しっかり丸1年たっての更新になってしまいましたが、
今年も話数10本ぱっと浮かんだので書いていきます。
本企画の集計は今年も「aninado」様が行っています。
企画趣旨も「aninado」様から引用させていただきます。
■「話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選」ルール
・2024年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
・集計対象は2024年中に公開されたものと致しますので、集計を希望される方は年内での公開をお願いします。
■『ガールズバンドクライ』第13話「ロックンロールは鳴り止まないっ」
脚本/花田十輝 絵コンテ・演出/酒井和男 CGディレクター/大曽根悠介 リードキャラクターモデリングアーティスト/大曽根一呂子、赤瀬平、上垣健太郎 リードリギングアーティスト/村野徳晃、長岡京子
2019年にサンライズを退社して以降、その動向が気になっていた平山理志Pの東映アニメーションでの企画として2023年に盟友・酒井和男監督をシリーズディレクター、花田十輝氏をシリーズ構成とする座組で発表されてから待望していた一作。
酒井監督のレイアウト主義や愛嬌あるポージングと東映アニメの3DCG表現の組み合わせは抜群で、その期待を遥かに上回った。
花田氏のドラマ性の強い脚本も準備期間に重ねた改稿もあってか密度と熱量のある仕上がりとなった。
とりわけこの最終回では、再生回数、ライブ集客、売上と様々な数字がトゲナシトゲアリの前に立ちふさがることで、仁菜達がその価値観から脱する花田氏の真骨頂が発揮される。
感情ままに弾く仁菜のギターが上達していることに気づき初心を思い起こす桃香、ライブのMCでトラウマとなった事件以前の、いじめを止めに入る前の「誇らしかった」気持ちを語る仁菜が自分のルーツを再発見するドラマの妙味。
そして道を違える前のヒナとの関係を思い出す他者の視点の発見!
仁菜とヒナ、二人の少女によってダイヤモンドダスト結成時へと時間を遡っていく「運命の華」MVまで突き進むドラマの推進力が圧巻だった。
■『ラブライブ!スーパースター!!』3期 第11話「スーパースター!!」
脚本/花田十輝 絵コンテ・ダンスパート演出/京極尚彦 演出/綿田慎也 作画監督/大野勉、斉藤香、杉浦尭侑、吉田雄一 ダンスパート作画監督/後藤望、小林美幸、水野辰哉、安武航 総作画監督/斎藤敦史、佐野恵一、藤井智之
全3期構成の集大成とも言えるドラマの充実度に驚かされた一作より。
私が『ラブライブ!』シリーズを好んで観ているのは、自分の視野や既存の価値観の壁を脱した先で他人事だったことを自分事と捉えることになる価値転倒のためにドラマがあるところにあるが、この3期は澁谷かのんが「手放す」ことを徹底して描くことでそのドラマ性に円熟味さえ与えている。
このエピソード以前で後輩達の成長やグループの団結が一通り描かれるが、その上でかのんは卒業後にまた一人で新天地に向かうことを突きつけられる。
原宿、牛久、北海道の少女達が新年を迎える姿を繋いで見せる一方、かのんはウィーンにひとり発ち、新たな孤独と向き合う。この軽やかな場面の行き来による映像でドラマが形作られるのが良い。
かのんが孤独と向き合う間、2年生が1期でかのんのトラウマとして出てきた合唱を彼女のルーツとして捉え直す。後輩に曲作りを託して自分の役割を「手放す」かのんに、後輩から「孤独は乗り越えられる」ことを曲という形で還される。グループに残る選択をするマルガレーテも含め、全員が自分事ではなく他人事で行動しているのだ。
そこで歌われる「スーパースター!!」は自分達ではなく「街のどこか」で生まれる新しい夢を持つ人々へのエールで、他人事を歌うが故にかのんは「みんなそうスーパースター!!」と言い切ることができる。
大会後にアバンとの対比で学校に戻ってきたかのんを映した後、最後に卒業の文字にあわせて1期冒頭のかのんのルーツと言える台詞が映される。
京極尚彦監督の真骨頂と言える錯時的な編集がかのんの時間に大きな区切りを打ち、だからたまらなく寂しかった。
■『2.5次元の誘惑』EPISODE 05「初イベント終了!!」
脚本/吉岡たかを 絵コンテ/高田耕一 演出/金子篤二 作画監督/TripleA、无锡市樱花卡通有限公司、拾月動画、但伊楊、大暴龙、LIRAN 総作画監督/小野和美
コスプレをスポ根、とりわけ女性の自己表現として取り上げて描く原作の良さに、岡本英樹監督と吉岡たかを氏というラブコメの名手らによる語り口の妙がベストマッチを見せていて、今年とくに楽しめた一作だった。
