お役所とコンサルと技術者の三角関係に関する補足
どうしたものかと思ったのだけど、家族旅行中に連投ツイートを受けて、ちゃんと返せないもので、まとめてブログにアップ。
事の経緯は、おおざっぱにまとめるとこんな感じ。
□先だって、「クラウド」に言及する研究会の資料作りに突然巻き込まれ、そこで「クラウド」と他のハード代替的ネットサービスソリューションとの異同をおさえていない点に驚いた。ただし、彼らも自ら「クラウド」に徒手空拳で突撃したかったわけではなく、そういう要望が委員の中にあることにオタオタしながら応えたという事情があった。
□さらに「クラウド振興政策」というのはすでに始まっており、ひょっとすると法文にも何らかのリファーが入るかもしれない。というか、入らないとクラウド振興政策にはならない。
■上記事情を想いつつ、クラウドについて「バズワードになっていて、定義もはっきりしてない。そもそもこうした構造を法律でどう書くものか難しい」とツイートした。
■そこに @finalvent から、クラウドにはNISTの定義があるのでそれでいいではないかとツッコミが入った。技術者はNISTの定義で合意しているので、それを使えばいいというのである。
法律は用語の体系が、特に名詞については閉じている。つまり、一般語として自明なもの以外法文内で定義されていることを求めている。よって、日本の法令ではないNISTの定義は、それ自体、日本法の次元では無意味である。したがって、これ*1をきちんと日本法で参照しようとすると、なぜNISTの定義を法文上の定義にするのか、というところが内閣法制局で突っ込まれる。技術者がそれで合意している、と言えば簡単なところだが、そうは問屋が卸さない。
問題は、世の中でクラウドについてこうだと説明する内容がいくつもあることだ。NISTの定義以外にも、いろいろな説明が横行している。そこで、技術者が合意しているというのであれば、それが法文上の定義になることを阻んでいるのは、このNISTの定義以外の定義or説明であって、よに流布しているものということになる。
■そこで、技術者の間ではNIST定義が共有されているのなら技術者の力でこうした非NIST定義を潰してくれれば、役所も対応できるのだが。と返した。 @finalvent からは、時間の問題ですというので、こちらからはその時間がないんだよと答えた。ここでこのツイートは終わった。
■ところがそこに @kmotoyoshi から、NIST以外の定義なんてあったらご教示願いたいとややきつい調子でツッコミが入った。
こういうツッコミが入る場合、たいがいは何か背景事情があるので、とりあえずプロフィールを見るのが常套である。っつーと、なーんだ、 @kmotoyoshi はNIST以外の定義をいろいろ振りまいていると例示したガートナーの中の人なのであった*2。
■そこで、実際「クラウド 定義」とかでググるといろいろ出てくるので、ネット上であるよとやんわり返すことにした。
■すると、 @kmotoyoshi から、NISTの定義については説明している/しかし自分たちはコンサルなので相手のためにあれこれ説明することはある/それを捉えてそうした説明を「潰す」という言葉は文脈を見ないと誤解を生むから拙い、とツッコミが入った*3。
で、ですね。
これはとても重要な構造を示しているのではないかと思ったので、ちょっとまとめておくことにしたわけです。
すなわち、技術者(代表として @finalvent 。ゴメン、代表にして。そしてたった一つのサンプルを代表にして説明される技術者の皆さん、ゴメン)とコンサル(代表として @kmotoyoshi 。ゴメン、代表にして。そしてたった一つのサンプルを代表にして説明されるコンサルタントの皆さん、ほんとにゴメン)と役人(僕が見ている人たち)のこんな三角関係である:
技術者はこういう:クラウドには技術者としての共有された定義がある。それを法律で使えばよろしい。
コンサルはこういう:クラウドには技術者としての共有された定義があるが、それ以外にもクライアントによくわかるように様々な説明をしている。それは業務上正当なことである。
そして官僚はこういうだろう:クラウドといえば技術者も一般企業もわかるように、含意を統一してくれ、と。
実は、この構造にはある種の甘えが入っている。
まず、身内から議論をすれば、官僚と官僚機構がそうした世の中の理解をバキバキ切り捨て、技術者に共通のNIST定義(正確にはその日本語訳)で行くと政治決定する能力があれば問題はないからだ。現実はそうもいかないことも多いが、それは理想論に立って見れば甘えに過ぎない。ここは甘えと敢えて言っておく。
だが、それだけなのだろうか?互いの正当性を言い合って話がかみ合わないのはある種の構造問題。それぞれの役目を踏まえて、改善や努力を目指すのが正しい態度だと思う。そこで、官僚機構の側がこうした問題を認めているとして、ここで技術者やコンサルはどういう改善を考えるんだろう?それとも改善点などないと?
