平清盛と「ソーシャルTV」の陰謀論
こんな記事を見つけたので、またまた「平清盛ヲタ」の私が湧いて来ましたよ。
朝日新聞『平清盛』記事へのコメントに関して - 春日太一の「雪中行軍な人生」
私は研究家でも評論家でもなく、ここに書くのは完全に根拠のない勝手な自分の想像話であることを最初に断っておく。
上記の筆者が書いているように、確かに平清盛ドラマの「画面の情報量」がハンパでない、ということを最近になって私も理解した。上記では「ハイビジョン」による画面の質のことを主に話しているが、ここで言っているのは、脚本の中に埋め込んであるお話の情報量のこと。時代劇では「史実と違う」という批判がよく出るのだが、ここでは逆に、「いかにもありえない創作の場面なのだが、実は史実がたくさん埋め込んである」ということに気がついたのだ。
例えば、お話が「源氏編」に移るときの信号として、源氏屋敷のペットである猿が最初に映し出されることが多く、これは私は「源氏は山猿(平家は海亀)」という、漫画的な記号であり演出だと思っていた。しかし、先日玉川大学の鎌倉時代に関する情報ページを読んでいたら、「当時の武家屋敷には馬の魔除けとして猿が飼われていた」という記述があり、「えー、これって本当だったんだ!」と驚いた。
このことに気がついたのは、ドラマの中で源義朝がドレッドヘアで木のぼりしているときに「ウチらの味方になってください」と三浦一族が頼みに来たエピソード、歴史上では「大庭御厨濫行」なる事件をウィキペディアで読み、たまたま郷里のすぐ近くでのできごとだったことから興味をもって、いろいろネットで資料を読みあさっていたときのこと。これもサラッと流していたら、なぜ自分の軍勢も持たないホームレス男を、「自分の手下として雇う」のではなく、「味方してくれたら自分たちは家来になります」という話になるのか、なんだかわからなかったので調べていた中でわかったこと。
あるいは、先週の話の中で、藤原頼長が家盛の件を忠盛に暴露し、その後近くの若い男の子の手を握りながら「きみはる」とさりげなくつぶやく。「ああ、新しいボーイフレンドね」としか思わなかったのだが、実はこれは秦公春という人で、赦免された殺人犯を私的に殺させた、頼長のいわば「私設:必殺仕置人」だった、という話をネットで読み、これまた「ほぉ〜」と感心したり。
史実だけでなく、伏線がものすごくたくさん張ってあるのだが、これも最初に見た時には気づかない。アメリカでは「TV Japan」というケーブルチャンネルで見ているのだが、日本語だけでリアルタイムで見るのに加え、英語字幕つきで2ヶ月遅れぐらいの再放送があるのを見ると「あ、2ヶ月前のこの話は、今のこれの伏線だったのか!」と気づいたりする。(例えば、清盛の最初の妻明子が、最初にいったん求婚を断る理由が「住吉大社のおかげで結婚できたということになるのはいや」みたいな話で、なんだかサッパリ理解できなかったのだが、これは先日書いた、「寺社勢力/タブーへの挑戦」という一連の話の一つだったのかも、と先週見て気がついた。)
要するに、サラッと見ていてもなんだかわからないネタが多すぎる。
そこで思うのが、最近はハリウッド映画でも、テンポが早すぎたり小ネタが多すぎたりして、劇場で一度見てもなんだかわからず、結局DVDやネット配信で、画面を見ながらネットで調べたり、他の人の解説を読みながら見る、という見方に「誘導」してるんじゃないか、というモノが結構あり、もしかしたら同じことを狙っているのでは?という陰謀論。
アメリカでは、映像作品のネット配信はすでに定着しており、そこにさらに、他の人とコメントを交わしながら見るという「ソーシャルTV」の機能を載せようと皆が必死になっている段階。ここなどに書いているように、ネット配信の強みは「配信」ではなく、「検索・オススメ・ソーシャル」といったネット独自機能との統合が肝だと思っている。完全にインターフェース上で統合するところまで行かなくても、今でも「視聴者はiPadもってツイートしながら見てる」ということを意識して番組を作っているケースが多く、番組そのもののネット配信がやりづらいライブ番組でも、例えば今年のフットボールの「スーパーボウル」が史上最高の視聴率を獲得したのは、こうした「ソーシャル視聴戦略」が上手く行ったから、との言説がしきり。
さらに、ここに書いたように、DVDに加えてネット配信でも、出演者や制作者にきちんとお金が落ちる仕組みができているので、こうした「何度も見てもらう」方式のコンテンツが作る側のメリットにもなる。この「みんなにお金の回る仕組み」ができるまでに、ハリウッドでもすでにかなり時間と労力がかかっており、日本ではまだまだだと思うが、NHKは例外的に有料のオンデマンドもやっているし、民放よりはコレをやる意味があるだろう。
<追記:うがった見方をすれば、「定額サブスクリプション制」のNHKでは、視聴率が高かろうが低かろうが売り上げに直接の影響はなく、それよりもあとでDVDが売れたり、オンデマンドで有料視聴してくれたほうが、売り上げが増える、ということにもなる。本当にNHKの人がそこまで考えているかどうかは関知しない。>
こういう状況に慣れているので、逆に「清盛」については、番組の作りそのものは「ソレ」向けにできているのに、「ソーシャルTVプラットフォーム」のほうがついてきていないのが残念、とついつい思ってしまう。ネット配信で、ニコ動風にリアルタイムでヲタの皆様の解説や解釈が読めるとか、画面上で猿にマウスオーバーすると「馬の魔除け」という解説を誰かが書き込んだのが読めるとか、そんなふうになっていたら楽しいのに。
せめて、公式ウェブサイトでこうした種々の「トリビア」「小ネタ」「織り込まれた史実」「場面の解釈」などをソーシャル的に書いたり読んだり、関連資料へのリンクを張ったり、そんなことができる場を作るなど、「ソーシャルTV」的な使い方を促進する仕掛けをNHKも自分でやればいいのに、と思ったりする。すでに、ツイッターではtrending topicになったりしているらしいし。
ということで、実験的な試み(=陰謀)なのかも、と、暑すぎる週末、暇なのでちょっと書いてみた。
<追記>
上記で、「猿」や「大庭御厨」などにつき、参考にした玉川大学の鎌倉時代資料ページのリンクを入れ忘れましたので下記に。わかりやすい神奈川県郷土資料です。