名編は多いが、特に一番最初に衝撃を受けた話数を選出した。
高田耕一氏の絵コンテは脂が乗っていると言っていいほど巧みで、前回の厭味ったらしさから一転して解説役になるオギノやカメコ兄弟、モブのカメコ達の反応でリリサのリリエルの格を上げ、撮影される中でリリサの回想や内面を描写した上でオギノのカウントダウンにあわせて奥村へ向けたポーズまでの一連をエモーショナルに仕上げて見せた。
リリエルの一番良い表情までの「溜め」が効いていたのが何より良かった。一番良い絵を撮るためにカメラマンに必要なのは何より待つことだ、と言わんばかりである。
イベント後に更衣室で女性レイヤー達があるあるで盛り上がる「コスプレイヤー百物語」による緊張の弛緩と、彼女達の連帯感の見せ方も見事だった。
一旦オチがついたかと思わせてリリサでもう一回落とす、デフォルメも交えた軽やかなコメディにもまた桜井弘明監督やカサヰケンイチ監督らの下で仕事をすることも多い高田氏の絵コンテの魅力が表れている。
ほか、753♥の閉ざされた心がコスプレ対決で解き放たれていくのを圧巻のモノローグ劇で描くEPISODE 10「まゆら様VS753!!」、ノノアがリリサとの交流により自分の殻を破るEPISODE 15「明日の私へ」、キサキ先生と対話する奥村を榎木淳弥氏が熱演するEPISODE 21「主人公の物語」と、エピソードと語り口がとにかく充実していた。
■『最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。』第1話「ひとりの旅へ」
脚本/高山カツヒコ 絵コンテ・演出/山内重保 作画監督/葉増堯、清水勝也 総作画監督/李少雷
総監督とクレジットされていたため、今年71歳になろう山内重保がどこまで関わるかと気にしていたこちらの心配を吹き飛ばすような純度100%の山内重保フィルム。
原作での出生から村を追われるまでの冒頭を第2話以降にまわして、追放されたフェミシアが森を彷徨い、崖から落ちて水辺まで降りアイビーとして再生する足取りを追う、映像に重きを置いて精神的な旅を描き出す手腕には恐れ入るばかりだった。
白眉なのは、出会った崩れスライムに自分の身の上を語るアイビーがマジックバッグのことを話しているうちに徐々に涙声になり、顔を隠してそのバッグをくれた占い師が亡くなったことを告げる場面だ。
今は作画や撮影で凝った画面を作り出す作品は以前よりも増えたが、ひとつの場面の中でキャラクターの心情が移り変わっていくこの場面のような表現を見ることはほとんどなくなったと思わされた。
■『小市民シリーズ』第二話「おいしいココアの作り方」
脚本/大野敏哉 絵コンテ・演出/武内宣之 作画監督/西島央桐、豊田暁子、王渝、张曦萦、周俊杰、味增拉面、葛歓、たけうちのぶゆき 総作画監督/具志堅眞由
幾原邦彦監督作品を制作していたラパントラックは小説原作を手掛けるようになってきたが、神戸守監督を据えた本作は同作者の京都アニメーション制作『氷菓』ともだいぶ趣が変わっていて面白かった。
特に武内宣之氏が演出を手掛けたこの話数は、がさつなはずの健吾が残したココア作りの謎を巡って小鳩、小佐内、健吾の姉が台所で討議する馬鹿馬鹿しさが最高だった。ココアに牛乳を注ぐ作画が異様に凝ってるのもおかしい。
推理の間ケーキを食っていた健吾が、謎が解明された時には口の周りをチョコまみれにしている顔の出し方が素晴らしい。
ギョッとする顔をおかしく感じさせる、一見トリッキーだが観ている視聴者に何を感じさせたいかがまずある、演出のお手本とも言えるような見せ方だと思った。
■『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』第八話
脚本/赤尾でこ 絵コンテ/朝岡卓矢 演出/藏本穂高 作画監督/ごとうじゅんじ、神田岳、岩崎令奈、北島勇樹、岩立秀之、王家涵 総作画監督/岩崎令奈
2024年の事件の一つと言えば、『回復術師のやり直し』や『不徳のギルド』で職人監督ぶりを見せていた朝岡卓矢監督がその絵コンテの技巧を存分に発揮したことが挙げられるだろう。
中でもこの第八話は主人公の淡雪の同期かつアバターのキャラクターデザインを務めた絵師(ママ)である彩ましろ視点で淡雪への想いを語るドラマを情感たっぷりに描くスペシャルさがあった。
アバンの回転椅子で回る様を主観で見せるカットやBパートの新衣装を着た淡雪をイメージするカットなどでましろの主観ショットを印象づけて、布団を被って本音を語るましろと、同じく布団に潜り返答する淡雪に結実させる瑞々しい表現が素晴らしかった。
■『義妹生活』第6話「酢豚 と 雨」