官僚機構が理想的なパフォーマンスを示せばいいのであって、自分たちのあり方に問題なかった/ないというのは、逆に、官僚機構への甘えではないか?*4
つまり、本来の連携の形とはこうではないのか:
技術者:クラウドには技術者としての共有された定義がある。それを世間にも広めていく(本来の技術者の責務ではないと思うが、こういう寄り添いかたをする)
コンサル:クラウドには技術者としての共有された定義があるので、クライアントには常に技術者の共有された定義を参照し、独自の説明法は控えるか、ことばを変えたり修辞を明記したりして混乱がおきないよう留意する。
官僚:クラウドの中で技術者とコンサルやメディアの用語法の共通部分(核心部分)をセンス良く取り出し、早く政策に打ち込む。
というわけで、蓋し、技術上は統一されているというのであれば、少なくとも技術にかかるコンサルであればそれを混乱させるような説明は禁じられるはずだ。実際web上でもいくつもの定義がある例えば「クラウド」について、「一般的なクラウドの説明」としてNISTの定義を援用し、「あくまでうち(コンサル)が考えるクラウドの例」とか「クラウドによって可能になること」としていろいろなことを説明すればいいのであって、努々「クラウドの説明」がずれないようにするべきなのである。
よって、技術上用語法が統一されていて、世の中でもそうあるべきなら、それと違った用語法は「間違った用語法」になるわけで、間違った用語法は「潰され」てしかるべき。さもなければ、そもそも用語法が技術者の合意に従って統一されるべきではないということ*5。ここのところは、むしろ @finalvent と @kmotoyoshi に話し合ってもらいたいところであり、少なくともそれを待つ現時点でこの表現は撤回する必要はないと考えている。
よろしいか、技術者が編み出した技術用語を、コンサルやメディアが拡張したり変形して説明してバズワード化するということはよくある。それに政府が対応を迫られ、振り回されることもしばしばである。まず、私はこの状態を「問題である」と考える。
よって、問題はこうした状態を如何に改善するかなのである。そのためには、技術者やコンサル、いやさ、メディアや他の業界関係者もですが、その協調的な協力が要る。ということは、私たちはちゃんとやってますということではない。問題が起きているのだから、少なくとも現時点で不十分な点があると言うこと。それを認めて、さあどうしようかと胸襟を開いて考えること。きちんと言葉を交わす態度というのは、そういう中から起きると思う。
なかなか会話や論議をするのは難しいな、と感じた連休である*6。というところで、この項おしまい。
P.S.今回のやりとりの中でいくつか個別のコメント。
1. 長い文章はやはりブログその他の方法で書くべきで、tweetの連投は、失礼だとは思わないけど、あまり美しくないと思う。twitterはそういうものではない。
2. NISTのクラウドの定義は、それ自体、法文として参照するのは極めて厳しい。これを法律として耐える形の日本語に落とすのはやはり骨が折れるな、という感じ。技術レベルでは皮膚感としてアリかもしれないが、もう少しブラッシュアップしてほしいというところ。
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