『日本SF・幼年期の終り』

日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より

日本SF・幼年期の終り―「世界SF全集」月報より

早川書房が1969〜1971年にかけて刊行した、当時世界にも類を見なかった「世界SF全集」の、「月報」に寄せられた著名人のコラムをまとめたもの。SF作家・評論家はもちろんだが、推理作家(都筑道夫佐野洋、生島次郎)や漫画家(手塚治虫石森章太郎松本零士)なども寄稿している。当時のSFをめぐる状況などが窺い知れて興味深い。「団精二」という見慣れない名前の人がいて、誰だろうと思ったら荒俣宏なのだそうだ。
あくまでも印象で書くが、最も多く名前が挙がる作品は『火星年代記』のようで、当時から多大な影響があったのだなと感じさせられる。

小田光雄『出版業界の危機と社会構造』

出版業界の危機と社会構造

出版業界の危機と社会構造

同じ著者による『出版社と書店はいかにして消えていくか』『ブックオフと出版業界』と本書を合わせて、三部作を成すそうだ。
前半は2001年から2007年9月までの出版業界の動向を「クロニクル」の形でまとめている。もっとも、明るい話題などほとんどなく、「廃業」「倒産」の話題ばかり。これが10月までだったら、エクスメディア自己破産も入っていたことだろう。いずれにしても暗い話題ばかりで、業界に身を置く者としては気が滅入る。
後半はデータを駆使しながら、現在の出版業界の分析と、その原因を探っている。結局のところ、戦後の社会構造に問題があったのだ、アメリカ主導の経済が失敗の原因だった、みたいな話になっていて、「自分たちは悪くない」の論調になっているように見えるのが気になる。
ともかく、現在の業界の実情を知るのにはいいテキストになっている。
最も印象的な部分を引用しよう。

かつて徳富蘇峰講談社を民間文部省だと言ったが、日本の出版業界こそが民間の国民教育機関の役割を果たしてきた。教科書の供給も出版業界が担ってきたし、国民雑誌、国民作家を生み出し、立ち読みもできる町の中小書店が国民文化を育む供給元でもあった。そこから日本文学全集や古典全集も含めて、日本のアイデンティティといえる本が家庭の中に入っていった。そのことで同じ日本語を読む日本人という共通認識が保たれてきた。ところがこれらのすべてが危機に追いやられている。それに現在の複合大型店やショッピングセンターの書店には近代文学全集も古典も置かれていない。「国民のつながり」がなくなってしまえば、日本という国家すらも成立するかどうかわからない状況に進んでいる。ロードサイドビジネスによる郊外消費社会の成立に続いて、ショッピングセンターの出現で、風景はアメリカと化した。そしてアメリカの命じるままに消費者のニーズだけに応える国になってしまえば、日本は一体どうなるのか。
(266ページより)

「本格ミステリ・ベスト10」に投票しました&一般投票締め切り迫る

今年も、原書房から刊行される予定の『本格ミステリ・ベスト10』(探偵小説研究会編)へ、さきほど投票させていただきました。
そして今年も一般投票を受け付けています。下のリンクからどうぞ。締め切りは11月5日です。あと2日しかありません。多くの皆さんの意見が反映されたベストになれば良いと思っておりますので、ご協力をお願いします。→投票受付は終了しました。