんです。それは、彼が"テクノロジーと人文科学的なものの間に立っていた人間"だからですね。若い時にインド瞑想に走っても、その一方でテクノロジーにはずっとハマったままだった。どちらかひとつに傾いてしまう人がほとんどの中で、彼は希有な人物だと思いますね。
---先生はジョブズに対してどんなイメージをお持ちですか?
最初は威圧的でイヤな奴という印象でした。自分のやり方に従わない奴は容赦なく排除していく、独裁的で超資本主義的ですよね。
でも漫画化する過程で感じたのは、出生のねじれによって、人一倍の孤独感とコンプレックスが彼の中で形成されたのではないかということ。もともと特異な人ではありましたけど、彼は寂しい人なんです。