海外でのダウン症出生前検査後の妊娠中絶率について
事実について述べるのみです。この件について特定の意見を表明するものではありません。
http://anond.hatelabo.jp/20130628194054
という、非常に素敵な、人間としての誠実な葛藤をとても素直に表現されている、ブクマもとても多くついていた文章について
海外で出生前検査をする理由は、生まれる前に障害の有無を確認し、もし障害があった場合は「生まれる前から準備をしましょう」っていうのが基本的な考えだと聞いた事がある(親の心構えとか、住居をリフォームするとか、コミュニティに参加するとか等々)。
http://anond.hatelabo.jp/20130629034708
というトラックバックがついている。ここから、海外では出生前検査をしてもあまり妊娠中絶をしないというふうに読み取ることが可能であるように思う。しかしそれは事実ではない。
ここで「海外」といった時「欧米」を指していると考える。それは、正確な出生前検査が提供され、かつ市民がそれを無理なく利用できる稼ぎが通常あるということを前提となると思われるからである。ある発展途上国で「出生前検査は国がお金を出すが中絶にはお金を出さない」としたとき、両親の考えとは関係なく金銭的理由から中絶は選ばないであろう。また、アメリカも医療費についてはいろいろ問題がある国なので、両親の考えが医療判断にストレートに反映されるという意味では基本的には欧州のほうがそうであろうと個人的に考える。
ここでは、最近技術的に可能になった血液検査ではなく、従来通りの羊水検査を含むダウン症スクリーニングについての調査結果についてご紹介する。
欧州での実際の出生前検査後中絶率は以下のとおりで、全体として90%弱が、出生前検査後妊娠中絶を選んでいると分かる。Boyd PA et al. (2008)*1から表4を引用、やや改変し日本語訳した。改変したのは、統計学的な指標(95%信頼区間)を除いたのと、今回の理由においては必要ないと思われたため、出生前診断が行われた妊娠週数を省いた。必要ならば、元の表は脚注から原文に行って参照できる。
国 | スクリーニング政策* | ダウン症患者総数 | 出生前診断数(%) | 妊娠中絶数(出生前診断数と比しての%) |
---|---|---|---|---|
デンマーク | A | 22 | 14 (64%) | 12 (86%) |
スイス | A | 60 | 57 (95%) | 52 (91%) |
ベルギー | B | 79 | 53 (67%) | 48 (91%) |
イングランド、ウェールズ | B | 652 | 429 (66%) | 325 (76%) |
フランス | B | 455 | 408 (90%) | 392 (96%) |
ドイツ | B | 36 | 23 (63%) | 22 (96%) |
イタリア | B | 536 | 380 (71%) | 352 (93%) |
クロアチア | C | 22 | 7 (32%) | 7 (100%) |
オランダ | C | 88 | 37 (42%) | 27 (73%) |
スペイン | C | 204 | 153 (75%) | 147 (96%) |
アイルランド | D | 130 | 7 (5%) | 0 (0%) |
マルタ | D | 24 | 0 (0%) | - (-) |
合計 | 2308 | 1568 (68%) | 1384 (88%) |
各国スクリーニング政策は、Aは全国で第1三半期*2にスクリーニング検査を提供。Bは全国で第1か第2三半期にスクリーニング検査を提供。Cは国家政策としてのスクリーニングはないが、なんらか行われている。Dは、スクリーニング政策なし。
また、国名として並んでいるものの国家規模のサーベイではなく、各国のある地域におけるサーベイのまとめである。
アメリカでの調査は、州別になっていて、あまりそこまで日本人として興味ないと思うのでレンジだけ示すと、Natoli JL et al. (2012)*3によると、地域集団ベースの複数の研究をまとめると67%(61-93%)が出生前検査によるダウン症診断後中絶を選んでいる。
もう一度繰り返すが、これは特定の見解を支持するものではない。
私がこれを書いたのは、件のトラバ文章において
まあ、因果応報ってわけじゃないけど、出生前検査をして障害があるようだったら産まない!っていう考えの人ほど、実際に子供が生まれて、その子が後天的に障害を負ってしまった時、乗り越えなければいけない壁がものすごく高くなるような気がする。
あと、男性で「検査で障害があったら産まないでくれ。でも産んでから後天的に障害を負った場合は、その時頑張るよ。」っていう人は、本当にその時が来たら、受け止めないで逃げちゃうんじゃないかなぁ、と心配になる。
という書き込みが後段にあったからである。
思想は個々人で自由であり、とくに出生前検査後中絶に倫理的問題がないとは到底思えず、社会的議論を喚起していくべきものであることは明らかだ。
しかしこのようなかたちで、今まさに妊婦である女性にプレッシャーを与えることは絶対にやめてほしいと思う。個人対個人としてぶつけるべき言葉ではない。
そしてこのプレッシャーに関して、冒頭文言がそれを補強する文章となっているのだと感じたので、その段落のある一定の読み取り方について、それができないことを示した。
誰も読んでないけど追記:いかなる理由があろうとも、妊婦さんにプレッシャーをかけるわけにはいきませんが、旦那さんがたにはプレッシャーをかけたい。私の妻はフランスで妊娠・出産しましたが、ご存知でしたか、「妊婦検診に来ているほとんどすべての妊婦さんに、パートナーの男性がくっついてきている」ことを!!マジびっくりですよ。なんか優しそうにお腹を撫でながら、検査で不安になっている妊婦さんを励ましてるらしいぞ。信じられないだろ。あれ、半数は結婚してないんだぜ(PACS)。いや僕行かなくてなじられましたけど。というかナースに「なんでダンナ来てないの?」みたいに言われたそうですけど。もしかするとフランスとの出生率の違いにこういうのも影響してるのかもしれませんぞ。安倍首相、森大臣、「妊婦検診付き添い休暇」の導入とかどうですか。フランス人はもともと有給を山ほど取れるのでそれで来ているらしい。 |