脚本/山田花名 絵コンテ/上野壮大 演出/いとがしんたろー 作画監督/森本浩文、張昀、古池ゆかり、澤村享、いのうえりか、武藤健、植竹康彦、石川洋一、Rad Plus、reboot、スタジオCL 総作画監督/仁井学
2024年のもう一つの事件は、老舗のスタジオ・ディーン制作のライトノベル原作のラブコメと思えない表現を届けてきた上野壮大監督の存在だろう。
覗き見するように遮蔽物で画面を覆った引きの構図、長い間のある会話、トンネルの反響を活かす音響、アンビエントな劇伴といった要素は視聴者にながら見を許さず、両親の再婚で兄妹になった浅村悠太と綾瀬沙季の逡巡に目と耳を凝らさせる。
一見すると写実的とも言えるが、この第6話は豪雨の中で沙季の帰りを待つ悠太を長尺で生っぽく描きながらも、沙季と再会した時エレベーターに長時間留まり続ける非現実的な見せ方も選択して見せる。エレベーターでの二人を鏡に写し、兄妹のロールを取り繕う様をえぐり出す。
どこまでも視聴者に対して挑発的な演出をやり切る上野監督の豪胆さと老舗であるスタジオ・ディーン、原作サイドの理解は称賛したい。
■『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』episode.1「私を殺した婚約者」
脚本/待田堂子 絵コンテ/いわたかずや 演出/所俊克 作画監督/泉坂つかさ 総作画監督/今西亨、井上英紀
許嫁に婚約破棄され追放されたリーシェが旅の商人と出会い、職をつけて自立することを覚える様が女性主人公の活劇として面白く、それでいて6回の人生が戦争により20歳で幕を下ろす様を黒駒であっさり描くことで運命の重苦しさを表現する掴みが良い。
あっさり流した分、戦争の原因であるアルノルトとの出会いにしっかりと間をとり、リーシェの2回からの飛び降りに枚数を使ってスローモーションのように見せることでアルノルトにとって決定的な場面にすることにも成功している。
とにかくリーシェのしたたかさや行動力、殺陣もこなす強いヒロインぶりが楽しい作品だったが、この掴みがとにかく良くて第1話を選んだ。
『ARIA The ORIGINATION』第4話の絵コンテ・演出・作画監督・一人第一原画が伝説的な井上英紀氏が総作画監督として参加してアクションパートを担当していることでリーシェの立ち回りが妙に骨太なのも嬉しかった。
■『烏は主を選ばない』第13話「烏に単は似合わない」
脚本/山室有紀子 演出/児谷直樹 作画監督/永川桃子、朱世杰、今木宏明 総作画監督/乘田拓茂
1クール目に描かれる桜花宮で起こる騒動の決着編。
奈月彦によりあせびの無邪気な邪気や藤波の慕情の歪み、それらを取り繕おうとする宮の枠組みが暴き出される様を、3DCGの柱をナメて奥行きを出すロングショットや1コマ打ちの作画によって緊張感をもって描く演出が圧巻だった。
『ゆるキャン△』シリーズで知られる京極義昭監督だが、本作ではProduction I.G出身らしい硬質なレイアウトが一貫して決まっていて端正な画面が印象深かった。
また『BLEACH 千年血戦篇』など、近年のスタジオぴえろの盤石の制作力には目を見張るものがある。
ほか、出崎統監督の『おにいさまへ…』の「マリ子刃傷事件」すら彷彿とさせる第8話「侵入者」の白珠もまた素晴らしかった。
■『きのこいぬ』第8話「きのこいぬのかいもの」
脚本/大内珠帆 絵コンテ・演出/渚美帆 作画監督/佐々木睦美、堤谷典子、井本美穂、鴨田真由子 総作画監督/遠藤大輔
こちらも『ゆるキャン△』シリーズで知られるC-Station制作で、立山秋航氏のゆるくアンビエントな趣もある劇伴や間を効果的に使った作風は『ゆるキャン△』から引き継ぎつつも独自の味わいがあって楽しい一作だった。
ゆるいマスコットキャラであるきのこいぬが主人公だが、その飼主であるほたる達は比較的年のいった設定をしているのが特色とも言える。
このエピソードでは雑誌編集として特集記事を担当したばかりのこまこが3児の母となった同窓生と再会したり、中学生の娘を持つつばきが別れた夫と会ったりと、なかなか他で観られない人間模様が描かれる。
それも、こまこが親子連れを眺める様をやたら長い間で止めて見せたり、元夫を振ったつばきが米俵を担いで娘を迎えにきたりと、それぞれの境遇を笑い飛ばすような優しい視線の喜劇で描くのが何より良かった。
今年はまだ気に入ってる話数があり、10選には漏れたが以下もお気に入りに挙げておく。
■『ゆびさきと恋々』Sign.12「私たちの世界」
■『やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中』第6話「婚約相手に近寄る輩がいたので、返り討ちにしてやりたいと思います」
何とか年内に書き終えた……。
良いお年を!