ノマドという言霊ハイプを煽る
相変わらず、ネット界隈では「ノマド」ブームを揶揄する動きが続いている。
安藤美冬とかいう新たな勝間和代の襲来: やまもといちろうBLOG(ブログ)
だけど、私はいっそ「ノマド」も、こういった、なんとはなしの現象に名称を付与することで流行を作り出す「言霊ハイプ」にしちゃってもいいのでは、と思っている。
世の中には、メディアのハイプとか◯通的な仕組みのフィルターを通じてしか、新しい現象を理解できない人々が実に多く(どこにでもいるが日本国にはとても多い)、時にそういう人達のフィルターを通すために犠牲を覚悟で「言霊ハイプ」の力を借りるのもアリと思う。「ガラパゴス」*1とか「イクメン」なんかも言霊ハイプからお偉い方々の脳にも投影されて、それなりに世の中の気分に一定の影響を与えたと思う。
ノマドに関して言霊ハイプが必要と思う理由は、以前にもこのブログに書いた、「ノマド(あるいはフリーランス)」を雇うクライアント企業側の人々に、「あー、いまどきはそういうのもアリかもね」という気分を醸成してもらいたいからだ。特に、プロフェッショナルな分野でのフリーランス契約が広がるほうが、いろいろと世の中が良くなるのでは、と思うのだ。
ノマドというコインの裏側、「クライアントの存在」 - Tech Mom from Silicon Valley
ノマドという用語が合っているかどうかはわからないが、「フリーランスのプロ」という働き方は子育て中の女性には何かと利点が多い。女性本人がそうなってもいいし、女性が正規雇用でパートナーである男性がそうであるのもよい。どちらかがフリーランスだと、いろいろな意味で融通がきき、物事がいろいろとやりやすくなる。
たまたま、今日「小町」を読んでいて、転勤族の男性が共働き指向の女性と出会いたいのだが無理だろうか、という相談があり、これに答えている女性の大半が「ムリムリ」「そんなに何度も転職できない」と言っているのを見て、その昔会社に勤めていた頃のことを思い出した。同期の総合職女性が辞める決断をしなければならなかったのは、結婚でも出産でもなく、「パートナーの転勤」のとき、というのが一番多かった。一期下の世代では、女性の海外駐在も可能になったが、実際にそれができたのは、独身を貫いた人と、パートナーが「芸術家」だった人だけだ。
働く女性の最大の敵は、世上言われるような「保育園不足」よりも、「転勤」ではないか、と改めて思う。
その昔盛んだった日本型終身雇用の中で、大企業では転勤(海外含む)がもれなくついてきて、その対策として「専業主婦」という仕組みが必要で、そのために年金とか保険とか手当とか控除とかいろいろくっついていて、企業のほうでも高卒や短大卒の「専業主婦」候補を、男性社員のために用意してあげていた。そもそも、そういったインフラで長期雇用を支えているから成り立っていた終身雇用が崩壊したのに、「転勤」だけが残ったらうまくいかない。ますます、若い人が結婚できなくなる。女性が全国・海外転勤のある仕事に就く決断がなかなかできない。
日本型終身雇用は、鉱工業が主力産業で、設備投資の足が長く、企業の寿命も長かった「社会主義が可能だった時代」には合っていたけれど、企業というより産業自身のライフサイクルが短くなる「サービス業時代」にはもう無理なのは明らか。もう昔日には戻れないので、仕組みとしては「フレキシブルな雇用」、個人の戦略としては「つぶしのきくプロ」を目指すのが良いと思っている。やり方はいろいろあるが、「フリーランスの拡大」というのはその一つのやり方。
上記の相談でも、前向きの答というのは、「自分は翻訳業だから世界のどこでもできる、そういう人を探せばよい」といったものだ。看護師や薬剤師などの資格業も、広い意味では動きまわることが可能な職業。一方、我が家の子供の友人家庭では、お母さんが公務員、お父さんはフリーのSEで、プレイデートの送り迎えにはだいたいお父さんが来る、というケースもあり、そういうパターンもアリだ。唯一のブレッドウィナーがフリーランスだと不安定だが、共働きでどちらかが定職ならばいろいろなヘッジができる。
でも、地味な私などがこんなことをブログに書いたって、人々のハイプ・フィルターを通すことはできない。もともと、私のブログを読んでくださる人は、こういう考え方に賛成なタイプの方が多いだろうが、全くこういう考えに馴染みのない人にも浸透しないと、フリーランスがどんどん雇われる世の中にはならない。
ならば、「ノマド」でもなんでもいいので、とりあえず「言霊ハイプ」に乗っかって、もちっと見栄えのよい女性とかに煽っていただくのもいいんじゃない、と思う次第。はやりに流され、ノリでノマドになった若者が火だるまになって焼け落ちるケースもあるかもしれないが、少々の犠牲は203高地を占領するためには仕方ない、というか、それで死ぬわけでもないので、灰の中から再び立ち上がるのも人生経験だと思って頑張ってくれたまえ。
<追記4/19>
なまじ職場での男女同権が進んだアメリカやイギリスでは、別の意味でやはり「転勤が障害」になっている、というお話をTwitterでいただきました。これも実感なのでご参考に。