テレビが進化する可能性を追う!日本の閉鎖的な放送業界を揺り動かす「SPIDER」のさらなるチャレンジ
先進的なTV機器として非常に強い注目を集めている「SPIDER」が今春、新たな段階へと踏み出そうとしている。これは日本のテレビの未来を考えていく上で、非常に重要な意味をはらんでいる。
SPIDERの持っている意味をひとことで表すのは難しいが、この機器についての同社の公式説明はこうだ。「テレビの番組もCMも検索できる全チャンネル同時録画レコーダー」。野村総研出身の有吉昌康氏が設立したベンチャー企業PTPが、2007年から発売している。昨年春には地デジに対応し、画面インタフェイスやリモコンもまるでアップル製品のような洗練されたものへと一新された。
新しい展開とは何か。それは端的に言えば、テレビのウェブ化であり、構造化である。つまりはテレビ放送がこれまで、ITの潮流の中で取り残されてきた部分を補おうとしているのだ。
具体的にいえば、キー局やローカル局を含めて全国で放送されているすべての番組を、データベースに統合して構造化していくということ。それがSPIDERの実現しようとしている近未来だ。この構造化によってこそ、初めてさまざな番組が完璧に検索エンジンで検索できるようになり、またソーシャルメディア上で共有することも可能になる。
これまで「通信と放送の融合」がさまざまに語られてきた。だがまともな議論がされてきたとは言い難い。本当の「融合」は、「テレビ受像機でウェブが見られる」「出演者の来ている服をオンラインショッピングできる」というような馬鹿げた未来ではない。そうではなく、番組コンテンツがウェブ化していき、検索・共有可能になっていくことこそが融合の未来像なのだ。
しかしこのことが今の日本ではまだあまりにも理解されていない。テレビとネットの融合というと上記のような「俳優の服をネットショッピング」みたいなことがいまだに夢見がちに語られている。それももちろん可能性のひとつではあるけれども、しかし大きな声で語るような未来ではないことは確かだ。
さらにテレビの将来像として、3Dや超高解像度の2K4Kだととらえている人もいる。高性能化高スペック化はたしかに魅力的な未来のひとつかもしれないが、しかしそこに拘泥したことで日本の家電が衰退の危機に陥っているのも事実だ。
これはSPIDERという先進的なデバイスへのとらえ方にも通底している。最近はストレージの低価格化を背景に、テレビのレコーダーが大容量のHDDを装備するようになり、「全録ブーム」を後押ししている。たとえば日経トレンディは2012年ヒット予測ランキングの第5位に「10万円全録レコーダー」を挙げている。SPIDERもこの全録ブームの一翼を担う製品、とこの種のメディアでは位置づけられている。
しかし、ウェブ化されていない放送番組の世界では、番組コンテンツへの動線は電子番組表(EPG)しか存在しない。しかし地上波では、1週間で2000もの番組が放送されている。これを1週間全録のレコーダー上で観ようと思うと、エクセルのワークシートのような無機質なEPG上で、2000分の1の選択を行わなければならない。これではセレンディピティを生むのは非常に困難だ。結局は自分の知っているいつもの番組を観るだけになりかねない。
「全録」によって選択肢が広がっても、そこからフィルタリングする性能が高まらなければあまり意味がないのである。これはウェブの検索と同じことだ。いくら世界のウェブページの数が増えていっても、高性能な検索エンジンが出てこなければ、見られないウェブは存在しないのと同じなのだ。